LIXILグループの瀬戸欣哉・前社長兼CEOが、辞任の真相や創業家の潮田洋一郎氏との対立について語った(写真:今井康一)

住宅設備最大手、LIXILグループ(以下リクシル)がそのガバナンスのあり方をめぐって揺れている。

同社では2018年10月31日、社外から招聘した瀬⼾欣哉・社長兼CEOが辞任する人事を公表。後任には旧トステム創業家の潮⽥洋⼀郎氏が会長兼CEOに復帰し、社外取締役の山梨広一氏がCOOに就任した。

当時の会見で潮田氏は、瀬戸氏と経営方針をめぐる「認識の違いが最後まで埋まらなかった」と説明した。だが、瀬戸氏にとっては中期経営計画の初年度、しかも期中の辞任ということもあり、メディアや機関投資家は納得をせず、いらだちを募らせていた。

こうした状況を受けてリクシルは2月25日、外部の弁護士に依頼して行った調査の報告書要旨を公表。潮田氏が指名委員会に対して瀬戸氏が辞任する意向があるように説明したこと、瀬戸氏に対しては指名委員会の総意なので辞任するように促した事実を認定している(ただし、人事に関する取締役会の決議は有効とした)。

この報告書を受けて3月20日、海外系の機関投資家4社と、旧トステムと経営統合した旧INAX創業家の伊奈啓一郎氏らは、潮田氏と山梨氏の取締役解任を求めて臨時株主総会招集を要求。ガバナンスをめぐり、新旧経営陣と株主との間で異例の対立が続いている。(参照記事

4月5日には、それまで沈黙を守っていた瀬戸氏本人が緊急会見を開催し、自分自身を含む8人を新たな取締役に選任するように株主提案を行うと公表した。

渦中の瀬戸氏は何を思い、行動に打って出たのか。話を聞いた。

従業員から「辞めてほしくない」とメッセージ

――昨年の10月末にCEOを辞任する人事が発表された。今回、緊急会見を開催するまでの半年間、何をしていたのか?

会見でも話したが、(CEO辞任の)人事を受け入れたのはちょっと軽率だった。潮田氏がウソをついている可能性は考えなかった。賢い人であればゴタゴタを避けて、ほかの仕事を探すだろう。実際に誘ってくださる人もいたし、自分でも新しく会社を作ってもいいと考えた。

ただ、心残りだったのが従業員のこと。多くの人から「辞めてほしくない」というメッセージをもらった。それを読んでいるうちに、悪いことをしたなという思いが強くなった。機関投資家や株主、社内取締役の伊奈氏から「あなたは辞めるべきではなかった」と言われた。

ちゃんとしたプロセスで(執行役であるCEOを)辞めさせられたのならば、悔しくても次の道を選ぶ。ただ、正しくないプロセスでなされたことを肯定してしまうと、自分が従業員を裏切ることになってしまう。

辞任した後、最初にやったのは本当は何が起きたのかというプロセスの再確認だ。昨年11月の取締役会では、皆がだいたい何が起きたか共通認識を持った。中には「基本的にはまずいけれど、やってしまった以上、(人事を)変えないほうが会社は混乱しない」という意見もあった。

そこで調査委員会を開いて、プロセスを検討しましょうとなった。


瀬戸欣哉(せと きんや)/1960年生まれ。1983年、住友商事入社。2000年、工事・工場用間接資材のネット通販「MonotaRO」(モノタロウ)の創業に参画し、同社取締役就任。2001年同社代表取締役。2016年からLIXILグループの取締役(現任)、代表執行役社長兼CEO。2018年11月にLIXILグループのCEOを辞任。2019年3月末で同社代表執行役社長を退任した(撮影:今井康一)

株価が下落して、株主対策用に西村あさひ(法律事務所)の弁護士を雇っていたが、調査委員会の弁護士に起用されたのも同じ西村あさひの弁護士だ。株主対策は現在の執行部を守ることからスタートする。違う弁護士とはいえ、同じ事務所の中から選ぶのは、本当に公正中立な第三者なのか疑問だ。

実際、1月に出てきた調査報告書は僕のヒアリング内容を都合のいいように選択し、執行部に有利なものになっている印象があった。さらなる議論を経て出てきた2月の報告書は、本文にウソは書いていないが、内容的には「潮田氏の決断はしょうがなかった」という(ポジティブな)ストーリーを作っている印象を受けた。

「間違ったプロセスで選んだ人には辞めてもらう」

不満はあったが、一応ヒアリングの内容は書かれている。僕は西村あさひが作った報告書の全文公開を求めたが、会社としては執行部が作った要旨を出すことになった。要旨は本文と違うことは書いていないけれど、都合の悪いことは取り除かれている印象だ。

要旨は「(手続きに)問題あったが、改善するから許してください」という内容で、誰が責任を取るかは書いていない。それはおかしい。取締役会が機能しないのであれば、機関投資家が株主総会で行動に出るのは当然のことだ。

機関投資家が招集した臨時株主総会もそうだが、今回はガバナンスという手続きの議論の中で、まずは間違ったプロセスで選んだ人に辞めてもらいましょうということ。そこ(経営方針をめぐる対立と手続きというガバナンスの問題)を混同するとわかりづらい議論になる。

リクシルの指名委員会という(ガバナンスの)制度は間違っていなかったが、運用に問題がある。運用者を変えるために、自分で「組閣」しようと思った。

論理的には簡単だが、社外取締役は簡単に見つかるものではない。執行役を退任した4月1日から行動を起こそうと思い、3月27日から信頼できる友人に、僕を叱責できて、公明正大な人を紹介してくれといったらたくさんのリストが来て、わずか2〜3日で集まった。


4月5日、都内で記者会見し、「自身の取締役再任を求める」と訴える瀬戸氏。左は、旧INAXの社長で、伊奈氏とともに瀬戸氏の辞任に反対し、今回の株主提案に賛同している川本隆一氏(撮影:梅谷秀司)

女性で前最高裁判事の鬼丸かおる氏は、有名企業でも勤まる経歴なのに、「リクシルをいい会社にするために、助けになりたい」と言ってくれた。元アクサ生命保険会長の西浦裕二氏は、正論で会社の問題ある状況を直してきた人。彼も「僕はやりたい」と言ってくれた。元あずさ監査法人副理事長の鈴木輝夫氏は内部統制やガバナンスの専門著書がある。濱口大輔氏は前企業年金連合会運用執行理事で、資金運用の立場だが投資家の視点に精通している。

通常であればMonotaRO(モノタロウ)やリクシルに来てくれない人ばかりが来た。僕が彼らを選んだのではなく、彼らがこの事態を選んでくれた。

潮田氏は誤解を与える言動をした

――潮田氏の行動のどこに問題があったのか。

2つ大きな問題がある。1つ目は、僕に対しては「指名委員会の総意だから辞めてほしい」と言い、取締役会では「瀬戸さんはすぐ辞めると言っている」と伝えた。これは事実と違う、誤解を与える言動だ。

2つ目はなぜ後任のCEOに潮田氏が、COOに山梨氏が就くのか、という点だ。後継者を選ぶのに何の議論もされていない。指名委員会の委員長が「後任は自分だ」というプロセスを許し、(それに)取締役が賛成してしまった。

ガバナンスとは「株主のためになるようにしましょう」という仕組み。特定の人がこうしたいと思ったら、(そのとおりに実現)できてしまうのは問題がある。

――こうしたケースでは社外取締役の牽制機能が期待されている。

従来の監査役等設置会社では、ボスと部下の関係で議論もなく密室で人事が決まった。そういう「村の論理」ではなく、株主の論理で決められるように監督と執行を分けましょう、ということで指名委員会等設置会社ができた。

今回、社外取締役が理想どおりには機能しなかった。だけど、まったく機能しなかったわけではない。言いすぎかもしれないが、もし潮田氏が100%の影響力を持っていれば、最初から口裏を合わせて「瀬戸はダメだから辞めてもらった」とすれば、このようなことをする必要はなかった。

全員ではないが、それぞれの立場の中で良心に従ってやろうとした人もいる。社外取締役の中にも後から「やっぱりおかしいのではないか」と言う人がいたから、今回の問題が表に出た。ある程度良心はあった。

「1週間後に話し合いましょう」と約束した

――調査報告書では昨年10月19日、潮田氏との会食が取り上げられている。ここが転換点になった印象を受ける。

その内容こそ恣意的だと感じる。僕の理解では10月19日の会食は和やかな会談だった。少なくとも自分がクビになるような対立になったとは思っていない。

具体的なことは言えないが、持ち株会社のあり方や(売却を1度決めたが頓挫した)海外カーテンウォール子会社、国内シェアの考え方は説明すれば(潮田氏に)わかってもらえると思っていた。潮田氏を批判する気はないが、僕から見ると彼の考え方は現実的ではない。現実を知ることでもっと理解してもらえると思っていた。

僕は自分の意見は曲げなかったが、会社にとっても不利益にならない方法を潮田氏に話した。「そういう考え方があるなら、1週間後にもう1度話しましょうか」という話で終わった。もっと深く話せばわかってもらえる気がして、もしかしたら光が見えてきたとも思っていた。一緒にいた人も、最後に「2人とも、もう何年間かうまいことやっていけるよね」と話していた。これが10月19日(金曜日)のことだ。

その後、10月22日(月曜日)に取締役会があって、終わってから僕はイタリアに行った。10月26日(金曜日)の指名委員会が開かれているから、その間の火曜日から木曜日の間に何かがあった。少なくとも潮田さんの気が変わった。人の気持ちはわからない。食事のときには気持ちが変わっていたのかもしれない。

だから10月27日(土曜日)の朝、イタリアで(潮田氏から)電話をもらったときは、本当に青天の霹靂(へきれき)だった。来週話をしようということだったのに、「君、辞めてもらうことになったから。指名委員の総意なんだ」という。

――調査報告書には潮田氏との間で「従前から深刻な経営上の意見の対立」があったとある。それは、MBO(経営陣による自社買収)やシンガポールに本社を移転するということではないのか?

そこは答えられない。僕は取締役なので守秘義務がある。会社が不利益になるようなことは話せない。そういう議論があったかさえ、答えることはできない。

プロキシーファイトのつもりはない

――今後、この株主提案をめぐってプロキシーファイト(議決権争奪戦)はしないのか。

地上戦のようなプロキシーファイトをするつもりはない。理屈で理解してもらいたい。説明を求められるのであればどこにでもいく。説明をして理屈をわかっていただいて、すべての株主にとってよいことを理解してもらう。

――5日の会見でも「正しいことをする」ことを強調していた。リクシルはモノタロウより売上高が1ケタ大きく、買収を繰り返して複雑化している。創業家の存在など、複雑な組織はうまく機能するのか。

経営はロケットサイエンスじゃない。持っているリソースの中で差別化できれば利益率を上げられる。経営は方向を決めて、そこに持っていくのがリーダーの仕事だ。

一般的に、経営の方向を決める戦略性に天才を求めるが、実はここはそんなに大変なことではない。例えば自動車業界では、AIを使ってシェアリングのビジネスモデルを作るという方向性がある。ここは多くの人の想像から大きく外れることはない。

どうやって進んでいくか。エクゼキューション(実行)が重要だ。そのときにエクゼキューションしやすい会社かそうでない会社かで差が出る。皆が同じゴールを共有しながら、それぞれが正しく判断できるようにすること。それが「正しいことをする」というポリシーだ。

モノタロウはそれが言わなくてもできた。小さい会社で自分たちがちゃんとやらないと潰れるかもしれないということがあった。ビジネスモデルやゴールもわかりやすかった。

住宅設備業界もゴールはわかりやすい。そのゴールに対して、昔からのトステムやINAXのやり方には、部外者から見てまったく理解できない行動様式が残っている。それを取り除くことができれば、リクシルを経営していくことは可能だ。

――リクシルの経営は、あらゆる住宅設備を手がけているという多角さが強みだった

例えばサッシ事業は設備産業で、稼働率をあげるのがいちばんだ。値段を下げてもシェアを上げれば勝てた。今は成熟しているからその戦略はとれない。限界がくると、縦と横に(同業か周辺業界の買収に)成長を求めた。

今、住宅設備は日本で成熟産業だが、世界では非常に成長している。日本の縦にも横にも展開しているものを世界に持っていくことが正解かは、考え直さなければならない。