名古屋市千種区にある東山動植物園の掲示がツイッターで注目を集めている。

きっかけとなったのは、2020年10月1日に投稿されたこのツイートだ。

写真の掲示板には、「ムジナとは?」という見出しが付けられている。動物園などでよく見かける案内とは、少し様子が違っている。投稿には「法学部の学生なら絶対習う、たぬき・むじな事件についても掲示されてて面白いですね」というコメントが添えられている。

ダイニー(@dynee_morinaga)さんが投稿した、このツイートには、2万2000件を超える「いいね」が付けられ、今も拡散中だ(10月12日夕現在)。投稿者によれば、この掲示はタヌキ展示コーナーの前に掲示にあったという。

しかし、法学部の学生なら絶対習うという「たぬき・むじな事件」とは、いったい何なのだろうか。Jタウンネットは、投稿者のダイニーさんと東山動植物園に聞いてみた。

東山動植物園には、ホンドタヌキ、ニホンアナグマの2種がいる


「ムジナとは?」の掲示板  ダイニー(@dynee_morinaga)さんのツイートより

写真上の掲示板でも紹介されているが、たぬき・むじな事件は栃木県の猟師が、ムジナと思ってタヌキを捕まえ、警察に逮捕された、1924年(大正13年)発生の狩猟法違反の事件のことだ。

多くの地域ではムジナはアナグマのことを指していたが、栃木では、ムジナといえばタヌキのことで、タヌキといえばアナグマのことだったという。

そのため、この事件の裁判は「動物学者や判事を巻き込み、大問題に発展」(掲示より)。最終的には1925年、大審院において被告人に無罪判決が下された。

つまり「ムジナ=タヌキ」という事実を、被告は認識していなかった。そのため「事実の錯誤」が認められ、罪を犯す意思がない行為は、罰しないと判断されたのだ。

たぬき・むじな事件は、日本の刑法第38条での「事実の錯誤」に関する判例として、現在の法学部の講義でも引用されているという。――というように、法学徒にはお馴染みの事件が取り上げられていたため、この掲示にネット上で注目が集まったわけだ。

Jタウンネットが投稿者のダイニーさんに聞いたところ、この掲示は「名古屋市東山動植物園内、こども動物園日本ゾーン、タヌキの展示コーナー」に掲示されていたという。発見した時の感想を聞くと......

「生物学や生態学だけでなく、人間の営みとの関わりという視点からも解説がされており感心しました。これも文化的歴史的に日本人と接点の多いタヌキという動物ならではの見せ方だと思います」

と答えた。

次にJタウンネットは、東山動植物園管理課担当者に聞いた。


ニホンアナグマ(画像提供:東山動植物園)

――「ムジナとは?」の掲示板が設置されたのは、いつ頃だったのだろう?

「1997年(平成9年)に現在のホンドタヌキ舎が整備され、そのころから設置されたと思われます」

――「たぬき・むじな事件」の判例を紹介した意図、狙いは何だったのだろう?

「看板設置に関する記録は残っておらず、詳細は不明です。紹介の意図は、日本に生息する哺乳類で同じような動物に見えますが、タヌキ、アナグマはそれぞれ全く違う種であり、その違いを知ってもらうきっかけとなり、身近な野生動物への理解を深めてもらうことだと考えます」


ホンドタヌキ(画像提供:東山動植物園)

――掲示板への入場客の反響は?

「入園者から、この掲示への反応はあまりありません。今回話題になったことに驚きましたが、同時に身近なはずのタヌキやアナグマなのに、このようなことで反響があるのは、人との距離が離れてしまったからだと感じました」

SNSで話題になったことについては、「話題になったことで、興味をもってもらえると嬉しいです。身近な動物たちに目を向け、日本の自然や環境を考える機会にしてほしいです」とコメントした。

東山動植物園には、ムジナと呼ばれるホンドタヌキ、ニホンアナグマの2種がいる他、よく間違えられるハクビシンやアライグマもおり、その違いを見比べることもできるそうだ。

同じ穴のムジナなどと言わずに、比較してみてはいかがだろう。