いすみ鉄道のキハ52とキハ28。全国のローカル線が大同団結すれば日本の鉄道はもっと面白くなる(写真:tarousite/PIXTA)

2009年から2018年6月まで、9年にわたって公募社長としていすみ鉄道(千葉県大多喜町・いすみ市)の経営に携わった鳥塚亮さんが、鉄道好きの少年からスタートしたのは想像の範囲だが、人生の多くを航空会社に籍を置き、航空業界にも精通している。多角的な視点から愛する鉄道を、また沿線地域を考え、現在NPO法人おいしいローカル線をつくる会を立ち上げて新しい活動を始めている鳥塚さんに、ローカル線の未来について語ってもらった。

いすみ鉄道のノウハウを各地に生かす活動

――いすみ鉄道社長からNPOの理事長と立場を変えて、今後どのような活動をしていくのですか。

「お金になること」をやらなければという一方で、「面白いこと」をやりたいなと。できれば、鉄道に関わる仕事で。


鳥塚亮(とりづか あきら)/1960年生まれ。大韓航空、ブリティッシュ・エアウェイズを経て、2009年にいすみ鉄道の公募社長就任。現在はNPO「おいしいローカル線をつくる会」理事長(撮影:尾形文繁)

ローカル線にとって、「鉄道は地域の足」であるのはもう限界だと考えている。地域内の交通手段として鉄道を維持し、経営を回していくことはできない。しかし鉄道を上手に使って外から人に来てもらえるようになれば、それが産業になり、地域がよくなり、有名になることで住民に誇りも生まれる。

2009年にいすみ鉄道の公募社長になった当時、観光列車を走らせる案を出したら、地域の議員さんたちから「観光なんて遊びだろう。税金を出して存続している鉄道を、遊びに使うわけにはいかない」と異論が出た。

それで、「あなたにとっての観光は遊びだろう。しかし、よその土地からいすみ鉄道に乗りにやってくる人は、前日にATMで1万円札を下ろして、お金を持ってくる。今は買うものがないからお金を落とさない。そこでどうすれば喜んでお金を払ってくれるような商品やサービスを提供するかを考えれば、新しい産業になるんだ」と説明するところから始まった。現在ならもっとスムーズに理解が得られただろうが、10年前にはまだ機が熟していなかった。

そうして実行したのが、ムーミン列車や国鉄型ディーゼルカーの車両導入、伊勢エビを食べられるレストラン列車などだった。このような取り組みによって、多くの人たちがやってきた。そこへ「こういう特産品がありますよ」と言って、いい商品を見せれば買ってもらえる。ローカル線を上手に使えば、地域はよくなる。

レストラン列車を始めた当初は初期需要があり、マスコミにも取り上げられたが、次第に需要が落ちてくる。そこでタイミングよくテコ入れする。5年ぐらいでテコ入れ効果が一巡したら、今度は車両を新しくする、コースを変えるといったさらなるテコ入れが必要になる。こうした経験はほかのローカル線にはなかなかないので、ほかの地域でも適用できるいすみ鉄道のノウハウを提供するような仕事をしていきたい。

コンサルタントのように報告書を出して「こうやってください」と言うのではなく、地域に入り込んでマーケティングや営業までする。それで集客して数字を上げたら、成功報酬として何パーセントかNPOの活動資金に入る。そんなビジネスモデルで、「面白い」と「稼ぐ」を実現させていけるといい。

ローカルに合わせたルールと運用が必要

――日本の鉄道の問題点は?


津軽鉄道のストーブ列車。客室内にダルマストーブが設置されている(写真:c6210/PIXTA)

鉄道の法律は基本的に1つだ。都市部や大都市間の鉄道は1分1秒を争うが、ローカル線が都会と同じようなスピードアップや安全対策を求められるのでは、「鉄道は重たいから要らない」となってしまう。

津軽鉄道ではストーブ列車が大人気だが、この列車では木造車両にストーブを置くことを認められている。これは、70年近く前に製造された車両には暖房設備がなく、ダルマストーブで暖を取ることが許されていたのを踏襲している。現在は、新しい燃えない素材の車両なのに、車両火災の経験などから車内では火が使えない。このような矛盾が起きている。地方で鉄道を活性化するなら、都市部とは違う基準で運用するやり方があるのではないか。

――ローカル鉄道存続のための資金はどう捻出すればいいでしょう。

第三セクターの鉄道は、建設から80〜100年経っているので、どうしてもテコ入れは必要だ。だが、沿線自治体が予算を組むのはもう限界。国もそこまでできない。それなら、民間が資金を出して経営するようになればよい。

例えば、これまではモータリゼーションのせいでローカル線がダメになったと、鉄道ファンの敵だった自動車会社が、ポンと1億円出して赤字分を引き受けたら、社会貢献する企業ということで株価も上がるし、クルマも買ってもらえるかもしれない。ローカル鉄道は大企業各社の奪い合いになるかもしれない(笑)。

――鉄道会社側で改善すべき点は?

例えば、車両整備の問題が挙げられる。A社が車両を7両持っているとすると、走っているのは6両。もう1両は、ほかの車両が検査で使えなくなる期間のための予備だ。検査の際は、車両をバラバラにして整備し、また組み立てるので、2週間から1カ月かかる。その費用は1両2500万〜3000万円かかる。

しかし、山手線の場合、車両が大量にあるので、前もって検査済みの部品を準備しておき、検査の際にはその部品に取り替えるので、2日もあれば終わる。

ローカル線はどこも同じようなディーゼルカーなどを使っているのだから、各社で連携すれば、それぞれの会社が1台ずつ余分な車両を所有する必要はない。各社共通の整備チームを1つ作って、そのチームがすべての会社の検査を担当すれば、高額な外注費を支払うより費用も抑えられる。それなら、全国に90ほどあるローカルの鉄道会社を1社に統合してしまえば、このようなスケールメリットを生かせる。

SLも共同で保有すればいい

――スケールの大きな話ですね。1社にまとめるメリットはほかにもありますか。

法律上、車両は会社ごとに登録しているので、別の鉄道の線路を走らせようとすると、あらためて登録し直すという手続きが必要だ。鉄道会社を1社にまとめれば、車両を融通し合うことができるようになる。


真岡鉄道は2つあるSLのうち1つの譲渡を検討しているとされる(写真:くまちゃん/PIXTA)

真岡鐵道が2台の蒸気機関車(SL)のうち1台の廃止を検討しているという報道があったが、確かに年間1台8000万円かかるという維持費は大きい。また、SLも長年通年運行していると、地元でもどうしてもマンネリになって、ありがたみも少なくなってくる。

しかしもし統合した1社で所有すれば、蒸気機関車とか国鉄型のキハとか、話題になる車両を季節やイベントなど、効果的なところを選んで年間5〜6カ所移動させながら運行することができる。

また、現状のローカル鉄道会社にはマーケティングや広報、営業のための人員を割く余裕がないが、これも各社で一本化できる。

90の本社が1つになり、90人の社長が1人になる。整備本部は本社に置いて、各路線には整備課長以下が常駐すればいい。そうすれば、現在各社に数十名程度ずついる職員も、仕事が重複する人員を適正に配置し直せるなど、大きなメリットがある。いきなり全国が無理でも、例えば九州の第三セクター鉄道6社を統合するというのは、実現可能なのではないか。

――いすみ鉄道を経営するうえで、大切にしていたのは何ですか。

社長就任の際の使命は、「いすみ鉄道を廃止にしない」ということだった。いすみ鉄道に限らず、鉄道は先代から受け継いだ財産。自分の代で終わりにしたら、笑われる。この財産は、時代に合わせた使い方に変えて、ちゃんと次の世代に渡さなければならない。先人がいるから、今がある。

社長としてやったのは、湿った薪に火を付けること。いろいろな方法を考えて、輸送手段としての鉄道ではなく、観光で火を付けた。薪は赤々と燃え上がって、地域の人たちが暖まった。

その過程では、地域の人たちも火の付け方を覚え、少しずつ燃え広がる楽しさも味わったはず。これからは、地域が自分たちで薪を探してきて火を絶やさないようにしていく段階だ。

いすみ市では、役所の若手職員が中心になって、「美食の街サンセバスチャン化計画」を進めている。港の朝市、イセエビ、真ダコ、いすみ米などの食材や食文化を、一層ブラッシュアップして「美食観光都市」にしようというプロジェクトだ。これには、期待して応援している。

「自動運転」の時代を見据えて

――鉄道はどう変わらなければならないでしょうか。


鳥塚氏はローカル線の活性化についてさまざまなアイデアを持つ(撮影:尾形文繁)

いすみ鉄道を訪れた電車好きのお父さんが子どもにキハの車両を見せて、「お父さんの小さい頃はこういうのが普通に走っていて、毎日乗っていたんだよ。ほらこれは栓抜きで、こうやって使うんだ」と鼻高々に言うと、息子が尊敬のまなざしで見る。そういう親子関係を作れるのが、鉄道。

だが今、若い人が鉄道を選ばなくなってきている。われわれの年代は、学生時代に周遊券を使って日本中を鉄道で旅していたから、まず鉄道を考える。しかし今は、ここからあそこへ行くというと、列車もバスも高速バスも車も、比較していちばん自分に合ったものを選ぶ。長い目で考えて、そこで鉄道が選ばれるようにしていかなければならない。

30年後には今よりも自動運転のシステムが整備されているだろう。「○○鉄道には運転士が乗っている列車が走っているんだって。見に行こう!」というような時代になっているに違いない。そういう未来も見据えて、ローカル鉄道はその価値をどこに置いていくのか、戦略的に考えていかなければならない。