『潤一』志尊淳インタビュー|「全力で寄り添いたい」初の官能ラブストーリー作品で魅せる新境地──
『潤一』
志尊淳インタビュー
直木賞作家の井上荒野の連作短編集を原作に、映画監督の是枝裕和を中心に設立された制作者集団“分福”のスタッフである、北原栄治と広瀬奈々子が監督を務め、砂田麻美が脚本を担当、さらに「是枝組」には欠かせない山崎裕が撮影を手掛けたオムニバスドラマ『潤一』が、配信・放送に先駆け、6月14(金)より1週間期間限定で丸の内ピカデリーにて公開される。
妖艶な魅力で6人の女性を虜にしていく青年“潤一”役を務めているのは、ジェンダーの枠にとらわれず、数々の印象的なキャラクターを演じてきた志尊淳。
映画ランドNEWSでは、さらなる新境地を切り拓いた志尊に、オリジナリティあふれる役との向き合い方や、本作への想いを聞いた(取材・文:渡邊玲子/撮影:ナカムラヨシノーブ)。
──本作は、今年4月にカンヌで行われた国際ドラマの祭典“カンヌシリーズ”のコンペティション部門に出品されたことでも、話題を集めましたね。国際的な舞台でのお披露目、いかがでしたか?
志尊:カンヌに到着してすぐに“ピンクカーペット”を歩かせていただいたこともあって、まさに地に足がついていないようなフワフワした感覚でした。でも最近カンヌ映画祭のニュースをテレビで目にして、「あぁ、自分もあの場所に立っていたんだ」と思うと、どこか感慨深いものがありますね。
──現地ではどのような反応がありました?
志尊:僕のことを知らない方が圧倒的に多いので、上映前と後では皆さんの反応が全然違って面白かったですね。観た方たちがそれぞれ自分の意見を発信できる環境にあることが、とても素敵だなって思いました。印象的だったのは、『潤一』と同時に上映されたスペインのブラックコメディの中で、性行為があくまで普遍的なものとして描かれていたこと。性の描き方ひとつとっても、国や文化によってこんなにも受け止められ方が違うということに、改めて気づかされました。
──“潤一”を演じてみたいと思った決め手とは?
志尊:想像がつかないというか、一筋縄ではいかないようなところにすごく魅力を感じましたね。もちろん役を引き受けるからには責任も伴いますが、「この作品に全力で寄り添いたい」という気持ちでやらせていただきました。
──“潤一”はいろいろな境遇にある、さまざまな年齢層の女性を虜にしますが、志尊さんご自身は彼のどんなところに惹かれましたか?
志尊:“潤一”には、欲望の赴くままに動いている人物ならではの“危うさ”のようなものがあって、それが色気につながっているような気がしたんです。別に何かをしたいから生きているわけでも、生きるために何かをしているわけでもなく、あくまで自分が生きたいように生きている。掴みどころがなくて、どこか原始的なところに、誰もが惹かれてしまうんじゃないでしょうか。僕自身にはない部分が沢山あって、すごくうらやましかったですね。
──ちなみに、志尊さんが“色気”を感じる瞬間は?
志尊:見た目に限らず、何かの狭間にいるような人に対して「色気があるなぁ」と感じることが多いですかね。
──濡れ場を演じることに抵抗は?
志尊:作為的に作られたシーンでもないですし、脱ぐことに関しては何の抵抗もありませんでした。この作品においては、性的な行為はあくまで日常の延長でしかないんです。それを「誰かに見られている」といったような感覚も一切なかったです。現場で、カメラがいつ回っていつ止まっているのか、はっきりとは分からない雰囲気を作ってくださったというのも大きかったかもしれません。
──トランスジェンダーやゲイセクシャルの役柄を演じたことが、本作での役作りに生かされていると感じる部分もありましたか?
志尊:それは全くないですね。セクシャルマイノリティの役柄を演じるにあたっては、あくまでも「この人だからこう思う」ということでしかないんです。当然ながら人にはそれぞれに違う考え方があって、「女性だから」とか「男性だから」などということには縛られたくないとずっと思っていて。でも、だからこそ6人の女性が抱える孤独や葛藤については共感できる部分もありました。
──志尊さんご自身も“潤一”のように、相手によって柔軟に対応できるタイプですか?
志尊:意図的に変えるということではなく、会話を交わしていく中で、相手に合わせて自然と順応していくというか、変わっていく部分は絶対にあると思いますね。例えば、先輩の役者さんにしても「この人はきっとこういう人なんだろうなぁ」と思って、関わり方や距離の詰め方を意図せずに変えていることはあると思います。「あまり近づかれたくない」っていう人も中にはいらっしゃると思うので。
──となると、志尊さんも無意識のうちに、誰かを癒している存在かもしれないですね。
志尊:「癒して欲しい」のでしたら、いくらでも(笑)。僕に誰かを癒せる自信があるわけではないですが、人によって関わり方が違うというのはあると思うので。人との適度な距離感の掴み方っていうのは、どこか本能的に察知する部分でもあったりすると思うんですよね。
──『潤一』では、各パートごとに別の人格に入れ替わっているんじゃないかというくらい、彼は息を吐くように平気で嘘をつくし、もしかしたら本人はそれを嘘とも思っていないんじゃないかという気さえするんです。もはや一編ごとに異なる“潤一”を演じる感覚に近かったのか、それとも“掴みどころがない人物”として、一貫性を持って演じられたのか……。
志尊:それぞれの女優さんごとに違う“潤一像”を見せようとは全く意識していなかったのですが、「何を考えているのかよくわからない人物として役を生きる」という意味では、それぞれのシーンごとに、“潤一”という人物について、いろいろな捉え方で掘り下げていきました。
──具体的には、どんなふうに?
志尊:例えば、感情としては確実に怒って言っているであろうセリフであっても、あえて笑いながら言ってみたりとか。表面的な言葉だけに引っ張られないようにしようというのは、すごく感じていて。「悲しい」という言葉に引っ張られて、「悲しい」気持ちのまま演じてしまうと、きっとそこには1つの感情しか見えてこないと思うんですよね。
──なるほど。台本に書かれてあるセリフからその裏に込められた感情をも読み取って、それをお芝居に反映していくわけですね。“掴みどころがない人物”を演じる上で、ほかにも工夫されたことはありますか?
志尊:「こうするべき」といったことは一切考えずに、いま自分の目の前で起きていることや、その場で感じたことを大切にするように心掛けました。監督にも「その場の空気を大切にして演じてください」とおっしゃっていただいたので、できるだけ嗅覚を働かせて、相手との距離の詰め方を少しずつ変えたりしながら。
──是枝監督を中心とした制作集団“分福”のスタッフの方々との撮影においては、演技プランは志尊さんにかなり委ねられていたということですか?
志尊:いえ、皆で一緒に作っていく感じですね。まずは僕が思った通りに動いていく中で、「こっちの方がこういう風に見えるかもね」というふうに、一つ一つのシーンを作り上げていく感覚でした。
──試行錯誤しながら、徐々に“潤一像”が結ばれていく感覚だったんですね。役柄を通して、新たに得たことや見えてきたものはありますか?
志尊:“潤一”というキャラクターに関しては、結局最後まで掴めなかったです。きっと観た人それぞれの中には何となくイメージがあるとは思うのですが、“潤一”は型に当てはめられるようなキャラクターではないと思います。ですが、「全力で寄り添った」という想いは、僕の中に確かにあります。
──撮影が終わったときの感じ方が、どこか他の作品とは違ったりもしましたか?
志尊:どの作品にもそれぞれの感じ方はありますけど、『潤一』にはいつもと少し違った感覚がありましたね。撮影中も気持ちが落ちる時はすごく落ちましたし、あまり周りの人とコミュニケーションを取りたくないなと思ったこともありました。普段は「役に引っ張られる」ということはあまりないのですが、この作品に関しては「オンとオフの狭間」をあまり感じることがなくて。別に何をするでもなく、ただひとりでいる時間を感じていたかったりすることも、『潤一』の撮影中には結構ありました。
──今後やってみたい役はありますか?
志尊:「こんな役をやりたい」と考えた途端に、自分の可能性が狭まってしまう感じがするんです。きっと何かに「抵抗がある」っていうのは、「こんなふうには見られたくない」っていうのと同じことで、結局は自分のエゴなんじゃないかと思うんですよね。僕にとっては、それよりも「物語の一部として生きられる」ということの方が大事です。
──その考え方、とても興味深いです。
志尊:もう他人の目を気にするような時代ではないのではないかと思うんです。セクシャルマイノリティに対しての偏見も決してあってはならないと思います。それよりも一人の人間としてちゃんと向き合うことこそが大切なんだというのは、以前『女子的生活』という作品を通じて改めて感じたことでもあります。日常的に考えていることであっても、役を通じて再認識させられることが結構あったりしますから。
──なるほど。本日は素敵なお話をありがとうございました!
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— 映画ランド (@eigaland) 2019年6月13日
映画『潤一』は6月14日(金)より丸の内ピカデリーにて1週間限定上映/Amazonプライムビデオ、iTunes他にて6月26日(水)よりデジタルセル先行配信開始/ドラマ「潤一」関西テレビにて7月12日(金)25:55〜放送、放送終了後国内プラットフォームにて見逃し配信予定
(C)2019「潤一」製作委員会
取材・文:渡邊玲子/撮影:ナカムラヨシノーブ
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