日本含め、戦闘機は複数機種を同時に運用するというのがスタンダードで、それにはもちろん理由がありますが、インドネシアの場合は事情が異なります。主力機として米露機を運用する同国が仏「ラファール」を購入する背景を紐解きます。

インドネシアが「ラファール」戦闘機の購入決定

 2022年2月10日(木)、フランスの主要航空機メーカーであるダッソー・アヴィエーションは、インドネシアが「ラファール」戦闘機42機の購入を決定し、うち6機の売買契約を同国と交わしたと発表しました。


フランス企業ダッソーの「ラファール」戦闘機(画像:ダッソー)。

 さらにこの発表の数時間後に、今度はアメリカの国務省がインドネシア向けのF-15EX戦闘機36機の輸出許可を発表しました。かねてから、インドネシアはF-15EXの購入に意欲を示していましたが、ただし、国務省による輸出許可はすなわち契約の成立を意味するものではないため、こちらがどうなるかはいまだ判然としません。

 一方で、インドネシアは以前から韓国が開発中の第4.5世代ステルス戦闘機KF-21の開発プログラムにも加わっており、今回の「ラファール」導入との関係も注目されます。

 韓国の主要メディアである中央日報の報道によると、日本の防衛装備庁に相当する韓国の防衛事業庁は、「ラファール」の導入とKF-21は全く別の事業としたうえで、インドネシアによるKF-21の開発および導入に影響はないとしています。実際に、2021年11月には両国間で問題となっていたインドネシアによる開発分担金の未払い問題に関して、その一部を現金ではなく現物納付とすることで最終合意に至っています。

波乱のインドネシアの戦闘機導入

 今回のインドネシアにおける「ラファール」戦闘機の導入は、インドネシア空軍が2024年を目途に進めている空軍戦力近代化の一環として位置づけられるものですが、実は、もともとインドネシアはこの戦力近代化において、ロシア製のSu-35戦闘機を11機、導入する計画を立てていました。それが今回のような運びとなったのは、これに間接的に待ったをかけた国があったからです。アメリカです。

 アメリカは、2017年に「CAATSA(アメリカの敵対者に対する制裁措置法)」を成立させ、これに基づき、ロシアを含むアメリカの敵対国と取引を行う国に対して経済制裁を課しています。これを鑑みたインドネシアは、Su-35をロシアから購入することでアメリカから経済制裁を受けることを避けるために、その導入計画を取りやめ、代わりに「ラファール」やF-15EXの導入を計画したというわけです。


F-15EX戦闘機は複座型(画像:ボーイング)。

 ところで2022年2月現在、インドネシア空軍は戦闘機としてアメリカ製のF-16を32機、ロシア製のSu-27とSu-30を合わせて16機、運用しています。そこへ、フランス製の「ラファール」および韓国と共同開発中のKF-21が今後、加わるわけです。

 これだけ製造国も機種もバラバラの状態での戦闘機運用は、パイロットの教育や整備などさまざまな面で負担が多いと考えられます。にもかかわらず、インドネシアがこうした運用を行おうとしているのはなぜでしょうか。

整備や訓練の効率悪そう…なぜ複数機種を運用?

 たとえば、日本の航空自衛隊でもF-15、F-35、F-2という3機種の戦闘機を運用していますが、これは、各機種の能力に基づく役割分担に加え、このなかの1機種がなんらかの理由で飛行停止に陥ってしまったとしても、そのほかの機種によって日本の防空をカバーできるという理由によるものと考えられます。


インドネシア空軍のF-16戦闘機(画像:アメリカ空軍/ロッキード・マーチン)。

 インドネシアの場合はその事情が大きく異なります。もともと、インドネシア空軍はF-5やF-16など、アメリカ製の戦闘機を数多く運用していました。ところが1999(平成11)年に、当時インドネシアが占領していた東ティモールでの深刻な人権侵害を理由にアメリカが経済制裁を実施したことで、部品の供給などが停止され、それら戦闘機の運用が滞ってしまったのです。そこでインドネシアは、将来的にこうした経済制裁による戦闘機運用への影響を抑えるために、複数の国から戦闘機を導入しているというわけです。

 現在インドネシアは、東南アジアにおいて影響力を強める中国とのあいだで対立を強めつつあります。そこで、同じく中国の動きを警戒するフランスから戦闘機を購入したというのは、今後のインド太平洋地域における安全保障を見据えるうえで、注目すべき動きといえそうです。