増える労働災害 要因や対策は
仕事中や通勤中に死亡やけがをする労働災害にあった人数が栃木県内では去年、過去10年間で最も多くなりました。
安全対策は喫緊の課題で、増えた原因はどこにあるのか、どういった傾向にあるのか、必要な対策は何かを考えます。
1997人。この数字は、去年県内で業務中の事故、労働災害により休業4日以上の死傷者の数で、このうち9人が亡くなっています。
1日およそ5.5人が労働災害にあう計算で、過去10年間で最も多くなっているうえ3年連続で増えています。
今年に入ってもその傾向は続き、先月末までに780人と去年の同じ時期と比べて172人、率にすると28.3%増え、増加のカーブは緩まっていません。
こうした状況を受けて栃木労働局は5月、18の商工団体などに労働災害防止運動への協力を緊急要請しました。
県内全域の企業を対象にした初めての取り組みとなります。
このような事態になってしまった要因と傾向はどんなところにあるのでしょうか。
栃木労働局健康安全課 井口惠貴課長:「従来型と言っている高所からの墜落・転落災害、建設機械との接触災害、製造現場におけるコンベアや回転物に挟まれ巻き込まれ災害が依然としてあるが、ハシゴや脚立からの低所からの墜落・転落であるとか滑った、転んだ、ひねった腰を痛めたなどの災害が増えている状況」
労働災害は労働者自らの行動による事故が多くを占めることが分かっていて、運動では「あわてず・あせらず・あなどらず」をキャッチフレーズに社内外問わず声をかけあうことを求めています。
また、就労構造の変化により60歳以上の高年齢労働者の増加したことも要因のひとつにあがっています。
栃木労働局健康安全課 井口惠貴課長:「年を取ってくると運動機能、下半身の筋力が衰えてくるのでバランスを崩すことが転倒につながりけがをする。認知機能の低下によって視野も狭くなったりするので、本来気付くちょっとした段差や凹凸に気が付かずに つまづいて転ぶといったことが多い」
さらに、労働災害の発生を業種別にみますと第3次産業が占める割合が増え、社会福祉施設、小売業、コロナ禍になる前の飲食店が増加傾向にあります。
栃木労働局健康安全課 井口惠貴課長「お客さんなどに対する安全を守る意識は高いが、労働者の安全意識や安全活動の関心は比較・相対的に薄い。安全性教育もなかなか行き届かない状況があって第3次産業が占める割合が増えるということで災害も増えてくる」
鹿沼市内で車の部品を製造する京浜精密工業の工場です。この工場では社員に安全衛生教育の実施や危険が潜んでいるような場所に掲示物を表示し「危険の見える化」を推進するなど 日頃から労働災害の防止に取り組んでいます。
京浜精密工業 吉川栄一取締役:「横浜で創業してまもなく不審火で工場が全焼し尊い社員の命をなくす事故を経験し、特に災害について非常に意識が強い」
創業時の事故を教訓に工場にはさまざまな事例が体験できる教育施設があります。施設名は創業地の神奈川県入江からとり名付けて「入江塾」です。
工場での勤務が50年を超えるベテラン社員の田辺文通さん(72)です。
田辺さんはこれまでの危険な体験をもとに入江塾の運営に携わってきました。
京浜精密工業 田辺文通さん:「社員はかけがえのない人材だから傷を付けてはいけない、負担をかけてはいけない、絶対にけがをしない職場を作ることを目指して聞くより見る方が頭に入る。見たより体験した方が本当に理解できる。体で覚えてもらうということで実際に恐ろしい体験を取り入れて作った」
年を重ねていく上で考えていかなくてはならないことがあるといいます。
京浜精密工業 田辺文通さん:「今までは何気ないことをやっていても危ない目にあわなかったが、年とともに身体能力が落ちてくるので自分のことを理解して取り組むことが重要」
京浜精密工業 吉川栄一取締役:「これからますます高齢化になると思うので年齢に応じた安全教育・安全指導に力を入れなければならない。全体で取り組む改善活動を通して社員が安全に働けるエイジフリーカンパニー、バリアフリーファクトリーを目指して工場の中で災害を発生させないという意識でこれからも取り組んでいきたい」