パブリッシャーの未来を創る、「GAFAな働き方」とは?:KADOKAWAが実践する DX 戦略
日本文化を支えるパブリッシャーの価値を残し、再生するには、やはりDX(デジタルトランスフォーメーション)が欠かせない。特にいまは、コロナ禍によってテレワークが普及し、国からの後押しもある。まさに、DX推進には絶好の機会といえるだろう。しかし、とりわけパブリッシャー業界は、スキルや経験値が属人化しやすく、標準化が困難だ。「データとデジタル技術を活用して、ビジネスモデルを変革し、競争上の優位性を確立すること」がDXだとしたら、それがもっとも難しい業界のひとつなのかもしれない。「『クールジャパン』などともてはやされているように、日本の文化は世界でもっとも多様性に富んでいると思う。それにもかかわらず、パブリッシャー業界は、DXが十分には進んでいないために、本来得られるべき収益をGAFAのようなプラットフォーマーに取られてしまっている」と、KADOKAWA Connected(カドカワコネクテッド)代表取締役社長の各務茂雄氏は語る。「我々が適切にDXするためには、各社独自の強みを活かしたうえで、利益を生み出し、ビジネスを継続できるメカニズムが必要だ」。日本マイクロソフトやAWS(アマゾンウェブサービス)などを経て、KADOKAWA傘下のドワンゴに移籍した各務氏は、ニコニコ動画のインフラ改革を行い、20億円のコストダウンを実現した人物だ。現在では、KADOKAWAグループ全体のDXを推進するために、そのバックエンドを支える関連子会社KADOKAWA Connectedで、現職に就いている。最近では、書籍『世界一わかりやすいDX入門 GAFAな働き方を普通の日本の会社でやってみた。』(東洋経済新報社)も上梓した各務氏。3月25日にザ・リッツ・カールトン東京で開催された「DIGIDAY PUBLISHING SUMMIT 2021」のセッション「パブリッシャーの未来を創る、「GAFAな働き方」とは?:KADOKAWAが実践するDX戦略」に登壇した。本稿では、そのサマリーをご紹介する。
KADOKAWA Connected 各務茂雄氏
DXの本質は「爆速経営」をすること
一般的に「パブリッシャーのDX」としてイメージされるのは、コンテンツの電子化、マーケティングや広告のデジタル展開、IDによるユーザーの囲い込みなどだろう。特に紙の文化に慣れている出版社にとっては、紙の書籍に電子書籍版が加わるだけでも、大きな進歩のように感じられるかもしれない。確かにそれも、デジタルビジネスをスタートしたという点ではひとつの成果ではあるが、当然ながらDXはそこで終わりではない。「DXというから電子書籍をつくってみたけれど、思うように収益があがらない。やはり出版にはデジタルは向いていないんじゃないか?」。ーーそんな感想を抱いたことがあるパブリッシャーの担当者は少なくないだろう。重要なことは、DXを進めるなかで得た知見をもとにPDCAを高速で回し「爆速経営」をすることだ。これは、パブリッシャーに限ったことではない。つまり、電子書籍であれば、トライアルで1冊を編集・配信し、その結果を見るだけでは意味がないのだ。マーケティングや購入者分析、制作フローの見直しなど、さまざまな過程で得られた知見をもとにPDCAを高速で回し、新たな施策に活かすことが大切なのである。「ビジネスモデルも体質も違うから、GAFAと同じことをやってはいけない。ただ、彼らが実行している『爆速経営』はやった方がいい」と、各務氏は指摘する。「日本の『慣習』を壊す必要がある」
もうひとつ、DXを推進するなかで課題となるのが、「DXをどこまで進めるのか」ということだ。当然のことながら、DXは施策によって、難易度や得られるリターンのタイミング・規模に違いがある。たとえば、「デジタルマーケティング」は、比較的簡単に実施でき、さらに、そこから得られた知見は長期に渡って活かせるが、短期的なマネタイズにはつながらない。一方、「個別課金」は導入も容易、かつ短期的なマネタイズも実現できるが、長期的な効果は未知数だ。また、ユーザーIDを活用した「CRM」などは、大規模なコストが必要になり、また短期的なマネタイズも期待できないが、長期的には自社の資産になりうる。
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「DXの推進には社内の多くの部署が関わることとなる。だが、DXのための負担や得られるメリットは、部署によってタイミング・規模ともに差があるために、当然、各部門はそれぞれの立場を主張し、部門間の対立も起こりうる」と、各務氏は語る。「この横つなぎはしんどいし、諍いも起こる。しかし、DXを進めるためには、それでもやらなければいけない。そのために必要なのが、廃すべき不要な慣習と残すべき価値を見極め、『組織、人、文化』『社内外の仕組み』を変えることだ」。たとえば会議ひとつをとっても、コミュニケーションツールでメンバーに連絡事項を伝達すればこと足りてしまう会議なら不要だ。しかし、事業の価値向上につながるようなブレストは、自由に行えるようにしておくべきだろう。そこでカギとなるのは、組織運営において、アーキテクチャーをどのように標準化するか、そしてその標準化を進めるチームをどのようにつくるかということだ。「グローバルなプラットフォーマーは、その変革を、継続的かつ徹底的にやる。彼らにこれ以上攻め込まれないために、日本のパブリッシャーもいままでの『慣習』を壊す必要がある」。重要なのはカスタマーサクセスの徹底
DXを推進するうえで、KADOKAWA Connectedで各務氏が徹底しているのは、「カスタマーサクセス」を追究することだ。ここでいう「カスタマー」とは、単に顧客のことではない。消費者であるコンシューマーをはじめ、コンテンツをつくるクリエイター、自社の従業員、ビジネスパートナーなど、自分たちにとって「カスタマー」であり得る人々すべてを指す。そのメリットを最大化できるようなカスタマーサクセスの仕組みをデジタルでつくりあげることが重要なのだ。そしてこの実現のためには、さまざまな部署がステークホルダーとなるため部門横断的な組織が必要になる。だが、そのような組織を立ち上げただけでは、スピード感のあるDXは実現できない。というのも、一般的な部門横断的な組織というと、「○○会議」のような名称のもとに集められた各部署の代表が、自部門の主張を繰り返すため、意思決定に時間がかかるからだ。さらに、責任の所在も不明なまま実行される施策も、中途半端に各部門の顔を立てたものになりがちとなる。その問題点を解決するのが、各部門の利益を調整するための「○○会議」のような会議体ではなく、「サービス型のチーム」だと各務氏は言う。サービス型のチームとは、仕事を「機能」と定義して、利用者に自分たちが提供する機能と品質を保証するチームのことだ。所属メンバーは、元の所属部門の利益代表ではなく、チームの目標達成に専念することになる。このようなサービス型のチームをつくることで「自分たちの責任の範囲、コミュニケーションの方法、ゴール」などが明確になり、合理的に動けるようになるという。
サービス型チームの作り方
