夏の定番の「おつまみ」といえば枝豆。でも、ビールと合うのはどうして?

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夏の定番の「おつまみ」といえば枝豆

6月になり、暑さがジワジワやって来た。こんな時期にはビールをゴクゴク飲み干したい。

そして、つまみには定番の枝豆......って、ちょ待てよ。なんでビールには枝豆なのか? その真実に迫った!

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■枝豆は味だけでなく、触覚でも楽しむもの!

ゴクゴクゴク......。「ぷはー、うんめえぇ」。やっぱり、この時期はキンキンに冷えたビールが一番。そして、つまみには枝豆――。

夏の風物詩ともいえる「ビールと枝豆」だが、そもそも枝豆って、なんの豆だ? 青果を扱う東京・大田市場に聞いてみると......。

「枝豆は大豆ですが、分類としては野菜ですね」

なんで野菜なんですか?

「それは、農林水産省に聞いてみてください」

農水省に電話すると......。

「大豆を成熟しないうちに食べるのが枝豆です。大豆など乾燥したものは穀物になりますが、枝豆のように熟しきらず、水分が多い段階で収穫して食べるものは野菜に分類されます」

ということで、まずは「枝豆は未成熟な大豆で、野菜」ということがわかった。では、いつ頃からビールとの組み合わせが定番になったのか?

『「病気知らず」の体をつくるビール健康法』(幻冬舎)などの著書があり、ビールに詳しい医学博士で慶和病院院長の大川章裕(あきひろ)氏が説明する。

「1960年代の高度成長期に冷蔵庫が一般家庭に普及しました。また、ビールの価格も手頃になってきたことで冷えたビールを飲むことが一般化したんです。

一方、1960年代末から、過剰生産となった米の代わりに違う作物を作る減反政策が進められました。このときに比較的栽培の簡単な大豆を作る農家が増えて、枝豆がたくさん出回るようになりました。

ご存じのように枝豆の旬は6月から9月頃です。暑いときに冷たいビールと旬の枝豆がたまたまマッチしたんだと思います」

どうやら「ビールに枝豆」は、1960年代後半から始まったようだ。

でも、たまたま旬の時期が合ったからだけでは、ここまで長続きはしないだろう。夏が旬の食べ物は、キュウリやナスだってあるのだ。大川氏が続ける。

「大豆(枝豆)は『畑の肉』といわれるほど栄養価が高いんです。良質なタンパク質が含まれているかどうかを判断するアミノ酸スコアは、大豆が86なのに対して枝豆は92。

ビタミンB1、B2、Cなどのビタミン類も豊富です。ビタミンB1、B2は糖質・脂質の代謝を促すため、疲労回復や夏バテ解消に効果的。ビタミンB1とCはアルコールの分解を促し、肝機能の働きを助けます。

また、カリウムも多いので、取りすぎた塩分や水分を排出してくれる。オルニチンも豊富で、美肌や若返りに効果的な成長ホルモンの分泌を促進し、疲労回復機能を高めます。このオルニチンはシジミなどに多く含まれていることで有名で、肝臓の回復を促す効果があります」

枝豆をおつまみとして食べていると、疲労回復に効果があり、二日酔いになりにくい。

料理研究家の森崎友紀(もりさき・ゆき)氏も枝豆がビールに合う理由を解説する。

「夏は汗をかいて塩分が失われがちなので、塩がふられている枝豆が食べたくなるのでしょう。また、手を使ってプチッと押し出して口に入れるのもダイレクトに枝豆の触感が伝わってきて、おいしさを感じるのだと思います」

枝豆は触覚でも食べる楽しさを与えているというのだ。

触知覚メカニズムや心理物理学に詳しい名古屋工業大学大学院の田中由浩(よしひろ)准教授に、そのことを聞いてみると......。

「枝豆を押し出すためにサヤを押すという行動があり、それに対するある種の報酬として、枝豆が出たときに心地良い触覚の刺激があり、快感を覚えるのだと思います。『節度感』と言いますが、スイッチを押す感覚って楽しいじゃないですか。子供はスイッチをカチカチして遊びますが、そういった快感です。ちなみに枝豆の押し出しに近い遊びはプチプチ(気泡緩衝材潰し)です。

さらに、枝豆はその後、本来の目的の口に入ります。食べる目的に、心地良い触覚の体験がうまく追加されている事例だなと思いました。

食事は単に栄養を取るだけでなく、味覚や視覚、嗅覚などさまざまな刺激が含まれています。そこにプチプチできる触覚の楽しさもあるということで、枝豆が定番のおつまみになったのだと思います」

同じ大豆を使ったおつまみでも、冷ややっこと枝豆では触覚の楽しさが違うのだ。

では最後に、最強のおつまみ枝豆をおいしく食べるには、どうすればいいのか? 前出の森崎氏に聞いた。

「枝豆というと、たっぷりのお湯で塩ゆでする調理法が 主流だと思いますが、それだとビタミンB1、B2、Cなどの水溶性のビタミンが水に溶け出して、栄養価を損ねてしまいます。そのため最近は、枝豆に限らず野菜などは、少ない水で蒸す調理法が多くなってきています。

ですから、栄養価を損なわずにおいしく食べるには、枝豆の蒸し焼きをオススメします。これは時間もかからず、とても簡単です。詳しくはレシピを参考にしてください」

ビールと枝豆」の組み合わせ、それは「季節と健康と食べる楽しさ」が絶妙に重なり合った結果の賜物(たまもの)だったのだ。さあ、今夜もキンキンに冷えたビールと枝豆を楽しもう!

●森崎友紀(もりさき・ゆき) 
1979年生まれ。管理栄養士のほかに中医薬膳指導員、野菜ソムリエ、製菓衛生師などの資格を持つ

取材・文/村上隆保 撮影/村上庄吾