2018年11月に発売されたレクサスの新型UX(写真:トヨタグローバルニュースルーム)

レクサスはトヨタが展開する高級車のブランドで、1989年に北米で誕生した。その後16年を経て、2005年8月に日本国内でも営業を始めている。今では国内の営業開始から14年が経過し、レクサスも認知度を高めたといわれるが、その売れ行きはあまり伸びていない。


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2017年には最上級セダンのLSがフルモデルチェンジを行い、続いてLサイズセダンのES、コンパクトSUVのUXも導入されたことで、2018年(暦年)の登録台数は5万5096台となった。しかし2017年は4万5605台にとどまり、それ以前も4万〜5万台で推移してきた。

好調に売れるヒット車種が乏しい

この売れ行きではメルセデス・ベンツに負けてしまう。2012年ごろまではレクサスが優勢だったが、2013年以降は逆転され、メルセデス・ベンツが1年間に6万〜7万台を登録して上回っている。

直近の登録台数を比べても、2017年はレクサスが前述の4万5605台で、メルセデス・ベンツは6万8215台だ。2018年はレクサスが5万5096台で、メルセデス・ベンツは6万7531台となった。レクサスは1万台から2万台以上の差をつけられている。BMWも2017年が4万9036台、2018年は5万0982台となっており、レクサスはBMWにも追い越される可能性もある。

レクサスがメルセデス・ベンツに販売面で負ける理由は、まず好調に売れるヒット車種が乏しいことだ。メルセデス・ベンツCクラスは、セダンのほかにワゴンとオープンモデルのカブリオレも用意して、1カ月に1500台前後を登録している。VW(フォルクスワーゲン)ゴルフが1800台くらいだから、Cクラスは輸入車でトップ水準の売れ行きだ。

さらにEクラスも900台前後を安定的に登録している。メルセデス・ベンツはSUVをそろえて登録台数の上乗せを図りながら、セダンとワゴンが主力のC/Eクラスを手堅く売っているわけだ。

対するレクサスは、設計の新しいESとUXが1カ月に1000台前後を登録するが、ほかの車種はそれ以下にとどまる。UXは日本の市場環境に合ったコンパクトなSUVだから期待されたものの、実際の売れ行きは伸び悩む。レクサスでも内外装は上質とはいえず、市街地を走ると乗り心地も気になる(ステアリングホイールにまで細かな振動が伝わる)。

ESはワゴンなどを用意しないセダン専用車としては堅調に売れるが、販売店は一概に喜んでいない。

「LSは法人需要が中心になっている」

ある販売店によれば、「ESの売れ行きは好調だが、先代LSからの乗り替えも多い。LSは現行型になってボディを大幅に拡大したから(全長:5235mm 全幅:1900mm)、お客様によっては、ご自宅の車庫に入らない。その点でESは少しコンパクトだから(全長:4975mm 全幅:1865mm)、どうにか車庫に収まり、前輪駆動とあって後席を含めて車内も十分に広い。そこで先代LSからESに乗り替えるお客様が増えた。その分だけ現行LSは個人のお客様が減り、法人需要が中心になっている」という。

LSはレクサスブランドを代表する最上級車種で、人気車になるべき存在だが、ボディを拡大しすぎた。メルセデス・ベンツSクラスの標準ボディを上まわり、ロングボディとほぼ同じ大きさだ。広い駐車場を備える法人ユーザーが中心になるのも当然だろう。

そこで先代LSのユーザーがESに乗り替えると、レクサスの販売総数はあまり増えない。しかも現行LSの価格帯が981万4000円〜1680万5000円なのに対して、ESは580万〜698万円と安い。LSからESへの乗り替えは、販売会社にとって避けたいだろう。

また先代LSのユーザーにとっても、現行型が車庫に入らないために、グレードの低いESに乗り替えるのは不愉快だ。その結果、メルセデス・ベンツの販売店では「先代レクサスLSから、メルセデス・ベンツEクラスに乗り替えるお客様が増えた」という話も聞かれる。先代LSから同じレクサスのESやGSに乗り替えるのは抵抗があっても、Eクラスならメルセデス・ベンツだから納得するらしい。

つまり今でも「メルセデス・ベンツはレクサスよりも上級」と考えるユーザーが多いわけだ。

「車種の数」や「値引き額」に差

ちなみに先代レクサスLSには、全長が5090mmの標準ボディと、5210mmのロングがあった。それが現行型は1種類で、全長は先代のロングよりもさらに長いから、トヨタも日本のユーザーや販売店が困るのは承知していただろう。

このようにレクサスは海外を優先して商品開発を行い、結果的にではあるが、メルセデス・ベンツのほうがワゴンの設定を含めて日本のユーザーに適した商品をそろえている。これはレクサスとメルセデス・ベンツの販売格差が広がった決定的な要因だ。

車種の数も違う。数え方によっても異なるが、レクサスは11車種、メルセデス・ベンツは18車種をそろえる。さらに前述のように、CクラスやEクラスは1つの車種にセダン、ワゴン、カブリオレがあるから選択肢はさらに広がる。

値引き額も異なる。メルセデス・ベンツやBMWは、フルモデルチェンジが近づくなどモデル末期になると、メーカーが販売会社に日本法人を通じて販売奨励金を支給する。このお金を原資に値引きを拡大するから、高価格車になると、値引き額が200万円を超えたりする。

このような大幅値引きをすると、中古車価格が値崩れを起こして高くは売却できないが、大幅値引きで買ったら売却額が下がるのは当然だ。ユーザーはフルモデルチェンジ直前の車種を納得して購入できて、在庫も処分できるから登録台数を伸ばせる。

一方、レクサスは基本的に在庫を持たず、値引きにもほとんど応じないから売れ行きを伸ばせない。モデル末期になったら、値引きなどは柔軟に対応したい。

レクサスは店舗数も少ない。トヨタの販売店はトヨタ店/トヨペット店/トヨタカローラ店/ネッツトヨタ店の4系列を合計すると、全国に約4900店舗を展開する。対するレクサスは約170店舗だから、トヨタ4系列の3%にすぎない。

しかも出店は東京都、大阪府、愛知県などの都市部に集中して、1県に1店舗の地域も多い。

メルセデス・ベンツも全国に約210店舗と少ないが、正規販売店が乏しい地域では、レクサスと違って複数のブランドを扱う小規模の販売店が普及している。つまりレクサスはトヨタが展開する上級ブランドなのに「日本のどこでも公平に購入できてサービスも受けられる」トヨタの強みが失われた。トヨタが地域格差を生じさせてはならない。

このあたりをトヨタのレクサス担当者に尋ねると「ブランド構築のために店舗は増やさない」というが、顧客に不便を強いるのでは、ブランド構築以前の話だ。敷地面積の広いトヨタ店の一部にレクサスのコーナーを設けるとか、顧客の便宜を優先させて柔軟に対応したい。

レクサスオーナーズラウンジの問題

公平性の欠如では、些細な話だが、レクサスオーナーズラウンジの問題もある。レクサスの店舗では、顧客が待ち時間を快適に過ごせるレクサスオーナーズラウンジを用意するが、一般の中古車販売店でレクサス車を購入したユーザーには、車検や点検で訪れたときにこのスペースを利用させない。レクサスオーナーズラウンジに入れるのは、新車か認定中古車を購入したユーザーに限られてしまう。

一般の中古車販売店でレクサス車を買ったユーザーの共感を得られれば、次は新車を買う可能性も高まるだろう。それなのに「お客様はレクサス以外の中古車販売店で購入されたので、レクサスオーナーズラウンジはご利用いただけません」などと断るから、「中古車のユーザーはレクサスのお客様ではないのかっ!」と反感を買う。

些細なことでも差別をしてはならず、その対象になれば憤りを感じるのは当然だ。レクサスのやり方には、一般の中古車を買ったユーザーを冷遇することで、認定中古車と新車のユーザーを相対的に持ち上げる醜い魂胆が透けて見える。

これはトヨタが決めて販売店が守っていることだが、店舗によっては、レクサスオーナーズラウンジとは別にキレイな部屋を設けていたりする。中古車のユーザーは、そこに通すわけだ。机上の「レクサス・マスト」に縛られながらも、工夫を凝らしている。レクサスは顧客と販売現場の目線で、もっと素直になるべきだ。

「トヨタのレクサス」を目指せ

先ごろ上海モーターショーに、上級ミニバンのレクサスLMが出品された。この国内の取り扱いについて販売店に尋ねると「レクサスLMは、トヨタのアルファード&ヴェルファイアをベースに開発されたミニバンだから、レクサスの独自性が乏しく日本では売らないらしい。しかし仮に販売すれば、従来とは違う新しいお客様をレクサスに招き入れられる」という。


レクサス初のミニバンLM(編集部撮影)

ミニバンは日本のユーザーが育てたカテゴリーだ。今でも国内需要は根強いから、ミニバンの新型車を発売するなら、日本から始めるのは当然だろう。

最近はクルマ造りを海外と共通化するグローバル化が活発だが、必要とされるクルマのあり方は、国や地域によって大きく異なる。販売する車種から足まわりなどのセッティング、車名に至るまで、国や地域に応じて最適化するのが本来のあり方だ。マツダアクセラは、車名を海外と同じマツダ3に変えたが、その必要はなかった。

特に日本におけるレクサスの立場は、海外とはまったく違う。海外のトヨタ車は、1973年のオイルショックをきっかけに、低燃費で価格が安く故障しにくいことをセールスポイントに売れ行きを伸ばした。そのためにトヨタのイメージは高級車に合わず、プレミアムブランドのレクサスが必要だった。

ところが日本のトヨタは、1955年に発売された高級セダンの初代クラウンから普及を開始した。今ではパッソからセンチュリーまでそろえる総合自動車メーカーだ。従って元々国内市場でレクサスは不要だったが、メルセデス・ベンツやBMWの販売増加にストップをかけるため、2005年に国内で営業開始した。この目的をいまだに果たせていない。

レクサスを日本に根付かせるなら、トヨタブランドと同様、日本の顧客に合った車種とサービスを充実させるべきだ。そうすればトヨタ車からメルセデス・ベンツやBMWに乗り替えるユーザー(この数は相当に多い)をレクサスへ誘導できる。グローバルなレクサスではなく、日本のユーザーの心に響く、トヨタのレクサスを目指すべきだ。