日本で初めてのLNG燃料フェリーがついに進水しました。その名は「さんふらわあ くれない」。これまでの重油燃料の船と比べ、環境性能だけでなく、旅客にもメリットが多大だそうです。

瀬戸内海の超ビッグ船に

 建造が進むフェリーさんふらわあの新造船「さんふらわあ くれない」。その命名・進水式が2022年3月3日(木)、山口県下関市の三菱重工業 下関造船所で行われました。


進水したさんふらわあ くれない(中島洋平撮影)。

「さんふらわあ くれない」は日本で初めてとなる、LNG(液化天然ガス)を燃料とする大型フェリーです。LNG燃料船は貨物船では増えていましたが、旅客船では国内で初めてです。

 造船所の船台に載ったその姿は、とにかく巨大。全長は199.9mです。これは、瀬戸内海を夜間に航行できる限界のサイズまで大きくしたのだとか。バルバスバウ(喫水線下の船首側へ突き出た球状の突起)が建屋にあと数十センチで接触する、陸側ギリギリのところまで寄せられていました。

「『さんふらわあ くれない』と命名します」。この船が就航する大分県別府市の長野恭紘市長による命名式ののち、船をおさえていた支綱を切断。紙吹雪が舞う中、その巨体が勢いよく関門海峡へ滑り出していきました。

「くれない」は、フェリーさんふらわあの大阪〜別府航路に投入され、1997(平成9)年に就航した既存の「さんふらわあ あいぼり」が置き換えられます。「あいぼり」が9245総トン、全長153mなのに対し、「くれない」は1万7300総トン、そして全長は199.9mと、かなり大型化します。

「それでも、速力は22.5ノット(約42km/h)で現行船と同じです。むしろエンジンの馬力としてはこちらの方が小さくなっています。20年で船の省エネ化がかなり進みました」(三菱造船 北村 徹社長)

「くれない」は液体LNGをガス化し燃焼させて航行します。LNGタンクは2基搭載しており、大阪〜別府間を3往復できるそうです。なお、A重油も使用可能となっています。

環境性能は別次元!

「くれない」の最も大きな特徴は、その環境性能です。LNGを燃料とすることで、SOx(硫黄酸化物)をほぼ排出せず、NOx(窒素酸化物)とCO2(二酸化炭素)の排出量も従来より約25%削減されます。

「LNGフェリーについては2009(平成21)年から検討し、10年以上を経て実現に至りました。ただ、直近の約2年で、世界の環境への意識が急速に高まっています」(フェリーさんふらわあの親会社、商船三井 山口 誠執行役員)

 実は欧州などではLNG燃料の旅客フェリーが増え、人気を博しているそう。従来の重油燃料の船と比べ、臭いもせず、電気推進装置もあるので静粛性、快適性も増しているといいます。フェリーさんふらわあの赤坂光次郎社長も、「船体を大型化することで定員ひとりあたりの面積が広がり、パブリックスペースは2倍になります」と話します。

「さんふらわあ くれない」は2022年12月に竣工し、就航は2023年1月の予定。その3か月後には2番船の「さんふらわあ むらさき」もデビューする予定です。


進水したさんふらわあ くれない(中島洋平撮影)。

 ちなみに、「くれない」のルーツは、110年前に大阪商船(現・商船三井)が大阪〜別府航路へ投入した初代「紅丸」です。このときは石炭が燃料でしたが、1924(大正13)年就航の2代目「紅丸」は、当時の最新技術であるディーゼルエンジンを搭載し、ディーゼル船の先駆けになったといいます。

 そして今回、新しい動力源であるLNG燃料船として、「くれない」の名を冠した船が再び瀬戸内海へデビューすることになります。


※一部修正しました(3月3日14時58分)。