物産館の支配人に「ファンレター」 岡山・刀剣の里の一人旅女性向け対応が、「審神者」のハートを鷲掴みにしてるらしい
「山鳥毛(やまとりげ。通称、さんちょうもう)」をご存じだろうか。
戦国武将・上杉謙信の愛刀と伝わる名刀で、鎌倉時代中期、備前刀を代表する流派「福岡一文字派」の最高傑作とされている。
人気のオンラインゲーム『刀剣乱舞』の審神者(さにわ)と呼ばれるプレーヤーなら、サングラスをかけたクールな「刀剣男士」を思い浮かべるかもしれない。
2020年3月まで岡山県内在住の個人が所有し、岡山県立博物館(岡山市)に寄託されていたが、備前刀の生まれ故郷である「備前長船」の地・瀬戸内市が、ふるさと納税などで募った資金で購入に成功し、話題となった。
9月10日からは、備前おさふね刀剣の里「備前長船刀剣博物館」(岡山県瀬戸内市)で開催されている「特別陳列 国宝『太刀 無銘一文字(山鳥毛)』」で、里帰り後の初展示が行われている。
この展示に関して、21日、次のようなツイートが投稿され、注目を集めている。
岡山の刀剣展示に際して観光課の人が「女性1人旅に対応!」と各所にとなえまくって1人向けの食事と軽食とお土産(個包装・食べきりサイズ)を充実させたの、感染症対策としても大きいけど、これまで「ちょうどいいのがない」と買わずにいた1人旅客の需要を掘り起こしててえらい。
— 槙(MAKI) (@maki_0) September 21, 2020
この刀剣博物館に隣接する長船ふれあい物産館(備前おさふね刀剣の里内)の、「女性1人旅に対応!」のきめ細かいサービスが、共感を集めているようだ。投稿者は1人向けの食事と個包装の土産物に関して、「これまで『ちょうどいいのがない』と買わずにいた1人旅客の需要を掘り起こしててえらい」と呟いている。
ツイッターには、こんな声が寄せられている。
「まじで。自分用に少量ずつたくさんの種類のお土産を買いたいのが本心。自分用に」
「1人旅の買う土産、『今これ食べて美味しかったしあっちも食べたいけど入らないから、後日自分で食べる用に』て需要があるんですよね」
「女性1人旅って、多分世の中的には一番蔑ろにされがちなシチュなのに、それを最重点にしてくださるなんて本当に素晴らしい」
物産館の「女性1人旅に対応!」を支持する声が、圧倒的に多い。
Jタウンネット編集部は、なぜこのような対応が実現したのか、長船ふれあい物産館に電話で詳しく聞いてみた。
女性1人旅をターゲットに、個食対応!
おにぎりの上に梅干しは、上杉謙信流だ(長船ふれあい物産館の公式ツイッターより)
長船ふれあい物産館支配人はまずこう答えた。
「女性1人旅を中心としたターゲットは絶対で、個食対応と、観光課担当者に厳しく言われております」
国宝の「山鳥毛」が故郷である瀬戸内市に帰ってきたことで、市はその対応を研究したらしい。『刀剣乱舞』ブームもあって、女性の来場者が多く、しかも1人旅が大半と予想したようだ。物産館で販売するお弁当やスイーツ、お土産なども、女性の1人旅を意識して準備したという。
シャインマスカット10粒入り400円(長船ふれあい物産館の公式ツイッターより)
「岡山はシャインマスカットが人気ですが、房で売るのは量が多すぎるので、10粒くらいをカップに入れて、400円で販売することにしました。これが好評でした。女性1人旅のお客様が何を喜んでいただけるか、いろいろなことを教えていただきながら、毎日精一杯やっております」
毎日の努力の成果か、「その場で食べるパフェ以外は『女一人でも』『旅の合間に』食べきれて荷物になりにくいのが有難いんだよね...おかげでいろんな種類を買ってしまった」などの声も上がっている。
支配人は同館の公式ツイッター(@osafune_sword)の「中の人」も担当しているが、ツイッターで発信するのは初めての経験だという。自分のスマホで写真を撮り、自分で考えた文章と共に投稿するのも、今までまったくやったことがなかったと告白する。
公式ツイッターとは、たとえばこんな感じのツイートを発信している。
本日も刀剣おにぎり弁当をご用意しております。買えなかったという声もあったので、少し多めに作ってもらいました。
— 長船ふれあい物産館【公式】 (@osafune_sword) September 25, 2020
おにぎりの上に梅干しを置いたのは、山の山頂てっぺんを取ると言う思いから、具を中ではなく上に置いています。これは上杉謙信公の食べ方なのだと、総料理長が作ってくださいました。 pic.twitter.com/Lb58D5n4pH
ツイートには、「中の人」の、謙虚で誠実な人柄がにじみ出ていると、ツイッター上では評判になっている。
同館で販売される商品には、上杉謙信の愛刀だった山鳥毛にちなんだ工夫が生かされているという。おにぎりの上に梅干しをのせるのも、その一つ。
別のツイートでは、刀匠ゆかりの地を訪ねる小さな旅も紹介している。「山鳥毛」を生んだ故郷とはどんなところなのか、興味をそそられる人も多いようだ。
備前長船刀剣博物館の目の前に、小高い丘がありますが、ここは刀匠の兼光屋敷跡と言われています。咲いている蓮もあわせてご覧下さい。
— 長船ふれあい物産館【公式】 (@osafune_sword) September 16, 2020
博物館が不便な立地にあると思われたかもしれませんが、昔からの刀匠ゆかりの土地があり、ここに建てたいと願った方々の意思があってこそ現在につながっています。 pic.twitter.com/wx7DX1gkMU
また、こんなツイートもあった。
本日もありがとうございました。
— 長船ふれあい物産館【公式】 (@osafune_sword) September 19, 2020
山鳥毛の里帰りのために集った人たちの楽しみの一助になれて嬉しいです。
売上も過去最高、私が小鳥さんからファンレターを頂くのも始めての出来事でした。山鳥毛さんではないのに恐縮です。
明日はイチジクが尽きてしまうので梨のパフェを提供する予定です。
地元産イチジクのソフトクリームパフェ 長船ふれあい物産館【公式】(@osafune_sword)のツイートより
ゲーム中で、「山鳥毛」は審神者を「小鳥」と呼んでいる。ツイートの「小鳥さん」とは刀剣乱舞のプレイヤーを指す様子。
ファンレターまで届くとは、長船ふれあい物産館は、審神者たちの心をがっちりつかんでしまったようだ。
物産館支配人の年齢は60代というが、初めて担当する公式アカウントの「中の人」に悪戦苦闘しているようで、運営については
「現在、ツイッター等では私どもに過分な評価を頂いております。これは本当に有難いと思うと同時に、事前の期待値が高いと、それを裏切った際の落胆にもつながります」
と、あくまでも謙虚に語る。「中の人」の好感度が上がる一方なのも、納得だ。
備前長船刀剣博物館での「山鳥毛」特別展示は10月4日まで。新型コロナウイルス拡大防止のために行われている入館予約は、既に定員に達しているという。
これから「山鳥毛」を鑑賞できる幸運な審神者は、物産館の「神対応」も体験してはいかがだろう。