小田急電鉄の特急ロマンスカー「VSE」が引退しました。ロマンスカーといえば赤い車体がトレードマークでしたが、「VSE」はそれを一新する真っ白なそれでした。人気を博したとはいえ、なぜ色遣いが変わったのでしょうか。

運行期間は「LSE」の半分以下に

 ダイヤ改正前日の2022年3月11日(金)、小田急電鉄の特急ロマンスカーである50000形「VSE」が定期運行を終了しました。この車両は2005(平成17)年3月に運行開始し、17年間でその活躍に幕を下ろしたことになります。2018年7月に引退した7000形「LSE」が、歴代のロマンスカーで最長の38年間運行されたことを考えると、とても短いものです。


小田急電鉄の特急ロマンスカー「VSE」50000形電車。2022年3月11日をもって定期運行を終えた(2011年10月、草町義和撮影)。

 ロマンスカーにはいくつかの塗色パターンがありましたが、いずれも伝統色であるバーミリオンオレンジや、赤を基調としていました。対して「VSE」は「白いロマンスカー」。全面的に白を採用した「VSE」は、歴代ロマンスカーの中でも鮮烈な印象を与えたことでしょう。

 もっとも、「赤くないロマンスカー」として最初に登場したのは、1991(平成3)年にデビューした「RSE」こと20000形です。これはJR御殿場線との相互直通を主目的に、JR東海の特急形371系電車と基本設計を合わせ開発されました。「御殿場線方面にも行く」という区別の意味も込め、白と青(帯はピンク)の配色がなされたのです。

 一方の「VSE」は御殿場線へは行きません。新宿と自社沿線の観光地・箱根などとの輸送に特化した車両です。ではなぜ、それまでロマンスカーの特徴を決定づけていた「赤」基調を取っ払ったのでしょうか。

復活させた「展望席」と「連接台車」

「VSE」が登場する前、小田急の最新型ロマンスカーは1996(平成8)年登場の「EXE」こと30000形でした。「EXE」はロマンスカーの伝統だった展望席がなく、観光特急のほか日常の通勤輸送もこなせる汎用的な車両です。展望席を備えたロマンスカーは当時、7000形「LSE」と10000形「HiSE」が現役でしたが、いずれも20〜10年前の車両でした。

 この頃、ロマンスカーに強力なライバルが現れていました。2001(平成13)年に登場したJR線の湘南新宿ラインです。新宿〜東海道線方面を直通し、特急料金も不要。以降、ロマンスカーで箱根へ向かう利用客は低迷していきました。

 小田急は事態を改善すべく、次世代を担うロマンスカー車両を開発します。「VSE」です。伝統でもあった展望席と、ふたつの車体の間にひとつの台車を設けた連接台車を「HiSE」以来約20年ぶりに復活。乗り心地向上を図ったほか、高いドーム型の天井や眺望を楽しめる連続窓の採用など、車内の居住性も重視されました。

 カラーリングの一新はイメージ戦略といえるでしょう。「箱根路特急」の低迷期を経験した中において、「今までなかった真っ白いロマンスカーで箱根へ行く」という体験は斬新そのものです。もっとも、赤(バーミリオン・オレンジ)をベースとした帯を窓下に施すなど、ロマンスカーの伝統もしっかり継承されています。

削減された「箱根路特急」

「VSE」の運行開始後、新宿〜箱根湯本間でのロマンスカーの利用は大幅に回復しました。ちなみに「乗りものニュース」が2022年1月、「小田急の特急『ロマンスカー』で好きな車両」の読者アンケートを実施したところ、回答者941人のうち61.6%の人が「VSE」を選択、2位の「LSE」(47.7%)に差をつけてトップでした。人気の高さが伺えます。


小田急電鉄の特急ロマンスカー「VSE」50000形。2022年3月11日をもって定期運行を終えた(2009年10月、恵 知仁撮影)。

「VSE」の引退理由について小田急は「車両の経年劣化や主要機器の更新が困難になる見込みであるため」と説明しています。ダイヤ改正により、「箱根路特急」は平日・土休日とも7割ほどに削減されました。一方で通勤・帰宅時間帯の「モーニングウェイ」「ホームウェイ」は増発されています。新型コロナウイルスによる旅行控えもさることながら、前出の「EXE」が得意としたような通勤輸送のニーズは根強くあるのです。

 2020年代、展望席のあるロマンスカーはしばらく、2018年に登場した最新の70000形「GSE」のみとなりそうです。