イタリア対フランスによるドイツW杯決勝戦が行われた9日、1−1のまま突入したPK戦を5−3で制したイタリアが82年スペイン大会以来24年振り4度目の優勝を飾った。

試合は開始直後の前半6分、エリア内で胸トラップから突破を図ったMFマルダにDFマテラッツィが接触、アルゼンチン人主審エリゾンドは躊躇する事無く笛を吹きPK。司令塔ジダンが相手司令塔トッティの目の前でお株を奪う「クッキアイオ(スプーン=スプーンですくうようなチップキックでトッティの得意技)」を決め0−1。先制を許したイタリアは同19分、MFピルロの右CKに193cmの長身DFマテラッツィが頭で合わせ汚名返上の一発、1−1で前半を終えた。後半に入ってリッピ監督が動く。膠着状態の続いた後半16分、MFペロッタと司令塔トッティを外しFWヤクインタと4試合の出場停止から戻ったデ・ロッシを投入。同41分にはMFカモラネージを外し、切り札デル・ピエロを投入するも試合はお互い一歩も譲らず1−1のまま延長戦へ突入。延長後半5分、言い争いからジダンがマテラッツィの胸に頭突きをくらわし一発退場となるなど激闘の行方はPK戦にまでもつれ込んだ。

イタリア先攻のPK戦は4−3で迎えた5人目。今大会ラッキーボーイとして急成長を遂げたグロッソのシュートがネットを揺らした瞬間、イタリアの優勝が決定した。代表100試合目をW杯優勝で飾った主将カンナバーロがワールドカップを天に掲げ、1ヶ月に及んだ長い闘いが幕を閉じた。

アズーリ(イタリア代表)を支えたのは「結束」以外の何ものでもなかった。05−06シーズン終了前に発覚したカルチョ・スキャンダルがW杯を目前に控えたアズーリを突然襲った。前ユベントスGMモッジによる「審判操作」「粉飾決算」など過去最大のスキャンダルは名門ユベントスを筆頭にACミラン、フィオレンティーナ、ラツィオなどのビッグクラブを巻き込み連日トップニュースで報道される非常事態に陥った。W杯組織委員長ベッケンバウアーからは「スキャンダルの影響が出る」と釘を刺され、優勝候補アズーリは開幕前に一躍今大会のヒールに仕立てられた。代表監督リッピ、主将カンナバーロ、守護神ブッフォンまでもが事情聴取される大事件、アズーリの周辺には絶えず破裂寸前の空気が漂っていた。開幕前から続いたメディアからの集中砲火は開幕後も収まるどころか勢いを増しアズーリをじわじわと焦がし続けた。

2勝1分けの首位でE組首位突破を果たしたアズーリだが、休息はなかった。決勝トーナメント一回戦オーストラリア相手に終了間際のPKにより1−0辛勝した翌27日、元代表DFジャンルカ・ペソット(35=今季限りで現役引退)が11年間在籍したユベントス・クラブ事務所屋上から投身自殺。人一倍責任感が強く「プロフェッソーレ(教授)」の愛称で親しまれていたペソットの自殺未遂がアズーリからさらに笑顔を奪った。

度重なる不幸、逆境がアズーリをより強固にした。「優勝」以外は視野に入らないかのような集中力、精神力が準決勝で開催国ドイツを破る勝因となった。イタリアでは良い意味で使われることの多い「エゴイスト」がすっかり影をひそめ、代わりに「チームの勝利」を最優先する集団へと変化した。優勝という最高の結果にリッピ監督は溢れる涙を拭うためトレードマークの眼鏡を外さざるを得なかった。リッピ監督は試合後TVカメラの前で「ファンタスティックな選手達に感謝しなければ。選手達の精神力、闘志のお陰だよ。自分は幸運にもクラブ監督時代にリーグ制覇、欧州CL制覇を経験したが、W杯制覇は今までに味わったことのない感動が押し寄せている」と喜びを語った。

優勝回数を「4」としたイタリアは、ブラジルの「5」に次ぐ単独2位に浮上。かつて「世界最高峰リーグ」と謳われたセリエA所属選手のみで構成されたアズーリ、24年を経て名実共に世界一に返り咲いた。