中学時代の松岡容疑者

写真拡大

「きゃーっ、助けてー」

【写真】容疑者のゴミ屋敷化した家、被害者のベランダを調べる捜査員

 女性の悲鳴が聞こえてきたとき、同じ敷地内に住むアパートオーナーの男性はすぐさま家を飛び出した。悲鳴の出どころを確認すると2階のベランダでもみ合いになっている男女の姿があったという。

「外に出たとき、携帯電話を持っていませんでした。女性は悲鳴を上げ続けていたので早いほうがいいだろうと思って、ちょうどその場で郵便局員も騒動の様子を目撃していたので、携帯持っていますか? と聞いて110番通報してもらいました」

 東京・杉並区のアパートで3月26日昼、乳児院に勤める保育士の照井津久美さん(32)が刺され、殺害された。

現場から逃げる男を目撃

 捜査関係者は、

「ベランダの窓ガラスの一部が壊されている状況があります。クレセント部分を壊し、侵入した。遺体は発見時、あお向けの状態でした。被害者の財布は被害者の使っていたバッグ内に残っていて、現金も入っていました。

 凶器は現場の包丁。司法解剖の結果、死因は刺し傷による失血死。致命的なのは背中左の傷による失血死だと思われます」

 乳児院での泊まり勤務の後、カレーショップで昼食をとり自宅に戻ってきた照井さんが見たものは、そこにいるはずのない、だが、よく知った顔だったに違いない。

 3月30日に殺人容疑で逮捕されたのは、照井さんと同じ乳児院に勤める保育士、松岡佑輔容疑者(31)。

 目撃情報は「年齢30〜35歳。身長160〜165センチ、ひざ丈の黒色のコートを着た男。髪は普通で耳が出るくらい。長髪でも短髪でもない」というものだった。

 現場から逃げる男の姿を、冒頭のアパートオーナーも目撃していた。

「(悠々と?)そうですね。ひとり、でした」

 事件現場は、西武新宿線下井草駅の南西約550メートルの静かな住宅街。不審者やストーカー情報などについても、

「まったく聞いたことはないですね。わりと静かな町ですからね」

 と、事件直後の近隣女性住民は怯えていた。

 そこからわずか1キロしか離れていないところに、松岡容疑者が暮らすアパートはある。いつから住んでいたのか、何人かの住人は、

「ここ1〜2年くらいだと思いますけどね」

 と松岡容疑者の顔を見かけた時期を、そう振り返る。

 同じアパートの住人は、松岡容疑者の挙動不審な行動にうんざりしていたという。

「壁やドアをドンドン叩いたり、大声で“うるせぇ、開けろ!”と怒鳴ったり、インターホンを何回も鳴らされました」

昔は穏やかな顔をしていた

 昨年12月くらいから、そのようなおかしな行動は頻繁に見られるようになっていた。

 別の住人は、松岡容疑者のだらしない日常を証言する。

「ベランダの仕切りが甘いので、少し顔を出せば見えるのですが、まぁ、汚いですよね。ベランダにゴミが散乱してるのが見えますから。室内からもゴミがはみ出していますからね」

 ゴミ屋敷状態の室内だったようだが、においについては「それは感じませんでしたね」と同住人は明かす。

 神奈川県内にある生家近くに住む70代の男性住民は、

「あそこの家は、昭和の初めごろからあって、このあたりではいちばんしっかりした、何事にもきちんとした家で、(家族の)みなさん人柄も朗らかなんです。彼も逮捕されたときはあんな顔ですけど、昔は穏やかな顔をしていました」

 両親と兄と4人家族。中学時代は剣道少年で、大きな防具入れを担いで通学していたという。地元の高校を卒業後、県内の短大に進学し保育士になり、約6年前、同じ乳児院で照井さんと同僚になった。

 松岡容疑者が、照井さんに好意を抱いていた、という報道もあるが、真相は不明だ。

 2人が勤務していた社会福祉法人カリタスの園理事長は、

《同じ職場の職員が被疑者として逮捕されたことで、私どもは再び強い衝撃を受けました。(中略)今回の事態は痛恨の極みです》と悲しみの深さを文書で伝えた。

 取り調べには「部屋には入ったが、ほかの男がやった」などと供述しているという松岡容疑者。

 照井さんの勤務シフトは、同僚ゆえ簡単に入手することができると思われ、自転車通勤していた照井さんの帰宅時間も推定できる。自身も事件前日と当日は休みのシフト。計画的犯行が透けて見える。

「アパートの屋根から被害者宅のベランダに下り、窓ガラスをバーナーなどで焼いて何らかの工具で割る手口で侵入しているところは、まるでプロの空き巣の手口だった」

 と全国紙社会部記者。

「だが、捕まったのは同僚だった。照井さんが不在ということは知っているわけですから、慌てずに窓を壊せる。帰宅までクローゼットで待機していて、非常に計画的に侵入したにもかかわらず、なぜか凶器は持っていないというアンバランス。それがどういうことなのか」(同・記者)

 本当の動機は松岡容疑者の供述を待つしかないが、全容解明には、まだ時間がかかるとみられる。