ロシアによるウクライナ軍事侵攻にあわせるかのように、「世界の終わりの飛行機」とも称されるE-4B「ナイト・ウォッチ」が飛行しました。ただ見た目はジャンボ・ジェットことボーイング747そのもの。何が世界の終わりをもたらすのでしょうか。

「世界の終わり」は文字通りです

 2022年2月末、ロシアによるウクライナ軍事侵攻で、ロシア・プーチン大統領が「核兵器警戒態勢強化」発出した直後、アメリカでとある飛行機が訓練のためフライトしたと報じられました。同機は通称「Doomsday Plane」とも称されます。

 日本語訳例では「世界の終わりの飛行機」という、とてつもなくおぞましい異名。このため一部メディアでその動向が取り沙汰されました。この機はどのようなものなのでしょうか。


アメリカ空軍「E-4B」(画像:USAF)。

「世界の終わりの飛行機」ことアメリカ空軍のE-4B「ナイト・ウォッチ」は、「ジャンボ・ジェット」ことボーイング747-200Bベースの機体です。この機は有事のさい、大統領、国防長官、統合参謀本部といった国の指揮命令を下す人物が乗り込み、機内から各種命令を発出する、いわば「空中作戦センター」です。

 おぞましい“二つ名”の理由は、その機体設計にあるといえるでしょう。「世界の終わり」をもたらすであろう「核攻撃」から機体を守るべく、さまざまな改修が加えられているのです。機体の電装系統や通信のための各種機器などが、核爆発の際に発生する電磁パルスから保護されるよう特別な設計が施されているほか、核や高熱から機体を保護するシールドなども設定されています。

 747旅客機ならば通常客室となる1階部分は、アメリカ空軍の中枢となる指揮室、会議室、通信室、休憩室、記者会見室などが配置されているほか、床下の一部スペースは電子機器室になっており、通信アンテナの展開が可能です。なお同機は、無給油での航続時間としては12時間程度ではあるものの、機首のコブに設置された空中給油装置によりジェット燃料が補給でき、数日間は飛行を継続できるそうです。

 実は「世界の終わりの飛行機」、このE-4Bたちが“初代”ではありません。

初代「世界の終わりの飛行機」採用から今まで

 アメリカは東西冷戦下の1960年代、本土の地上にある軍の中枢機構が核の先制攻撃を受けることを想定し、当時のSAC(戦略航空軍団)の指揮を空中から実施することを目的に、ボーイング707/KC-135ベースの指揮所航空機、EC-135「ルッキング・グラス」をデビューさせました。これが、「世界の終わりの飛行機」の“初代”といえるでしょう。同機は11機つくられ、1961年2月から1990年7月まで24時間体制で空中警戒にあたりました。


EC-135(画像:アメリカ政府)。

 ただ、アメリカ空軍では、航続性能、搭載量、内部スペース、居住性(長時間任務ですから)などの理由からEC-135の能力だと限界を感じたようで、キャパシティが大きい「世界の終わりの飛行機」の後継機を選定します。結果発注されたのが、当時最大級の飛行機「747」をベースとした「E-4」でした。

 747をベースにした2代目「世界の終わりの飛行機」は、1974年にデビュー。747-200をベースとした初期タイプE-4Aから始まり、その後エンジンを強化した発展型の747-200Bが開発されたことにともなって、E-4Aでもエンジン換装を実施。1985年に現在のE-4Bとなり、現在に至ります。

 なお、広く情報開示が実施されているアメリカでさえ、この「世界の終わりの飛行機」E-4Bについての詳細情報はあまり発表されていません。ただ、必ずしも今回のような有事のときだけに飛んでいるというわけではなく、米国閣僚や長官の外遊の際などには、彼ら国の首脳を乗せ、横田基地に飛来したこともあります。

【映像】「世界の終わりの飛行機」機内へ潜入!(4分)