レクサス初のミニバン「LM」は、どんな車なのか
4月の上海モーターショーでお披露目されたレクサス初のミニバン「LM」(編集部撮影)
トヨタの「顔」の1つと言えるハイエースは1967年に登場した商用モデルだ。使い勝手のよさはもちろん、絶大な信頼性も相まって今や世界150カ国で販売される人気モデルとなっている。2004年に登場した現行モデルから商用メインとなったが、それ以前は乗用のワゴンも設定され、当時は「ワンボックス界のクラウン」と称されていたほどである。
東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら
そんなハイエースワゴンの末裔が「アルファード/ヴェルファイア」。その歴史を振り返ると、1995年に欧州の衝突基準を満たすためにセミキャブオーバー化された、欧州向けハイエースがベースの乗用モデル「グランビア」の事実上の後継モデルとして2002年に登場。2008年に登場した2代目はアルファードに加えて、よりイケイケなフロントマスクが与えられた兄弟車「ヴェルファイア」も登場した。
この頃から、押し出しのあるフロントマスクに広い室内スペース、そして豪華な装備などからファミリーユースのみならず、芸能人や会社役員送迎車などビジネスユースとしても幅広く活用されるようになった。
以前から企画があったレクサスのミニバン
そして2015年に3代目となる現行モデルが登場。開発コンセプトは「大空間高級サルーン」でミニバンではなく高級車の1つとして開発。エクステリアはアルファード/ヴェルファイアともに、より存在感を高めたフロントマスクやより豪華になったインテリア、さまざまなシートアレンジを採用。とくに最上級グレードの「エグゼクティブラウンジ」はリムジン顔負けの豪華&多機能シートを採用した。
トヨタの3代目アルファード(写真:トヨタグローバルニュースルーム)
先代で足りなかった走りの部分も大きく手が入り、高張力鋼板の採用拡大や構造用接着剤の導入によるボディ剛性強化、リアダブルウィッシュボーン式サスペンションの採用も相まって、快適性/操安性をバランスよく実現。さらに2017年のマイナーチェンジでは、内外装の変更やパワートレインの刷新(V6)、第2世代「トヨタセーフティセンス」の採用などで商品性をさらにアップさせている。
その人気は日本を超えアジアにも伝わり、右ハンドル圏内を中心に輸出されている。現地では超高級車並みのプライスタグが付けられたが人気はうなぎ登り。世界の名だたる高級リムジンと同じ扱いを受けるなど、日本以上のステイタスが与えられている。
となると、さらに上を求める人がいるはず。つまり、トヨタのプレミアムブランド「レクサス」のミニバンである。実は以前から企画は上がっていたが、なかなかGOが出なかったという。そんな中、カンパニー制が導入され、レクサスインターナショナルとして独自の商品戦略が進められるようになったことと、中国からの強いリクエストから開発がスタート。4月に開催された上海モーターショーでレクサスブランド初のミニバン「LM」がお披露目された。すでにさまざまな自動車メディアから第一報が報告されているが、ここでは詳細情報をお届けしたいと思う。
ベースはアルファード/ヴェルファイア……つまり、ランドクルーザー200系をベースに開発されたレクサスLXと同じ手法で開発が行われた。ちなみにチーフエンジニアの吉岡憲一氏はアルファード/ヴェルファイアのチーフエンジニアも担当していた人物である。
上海モーターショーでも特に注目されたレクサス「LM」(編集部撮影)
フロントマスクはレクサス最大サイズと言ってもいいほど巨大サイズかつメッキ使用面積の大きいスピンドルグリルと、より鋭い目つきのヘッドライトが大きな特徴の1つだ。これらのアイテムの採用に合わせてバンパーやボンネットも変更される。
サイドは大きな変更はないものの、金属加飾面積が増えたスライドドアやメッシュ形状のアルミホイールを採用。リアはコンパクトクロスオーバー「UX」を彷彿とさせる横に長いコンビランプとバンパーを採り入れるなど、アルファード/ヴェルファイア以上にきらびやかさがプラスされている。
ちなみにネット界隈では賛否があるようだが、ミニバンはスタイルでの変化が難しいので顔つきで差別化するしかないのが現実である。個人的にはクラウン的な表情のアルファード、ちょい悪なヴェルファイアとは異なり、一目でレクサスファミリーの一員とわかる和洋折衷のデザインは、思っていた以上にまとまっているような気がするのだが……。
最大のポイントは「後席」
インテリアはインパネ周りの基本レイアウトはアルファード/ヴェルファイアと共通だが、センターコンソール上部(モニター/レジスター/オーディオコントロール)やステアリング(LX/RXと同形状)はLMオリジナルを採用する。
最大のポイントが後席である。アルファード/ヴェルファイア同様3列シートの7人乗り仕様も用意されるが、注目はリアの空間を贅沢に使用した2列シートの4人乗り仕様だ。実はアルファード/ヴェルファイアにはトヨタモデリスタが架装を行う2列シート4人乗りのカスタマイズモデル「ロイヤルラウンジ」が用意されるが、LMはこれとは異なる独自のスペックが与えられている。
リアスタイル(編集部撮影)
専用シートは気持ちのよい座り心地と乗り心地を実現させる世界初採用の粘弾性ウレタンパッドを採用。パワーリクライニングやパワーオットマン、シートヒーター&ベンチレーションに加えて、LSと同様のマッサージ機能(20エアプラダー式)を採り入れた。
さらにアルファード/ヴェルファイアでウィークポイントとなっていたシート剛性/振動をシートバック振動吸収ダイナミックダンパーの採用とアームレストフロア直付けで解決。リアシートの位置はロイヤルラウンジより100mm後方配置することにより足元スペースも大きく拡大されている。細かい部分ではシートサイドリアエアコン吹き出し口やシート間コンソール収納(前面と上面)なども充実させた。
また、運転席と後席を仕切るパーティションもロイヤルラウンジの木材骨格に対してLMは金属骨格を採用。これに伴いカーテンシールドエアバッグは前後分割式となっている。パーティションのガラスは昇降のみならず調光機能も。ここには26インチ(ロイヤルラウンジは24インチ)のモニターや冷蔵も内蔵される。ちなみにオーディオもこだわっておりマークレビンソンの19スピーカー仕様(アルファード/ヴェルファイアは11スピーカーのJBL製)が搭載される。静粛性も非常に高くLSに勝るとも劣らないそうだ。
走りも本体部分は金属骨格のパーティションによるボディ剛性向上に加えて、ESで採用され評価の高いスウィングバルブ式のショックアブソーバーの採用により、走行性能/乗り心地ともにアルファード/ヴェルファイアに対してのアドバンテージがあるうえに、レクサス専用チューニングによって、「すっきりと奥深い走り」に仕上げられているそうだ。パワートレインは仕向け地に合わせて直4-2.5Lガソリン+モーターのハイブリッドとV6-3.5Lガソリンの2タイプをラインナップする。
日本のミニバン文化が与えた影響
ちなみに筆者は先日、大幅改良されたメルセデス・ベンツVクラスの海外試乗会に参加したが、華がプラスされたエクステリアやSクラス譲りの「ラグジュアリーシート」を採用したインテリア、ハンドリング/快適性のバランスと静粛性を引き上げた走り、充実した予防安全技術など、従来の商用車の延長線上から乗用車の一族への進化を感じた。
そのような印象を開発陣へ伝えると、「新型を開発する際に『トヨタ』を強く意識したのと、現地法人(日本/アジア)からのフィードバックを反映している」と。日本のミニバン文化が、あのメルセデスを動かしたということに正直ビックリした。
海外の富裕層にもウケがよさそうだ(編集部撮影)
さらにVクラスの試乗会のタイミングで、「レクサスがLMを上海モーターショーでお披露目します」というリリースが出ていたので、その情報を開発陣に伝えると、「それは知らなかった! もっと研究する必要がありますね」と話していた。
LMは2020年前半に中国/東南アジアで発売する。生産は「メイド・イン・ジャパン」にこだわりすべて日本(トヨタ車体)で行われるそうだ。残念ながら日本への導入は現時点では計画されていないが、タイ/インドネシアは右ハンドル仕様が用意されるので、技術的には難しくないはず。
個人的には新時代のショーファードリブン(運転手付きで後席に座るクルマ)としてLMが存在すれば、ドライバーズカーとして大きく変わったLSの価値が再確認される気がするのだが……。これもある意味「レクサスチャレンジ」の1つかもしれない。