酒類の宅配は「生活に欠かせないサービス」として、このパンデミックの時代に特にありがたがられるものになっている。そして、消費者行動が大きな変化を見せるなか、多くのスタートアップが、アルコールの宅配サービスをリードしようとしのぎを削っているところだ。

米大手調査会社のニールセン(Nielsen)によれば、不要不急の外出禁止令が出て以来、プラットフォームアプリを介した酒類の宅配は約250%の急増を見せているという。需要圧力の緩和に乗り出しているプラットフォームには、ソーシー(Saucey)、リザーブバー(ReserveBar)、ベーヴィ(Bevvi)などがある。

新型コロナウイルスの感染拡大が始まった3月中旬直後には、すでに酒類の宅配需要は急増していた。ドリズリー(Drizly)では、顧客単価の平均が通常より30%アップしており、売上は今年のこれまでと比べて3.5倍になっているという。需要急増はほかのサービスでも同様だ。先月、ミニバー(Minibar)への注文は約150%増加しており、新型コロナウイルスによる外出規制がはじまってから、ソーシーの売上は400%伸びている。

スピードと効率を打ち出す

こうした傾向を受けて、酒類宅配サービスを提供する各種プラットフォームが需要の波に乗ろうとしている。ただ、当然ながら売上は伸びているのだが、それと同時に各社が意識して調整しているのが、パンデミック収束後も顧客に引き続きサービスを利用してもらうためのマーケティング戦略だ。ソーシーの共同創業者でCEOのヴォーン氏によれば、食料品や料理のテイクアウトとは異なり、アルコール飲料はコモディティ化する傾向があるという。つまりほとんどの人たちは、お気に入りの店ではなく、お気に入りのブランドを持っているということだ。そのため、スタートアップとしては長く利用してくれる顧客ベースを作るのが難しい。だが、それでも各社は工夫をこらしている。

ロサンゼルスに拠点を置くソーシーは、ここ1年半のあいだに、シカゴ、ダラス、ニューヨーク市など、厳選した市場でサービスを展開してきた。「以前からニューヨークでもサービス展開してほしいという声は多かった」と、ヴォーン氏はいう。外出禁止令が出てからのマーケットの状況を見ると、消費者からの需要があることはいよいよ明白だった。

ただ、ニューヨークではすでに宅配サービスが飽和していることもあり、ソーシーのチームは、スピードと効率を打ち出して「市場に深く浸透する」ことを目指している。この数週間、ニューヨークの宅配サービスは大変な混み合いぶりで、配送遅延が多発している。皆が家にこもり、玄関先まで商品を届けてほしいと希望しているため、食料品の配達予定も数週間延期されているような状態だ。しかし、ソーシーはロジスティクスに注力しているため、大都市圏でもほぼ通常通りの時間で配達できると、ヴォーン氏はいう。サービス展開のタイミングで都市の交通量が激減していることも成功に寄与しており、需要急増のなかでも同社が掲げている「30分以内」という配達時間を守りやすくなっている。

マーケティングに関していえば、ソーシーはここ数週間で広告費を見直し、ペイドソーシャルと検索への予算配分を増やしてきた。Facebookでの顧客獲得単価は「ここ6年の10分の1」になっており、ソーシャルメディアのコンバージョン率は過去最高を記録しているという。しかも、コンバージョンから再購入につながる割合も高まっている。「初回購入から次の購入までの平均時間は、以前は約30日だったのが、1週間以内にまで短くなっている」とヴォーン氏は語った。

新しいチャネルのテストを検討

ニューヨークを拠点とするミニバー・デリバリーは、独立系ショップと提携してアルコール飲料のマーケットプレイスを提供している企業で、現在全国90の都市でサービスを展開している。同社の売上は3月11日以降、全体で149%増加しているという。

「しかも、毎日のように新しい酒屋が参入しており、参入希望の数は新型コロナウイルスのアウトブレイク前の7倍にもなる」と、同社CEOのリンジー・アンドリュース氏は話す。同氏によれば、4月第3週の時点で注文は全国で105%増加、新規顧客は571%増加しているという。

ミニバーとしては、現時点ではGoogle検索からのオーガニック流入が増加しているため、いまのマーケティング戦略を変更する予定はないという。ただ、需要が落ち着いてくることを見据え、リターゲティング広告への投資強化や、ダイレクトメールなど、新しいチャネルのテストなども検討している。

「今後数カ月で、自宅にいる人々にリーチできるようなマーケティングを強化する」と、アンドリュース氏は語る。現時点では、フルフィルメントに注力するほか、増大している問い合わせに対応するカスタマーサービスチームのメンバーを増やす予定だ。

「差別化を図る必要がある」

パンデミック収束後も酒類の宅配が定着するかどうかはわからないが、ある程度は必ず残るだろう。CBインサイト(CB Insights)のマネージングアナリスト、トーマス・シノー氏によれば、酒類はその日に飲む分として購入される傾向が高いという。いつの日か、社会的距離を保つ措置が解除されるときには、おそらくほとんどの人は店舗に立ち寄って酒類を購入するようになるだろう。ただ、そこにはどちらかというと、買い溜めしておく習慣があまりないこと、そして保管しておくスペースがないこと、さらには手数料や配送担当者へのチップなどを節約したいという思惑などが大きく関係している。

しかしヴォーン氏は、酒を店舗で衝動買いするという消費者の習慣は、この外出禁止期間中すでに変わってきていると主張する。「いまはコンバージョンが急速に伸びており、(この便利さを体験した人たちの)行動は変わらないだろう」と、同氏はみている。

「パンデミックが続く限り人々は宅配サービスを利用するはずで、そうなると利用される割合も上がってくるだろう」と、シノー氏はいう。同氏はまた、酒類宅配サービスを長期的に定着させるためには、外出禁止が解除された後のサービスを強化して、差別化を図る必要があると指摘する。その方法としては値引きやプレゼントなどの販売促進や、ポイントプログラムなどが考えられるが、すでに多くのデジタルブランドはこうした施策を導入済みだ。

リテンションを生み出すために

たとえばミニバーでは、カクテルのレシピや作り方などをサイトで提供している。これは実店舗に酒を買いに行っても手には入らない情報だ。同社はブランド紹介や家でカクテルを作る際のハウツーなど、このコンテンツをさらに拡充させていく計画だという。

一方、最高品質の希少なスピリッツのみを取り扱うリザーブバーでは、名入れやギフトに関するコンシェルジュサービスを提供している。また、ボトルを複数購入するとキャッシュバックが受けられるまとめ買いキャンペーンなど、時宜にかなった機能もリワードプログラムに追加済みだ。

こうしたデジタルサービスは、付加価値を提供し、顧客を長期的につなぎ止められるかどうかの鍵となっている。

お気に入りのテキーラを購入できる場所はいろいろあるわけだが、ソーシーのヴォーン氏がいうように「ロイヤルカスタマーになってもらえるかは、プラットフォームのスピードと信頼性にかかっている」のだ。

Gabriela Barkho (原文 / 訳:ガリレオ)