絵本作家の西出弥加さんと光さん夫妻は、夫婦ともに発達障害という特性をもちながら、結婚。そして結婚から約1年の現在、別居中だと言います。
「この形が私たちにとっては理想だった」と語るその理由について、妻の弥加さんに教えてもらいました。


西出さん夫妻。左が光さん、右が弥加さん

発達障害夫婦が別居を選んだ理由。以前よりも関係が良好に



●夫と妻、同居が耐えられなかった理由

私たち夫婦は、妻がASD、夫がADHDという発達障害の特性を持っています。結婚当初は、順風満帆にはいきませんでした。その理由は、日常生活において「抜け」が多い夫と、細かいことにこだわりすぎてしまう私との相性にありました。

性格的には相性がバッチリで、喧嘩は一度もしたことがないのですが、物理的なところで苦しいことが多かったです。
たとえば一緒に暮らしていると夫のささいな抜けが気になります。掃除をしない夫に、掃除を完璧にしたい私が耐えられなくなってしまったのです。テーブルにゴミが置いてあるだけでもそうです。夫は悪気があるわけではなく、その特性から本当にちらかっていることに気がつかないのです。

そんなことはだれにでもあると思われるかもしれませんが、その「そんなこと」の予想の遥か上をいくADHDの抜けとASDのこだわりが私たちにはありました。
これは、発達障害における検査でも数値的に明確になっています。間違い探しなどで測る知覚統合のレベルを夫婦で診てもらったところ、私はIQ130ありますが、夫はIQ80。50の差がありました。平均はIQ100くらいなので、夫は「目で見た情報を理解することが苦手」なのです。


一方、私は視覚優位なところがあり、だからこそ絵も描けるしデザインも考えられるのかもしれません。
ただ、だれかと暮らすことにおいては難しく、私生活において夫の抜けがやたらと気になってしまい、絵の仕事が手につかなくなってしまったのです。頭の中は、いつのまにか「夫100:絵0」の状態になってしまった。夫が悪くないと思うたびに、うつ状態になって動けなくなりました。
夫のせいではなく、私が0か100の状態になってしまう性格だったからだと思っています。それに加え、私が家の中で仕事をするという特殊な形だったのも、原因だと思います。

当初は夫も不安定で、仕事をしてもすぐ辞めてしまっていたので、支えるには私も仕事をしなければいけない。でも仕事ができなくなっては本末転倒。そして結婚から半年で別居を決めました。私は私で仕事ができる部屋を探し、夫には別の部屋を。

●夫がひとりで暮らしていけるよう遠隔でサポート


夫婦が別居をすると聞くと、なんのために結婚をしたんだと、普通は思うかもしれません。でも、私たちは一緒にいることだけが幸せだと思っていないし、この無謀な提案に夫も同意してくれたから実現できたんです。

「さやかさんが幸せならそれでいいよ!」

私たちは暮らしの問題以外、一度も衝突したことがなく、この「一緒に暮らす」を手放すだけで関係がよくなったのです。夫は名古屋に暮らし、私は大阪に住んだのち、現在は東京で一人暮らしをしています。


コミュニケーションについても夫は必死で勉強

ただ、当初は生活能力が低い夫がひとりで住むことに不安があったので、妻としてサポートをしていかなくてはいけません。まず、夫には介護ヘルパーの資格を取ってもらいました。結論から言うと、これまで10日間しか仕事が続かなかった夫が、現在は訪問介護の仕事を7か月も続けています。

なぜ夫がここまで成長したかというと、名古屋に住む彼の近所の高齢者に声をかけ、彼を頼るような仕組みにしておいたから。これまで私に頼っていた夫が、今度はだれかに頼られる側になることにより、成長することになりました。
「世話される方から、世話をする方へ」
この戦略がぴったりハマり、夫は高齢者たちといい関係を築いて働くことにやりがいをもつようになりました。

●ADHDの夫に合っていたシンプルな暮らし


夫は脳みそのキャパシティがとても少ない部分があります。とくに前述した掃除などの視覚的なことです。
なので、「介護の仕事」だけを考えれるように、夫の生活空間を変えました。

それは、シンプルにすること。鍵がひとつのワンルームの部屋にし、窓もドアもひとつ、ものや収納も極力少なくするようにしました。それによって、抜けを減らす作戦に出たのです。


おかげで、暮らしという分野においてのハードルも下がった夫は、部屋をきれいに保つだけではなく、自炊をしたり、最近では植物を育てたりするようにまでなりました。つまり、キャパは自ら増やしていくほうが、いいのです。私が世話をするよりも断然いい結果になりました。

これまで夫のことで頭がいっぱいになっていた私も、自分の仕事に集中できるし、整理整頓好きなので、自分の空間も保てる。一緒に暮らしていたときは毎日夫のことを考えて寝込んでいたけど、今はお互いに生きやすくなっていると思います。

なぜ夫と喧嘩をしたことがないのかというと、非常に価値観が一致しており、かつ夫の一般常識IQが抜群に高かったからです。人の気持ちを理解できたり、物事を客観視する能力には長けていたからです。私は夫より30ほど低いです。このように、同じ発達障害の特性をもつ夫婦でも、得意不得意があるのです。もちろん、これがハマらない夫婦もいるけど、私たちには合っていました。

●私たちの結婚は「おり姫ひこ星婚」。別居している今のほうがラブラブ

別居とはいえ、なぜそんなに遠くに住むのか、と聞かれることもあるのですが、私たちは、正直会わなくても、とても満たされています。連絡は自然に毎日とっていて、文通したりLINEのやりとりも…まるで出会ったばかりの恋人同士に戻ったかのような状態が続いています。


コロナの影響もあり、リモートでなんでもできる時代になったことも私たちにはマッチしていました。家族として、給付金の申請に関しても忘れないようにリマインドメールを送ったり、指示書を送ったりしています。
今まで「完了」することが苦手だった夫は、私の親戚の給付金などまで管理するようになりました。そしてこの前、「結婚当初はありがとう」と、私が負担していた夫の滞納料金などを私の口座に振り込んできました。

成長を感じられると、私は本当にうれしくなります。


私たちの結婚はまさに「おり姫ひこ星」。今のほうが安定していて、幸せです。夫婦によってはいろいろなカタチがあると思いますが、私たちが大切にしているのは、お互いが生きやすいように生きること。相手が幸せそうに生きているという報告を受けるだけで、そばにいるように感じられています。

【西出弥加さん】

絵本作家、グラフィックデザイナー。1歳のときから色鉛筆で絵を描き始める。20歳のとき、mixiに投稿したイラストがきっかけで絵本やイラストの仕事を始める。2014年に『げんきくん、食べちゃうの?
』を出版、絵本作家デビュー。Twitterは@frenchbeansaya