ジム・ロジャーズ氏は「新型コロナ危機が去ったように見えても、史上最悪の危機が来る」と言う(写真:Luxpho (Takao Hara))

ファイナンシャルプランナーの花輪陽子です。今年に入り、私は新型コロナショック後を含めて2度、「世界3大投資家」の一人であるジム・ロジャーズ氏(シンガポール在住)にインタビューをし、5月8日にロジャーズ氏の著書として『ジム・ロジャーズ 大予測:激変する世界の見方(東洋経済新報社刊)』を緊急出版することになりました。天才投資家は、コロナで変わり果てた世界経済をどのように見ているのでしょうか。

世界が大不況に突入することは避けられない

「世界が大不況に突入することは、もはや避けられない。最大の理由は世界中の国が経済を停止させ、国境を閉じてしまったからだ」


日本でもついに緊急事態宣言が全国レベルに拡大され、多くの人が自宅待機を余儀なくされていますが、ロジャーズ氏や私が住むシンガポールでは、より厳格なロックダウン(都市封鎖)となっています。

集合住宅の共用設備の多くも封鎖され、必要最低限の食料を買い出しに行く以外は部屋から一歩も出られないほどです。買い物に行く際にも、社会的距離を確保できないと、罰則があります。

中国ではロックダウンが解除され始めていますが、それでも国境を以前と同じように開くには相当な時間がかかるでしょう。アメリカの金融当局や政府が次々と政策を打ち出していますが、新型コロナショックによってNY(ニューヨーク)ダウは3月16日、1日で2997ドルという史上最大の下げ幅を記録しましたし、4月に入っても20日にはNY原油先物価格が史上初のマイナスとなるなど、異常な事態が続いています。

ロジャーズ氏は、コロナ危機については、「過剰に反応しすぎている」としながらも、人々は実際に「恐怖」に支配されてしまっており、世界経済はパニック的な大混乱に陥っているのは事実だと述べていました。

「おそらく、株価は値下がりすることになる。50%、60、70%、いやそれ以上だろう。実体経済の落ち込みは、いずれ金融機関の破綻をもたらし金融システム不安を引き起こす。いつとは断言できないが、それは必ず起こる」

アメリカの景気拡大は10年以上続きました。今回の景気拡大は、過去最長でした。しかし、新型コロナウイルスによって正常な経済活動が困難となり、株価は「I」の字で急落しました。これほど早く、大きく相場が下げたことは初めての経験だと言います。

ロジャーズ氏は次の金融危機が過去最悪になる理由として、世界中の国が非常に大きな債務を抱えている問題を指摘しています。リーマンショックの時は中国が巨額の財政支出をする「余裕」があり、それによって危機を脱出することができました。しかし、その中国も今では大きな債務を抱えています。

中央銀行も無制限に債務を増やせない

アメリカの中央銀行のバランスシートは急拡大を続けています。しかも、今回のコロナ危機では発行企業から新発の債券を直接買うなどしており、「危機を深刻化させないためなら何でもやる」という姿勢です。日本でも日銀が追加金融緩和を行い、ETF(上場投資信託)や上場REIT(不動産投資信託)などを買い増しています。

こうした事態にロジャーズ氏は警鐘を鳴らします。「中央銀行も無限に債務を増やし続けることなどできない。いつの日か、必ず終わりが来る。ある日突然、相場参加者の態度が変わるときが必ずやって来る。その局面では、もはや誰も世界経済を救うことはできない。次の危機は『史上最悪の危機』になると見ている」

ロジャーズ氏は「破綻の連鎖は徐々に大きくなっていく」と言います。2008年のリーマンショックの際には、アイスランドやアイルランドが破綻しましたが、その前の2007年には米投資銀行のベアー・スターンズが巨額の損失を出したり、英国の銀行ノーザン・ロックが破綻するなど、すでに危機は起きていたのです。

今回の危機でも、すでに米中堅のシェール開発企業や豪州の航空会社が破綻しています。トランプ政権は巨額の資金投入で賢明に企業の破綻を避けようとしていますが、結局はいずれ大きな問題に繋がると言います。

現在は連銀もいっしょになって大量のお金を刷って、問題をもみ消していますが、金融危機はもう始まっているのです。そして世界中に連鎖する、と言います。

一時的に相場が上昇してもさらなる悪化を招くだけ

「世界の中央銀行は、なりふり構わずいろいろな対策を打っている。それが次のバブルを生む可能性がゼロとは言えない。事実、リーマンショックの際には「100年に1度の経済危機」と言われながら、その後、わずか数年で、それを上回る規模の新たな金融バブルがつくられることになった」

ロジャーズ氏は続けます。

「このような一連の誤った政策が奏功して、一時的には大きなラリー(上昇相場)が起こるかもしれない。アメリカの連銀だけでなく、世界各国の中央銀行が揃って金融緩和に踏み込んでいることも、それを後押しすることになる。世界の中央銀行は、これまでも大量のお金を刷ってきたにもかかわらず、今回の危機でさらなる量的緩和に踏み切り、さらに大量のお金をバラまこうとしている。それが結局はさらなる悪化を招く」

では、空前の危機のなかで、個人投資家はどのように行動するべきでしょうか。「皆が長期投資をしてETFを買えば老後は安泰」といった状況はもはや過去のものになってしまったのかもしれません。筆者も4月の上旬から個別株を買い始めていますが、ベア(弱気)相場では、銘柄による差が非常に大きく出ると思い知らされています。