空飛ぶ“アジの開き”!? ボーイングじゃない異形のフランス飛行機「B763」とは A380の祖先かも
一般的に航空業界で「B763」というと、“いぶし銀”旅客機「ボーイング767-300」が連想されますが、フランスにはもうひとつ似たような型式の飛行機が実在。ただこちらは、かなり“攻めた”デザインをしています。
ボーイングじゃなく「ブレゲー」
一般的に航空業界で「B763」というと、多くの人はJAL(日本航空)やANA(全日空)などで長年“いぶし銀”の活躍をするボーイング社の旅客機、「767-300」の時刻表 表記などを想像するでしょう。しかし、実際そう呼ばれたかは別として、過去にはもう1機種「B763」と呼べる旅客機が存在しました。
この「B」はボーイング社の俗称ではなく、かつてあったフランスの「ブレゲー社」を指します。ただこちらの「B763」は、“トンデモない”形状をした旅客機です。
ブレゲー763(画像:Alan Wilson[CC BY-SA〈https://bit.ly/36M2mP1〉])。
民間用プロペラ輸送機「ブレゲー763」の特徴は、ズバリその形状。たとえるならば“空飛ぶアジの開き”でしょう。胴体が、上下方向にやたら広がった長方形の箱のような形状なのです。垂直尾翼の枚数も2枚というべきか3枚というべきか微妙なところで、左右2枚のものにくらべ、中央のものは舵がなく、尾翼というにはかなり控えめな大きさとなっています。
この「ブレゲー763」、一般的に「デュポン」と称される同社の輸送機シリーズのいち派生型です。この“アジの開き”のような垂直方向に長い胴体設計には、れっきとした理由があります。2階建ての客室をもつ「ダブルデッカー」機なのです。
「ブレゲー763」含む「デュポン」シリーズは、フランス製で初めてとなる2階建て客室を持つ飛行機として知られており、エアバスの総2階建て機「A380」の元祖的な存在とでもいえるのかもしれません。この機はどのように生み出されたのでしょうか。
実はブレゲー社は攻めデザイン機に定評?
いまでこそ、エアバス社の大成功により、安定感のある旅客機の設計に定評がある印象のフランスですが、実は「コンコルド」におけるイギリスとの協同開発はもちろんのこと、比較的数多くのパイオニア的な“攻めた旅客機”を多く生み出す地域でした。
そのなかでもひときわ異彩の放つ航空機を生み出していたのが、ブレゲー社です。同社はフランス航空史の重要人物のひとりであり、のちのエール・フランス航空につながる「CMA」を設立したルイ・チャールズ・ブレゲー氏により設立されました。
同社が開発した、“攻めた”デザイン機の代表的なものとして、フランス海軍向けの「アトランティック」哨戒機があります。当時としては珍しい、断面が“ひょうたん”のようなユニークな形の断面をもつ胴体設計など、「なんでこんな形になったの?」と言いたくなるような機体が存在しますが、機能を追求した結果ともいえます。
ブレゲー社は第二次世界大戦終了後、民間航空機に注力しますが、ここでも“攻めた”デザインは健在。1949(昭和24)年に、戦時中から100人乗りで中距離を飛べる旅客機として設計案が温められてきた「ブレゲー761」が初飛行します。いわゆる「デュポン」シリーズの先駆けです。
もう一つの「B763」その遍歴
初飛行後、「ブレゲー761」は、いくつかアップデートが加えられます、エンジンをフランス製のものからアメリカのプラット・アンド・ホイットニー社の名エンジン、R-2800「ダブル・ワスプ」に換装しパワーアップ。垂直尾翼も2枚から、中央に舵がない小さな翼をつけ3枚構成とすることで、安定感を高めました。こうして、冒頭の「B763」こと「プレゲー763」が生まれでき、1950年代初頭にエールフランス航空で12機の採用が決定。2階席に59人、1階席に48人搭乗でき、100人超を乗せることができました。
ブレゲー「アトランティック」哨戒機(画像:Adrian Pingstone/Public domain)。
エールフランスではこの機体を、旅客機として10年ほど運航。その後一部は同社の貨物機として、一部はフランス空軍に移管され輸送機として使用されています。とくに着陸装置の堅牢さには定評があったようで、砂漠を含めた未舗装の場所でも、安定的に着陸できる機体であったといわれています。
ただし、これらプレゲーの「アジの開きみたいな飛行機」は、シリーズ累計でも20機に満たずに製造を終了しました。なお、シリーズの“愛称”として知られる「デュポン」は、フランス語で「ダブル・デッキ」という意味を持ちますが、型式によって別の公称があり、たとえばエールフランスの使用したブレゲー763旅客型は「プロヴァンス」という二つ名を持ちます。
ちなみに、プレゲー「デュポン」シリーズのなかには、実現こそしなかったものの、実際に「767」という派生型も計画されていました。もうひとつの「B767」とも呼べるこの計画案は、イギリスに売り込むためにロールズ・ロイス社製のターボプロップ・エンジンを搭載したタイプだったとのことです。