東大生の「必ず伝わる説明の技術」が凄すぎた
どんな人でも「なるほど納得」と言わせる「説明の技術」とは?(画像:metamorworks/PIXTA)
偏差値35から奇跡の東大合格を果たした西岡壱誠氏にとって、「伝える力」が東大入試の最大の壁でした。
「説明が上手な人、相手の目線に立って話をすることができる人は、問題を解く能力が高い」と語る西岡氏。2週間で7万部突破のベストセラー『「伝える力」と「地頭力」がいっきに高まる 東大作文』でも書かれている「伝える力」について、新刊『“なぞなぞ"&“身近なテーマ"で楽しみながら「自分で考える力」を鍛える 東大ドリル』では具体的な問題を交えて紹介しています。
ここでは、「相手に確実に刺さる、わかりやすく伝えるコツ」について、解説してもらいました。
東大の試験で重視される「他者視点」
「ちゃんと説明しているはずなのに、伝わらないと言われる!」「うまく説明できたと思ったのに、ぜんぜん伝わっていなかった……」
こんな悩みをお持ちの方は多いと思います。というか、僕もずっとこの悩みに悩まされ続けていたので、この感覚はよくわかります。
自分の中ではすべて懇切丁寧に説明しているのに、相手から「え、意味わかんない」「何言ってんの?」と言われる悲しい体験を、僕は何度経験したかわかりません。
これは、「ある思考力」が欠けているから起こっていることかもしれません。相手の立場に立って物事を考える力、「客観的思考力」です。『東大作文』でもお伝えした「双方向性」ともつながるのですが、これは「他者視点」と言ってもいいでしょう。
東大は、この能力を非常に重視している大学です。相手の立場に立って文章を書ける人間でないと容赦なく不合格を食らってしまいます。たとえ受験生が答えをわかっていたとしても、それをきちんと説明する能力がないと0点になってしまう……ということが、けっこうザラにあるのです。
いったいなぜ、東大は「他者視点」を重視しているのか? そこには実は、意外な理由が隠されていました。
僕は東大生をはじめとする「勉強のできる学生」のことを、インタビューやアンケートを取って調査しているのですが、その中で見えてきたのは「説明が上手にできる人」「相手の目線に立って話をすることができる人」は問題を解く能力が高いということでした。
与えられた問題や目の前にある課題に対して、「他者視点」のある学生は必ず「ゴールから逆算」をします。とにかく目の前の問題を解こうと、あてずっぽうにいろんなアイデアや考えを発散させるのではなく、「いったい何が求められているのか?」「どうすればこの課題は解決するのか?」というゴールを見据えて物事を考えるのです。
これは、相手にわかりやすく説明しようとするときも同じことが必要と言えます。自分の中でわかりやすいと思うことをあてずっぽうに発信するのではなく、他者というゴールを見据えて、「いったいどういう説明をすれば相手に伝わるのか?」をしっかり考えることで、相手に伝わる内容をまとめることができる。
実は問題を解くのと相手に説明するというのは、同じ思考力を使っているのです。
というわけで今回は「ゴールから逆算した伝わりやすい説明」のやり方をご紹介したいと思います!
まずはみなさん、こちらの問題をご覧ください。これは、僕の新刊『東大ドリル』でも紹介している「説明力」を鍛える問題です。
問題
漫画『ドラえもん』を、ドラえもんを読んだことも見たこともない相手に薦めなさい。
みなさんだったらこの問題、どういう回答を作りますか?
「相手の経験」と「肩書」さえあれば伝わる!
STEP1:「相手が理解できるもの」を列挙する
例えばですが、こういう回答をしてしまったらアウトです。
よくない例
ドラえもんという未来から来たネコ型ロボットが出てくる漫画で、そのドラえもんの日常がとても面白いんです!
なぜこういう回答がダメなのかといえば、これはまったく相手目線に立っていないからです。だって考えてみてください。「未来から来たネコ型ロボット」って、想像つきますか?
おそらくドラえもんを知らない人はこれを聞いて、「ああ、4足歩行のネコの形のロボットが出てきて、そのネコがかわいくて面白いんだろうな」と考えるのではないでしょうか。そのドラえもんというキャラがまさか2足歩行だとは思わないだろうし、それどころかしゃべるとも思わないでしょう。「未来から来た」と言われても「だからなんだ」となってしまいかねません。
この回答は、ドラえもんを見たことがないのに「キャラのよさ」を理解してもらおうとしている時点で間違っているのです。だって、相手はその経験がないから、わかるわけがないのです。
だからまずは、「相手が理解できること」を列挙してみましょう。
ここで重要なのは「相手の経験」です。相手にその経験がないのなら伝わりませんが、経験していることなら伝わるはずです。
「相手の経験」に寄せれば「理解できる」ようになる
例えば、出産をすることがない男性に出産の苦しみを伝えることは不可能ですよね? 経験することがないから、その痛みを想像することしかできないはずです。
しかし、「ぎっくり腰の50倍痛いよ」「骨折の30倍痛いよ」と言われると、「そんなに痛いんだ!?」とわかると思います。「出産」は男性には経験できないけど、「ぎっくり腰」や「骨折」なら男性も経験できる。「相手が理解できること」というのは、「相手も同じ経験をしていること」から逆算してもいいのです。
だからこそ、『ドラえもん』も「相手も経験していること」を念頭においてオススメしましょう。「相手が経験していそうなこと」を探して、それを伝えるようにすればいいのです。
そう考えてみると、例えば本のキャッチコピーには「主人公に感情移入できる感動的な小説!」とか「ギャグが面白くて、めっちゃ笑える漫画!」とか、そういう言葉が並んでいることがありますよね。これは、そのキャッチコピーを見る人が「あ! 最近、感情移入できる小説を読んで面白かったんだよね。これも面白いかも?」とか「ギャグ漫画大好き! この漫画も笑えるんだ!」と、他の本を読んだ経験からつなげて理解できるからだと考えることができます。
「他の本を読んで経験しているような、本の魅力」
これなら、相手に魅力を伝える一助になるはずです。
また、「肩書」というのも実は有効になります。
例えば、「出産は、人間が感じる痛みの中でいちばん強いものだ」と言われたら、「それは痛い!」ってなりますよね。なぜなら、「自分もいろんな痛みを知っているけど、それよりも上の痛みなんだ!」と自分が経験した他のものと比較できるからです。
だから漫画で言えば、「1000万部も売り上げている、超人気漫画なんだよ!」とか「今勢いのある漫画の1位に選ばれたんだよ!」と言われたら「なるほど! それは読まなきゃ!」ってなると思います。なぜなら、「私が読んで面白かった、あの漫画よりも売れているらしい。それならきっと面白いはず!」と、自分の経験と比較できるからです。
「数字でわかる、他と比較できる肩書」
これも、魅力として相手に伝わるはずです。
STEP1
・相手の経験に沿って理解できるように考える
・相手が経験していないことは絶対に避ける
・肩書や数字を入れることで、相手にわかりやすくしてみる
これで「相手が何を理解できるか」ということが明確になりました。
「他の本を読んで経験しているような、本の魅力」と「数字でわかる、他と比較できる肩書」ですね。次はこれを、「自分の伝えたいもの」とつなげていけばいいのです。
ゴールから「逆算」して伝える
STEP2:自分の伝えたいものとつなげる
現状は「ゴール」が明確化した状態です。ここから先は、そこから逆算して「スタート」とつながる道を探していきましょう。スタートとゴールがつながれば、問題は解決です。
まずは「他の本を読んで経験しているような、本の魅力」について。
さて、「ドラえもん」の魅力とはどんなものでしょう? 読んだことのある人でも、「魅力」を問われるとすぐには出てこないですよね。
でも、よくよく考えてみるとあの作品ってドラえもんという「未来の世界のロボット」が出てくる「SF(サイエンスフィクション)」の作品なんですよね。
未来の世界の科学テクノロジーが登場し、現代に生きるのび太くんの日常の問題を解決してくれるからこそ、読んでいて「ワクワク」する、というわけです。『ターミネーター』でも『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でも、未来の話が出てきて「ワクワク」させられる作品というのは多いですよね。ドラえもんを読んでいなくても、この「ワクワク」は伝わるかもしれません。
もし今のような魅力を思いつかなければ、「他の本でどう魅力を説明しているのか」を探してみるのは非常にオススメです。他の本の帯や、有名な作品のキャッチコピーの中には、きっとヒントになる伝え方があるはずです。未来のことを取り扱った作品がどういうふうなキャッチコピーで紹介されているのかを調べて、「その言葉をこの作品に応用するならどうすればいいんだろう?」と考えてみればいいはずです。
次に「数字でわかる、他と比較できる肩書」ですが、これはもうドラえもんは鬼のようにたくさんあります。40年以上アニメが放送されていて、毎年のように映画化されている、大人から子どもまで楽しめるコンテンツ。時を超えて愛される、多くの作品に影響を与えた不朽の名作。それがドラえもんですよね。
このように、「何を伝えれば効果的なのか」というゴールから逆算して魅力を探してみる。この思考こそが、「他者視点」なのです。
STEP2
・相手が経験していることを、自分の伝えたいこととつなげて考える
・もしつなげられなければ、他の説明を調べて参考にしてみる
ここまでくれば、今作った「伝えたい魅力」を組み立てれば完成です。
STEP3:スタート(自分)とゴール(相手)をつなげたものを組み立てる
「読んでいてワクワクする」「未来のテクノロジーが出てくる」「40年以上アニメ化」「毎年映画が上映される」「不朽の名作」……これらを全部混ぜ込みつつ、わかりやすくまとめましょう。
ここでポイントなのは、「日常の話題をできる限り多くする」というものです。
日常の話題は最強の「理解のフック」
相手が経験していることを入れる大切さをSTEP1でお話ししましたが、身の回りのことや日常的に体験していることは、相手と自分の両方が共通の体験として持っていることだと思います。
これであれば、自分の体験に独りよがりになることなく相手に伝えることができるはずです。
ドラえもんで言うならば、「未来のテクノロジー」というのをもっと発展させて「日常の中で感じるささいな悩みを解決してくれる未来の道具が出てくる」という説明を考えることができますね。
これらを踏まえて、例えば僕がドラえもんをオススメするなら、こんな文章になります。
解答例
「未来のテクノロジーを使った、夢のような秘密道具が登場する作品で、読んでいてワクワクするよ! 日常の中である些細な悩みを、ドラえもんというキャラが未来の道具で解決してくれるんだ。ずっと昔から愛されている不朽の名作で、40年以上アニメが続いていて、毎年映画が上映されているんだ!」
……と、こんな感じです。これならきっと、「なるほど、1回くらい読んでみようかな」という気になるはずです。
STEP3
・相手の体験と自分の説明とをつなげ、それを文章として組み立ててみる
・日常の話題や身近なことをできる限り多く入れる
いかがでしょうか? 「ゴール」から逆算して考えることで、このように相手というゴールに刺さりやすい説明ができます。これとまったく同じ要領で、いろいろな問題に対してもアプローチすることができるようになります。
みなさんもぜひ、実践してみてください!