今のままだと、海外のシェアリングに日本の公共交通が負けてしまう

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 広がりを見せるシェアリングサービスの中で、身近なのがやはり乗り物のシェアリング。ただ、高額な自動車をシェアしても、乗りたいときに乗れずに不便なのは困る。シェアリングの経済性と利便性を同時に手に入れれば、人口減少に悩む地方の交通インフラを代替できるのではないか。人工知能(AI)の第一人者で、公立はこだて未来大学教授の松原仁氏は、大学発ベンチャー企業の未来シェア(北海道函館市)を設立し、SAVS(Smart Access Vehicle Service)という新たな地域交通システムの構築に挑戦している。その狙いを聞いた。

 ー『鉄腕アトム』に憧れて工学の道に入ったという松原先生は、コンピュータ将棋やAIによる小説執筆など多彩な研究に取り組まれています。ビジネスとしてシェアリングに関わることになったのはなぜでしょう。
 「大学を出て、工業技術院(現・国立研究開発法人産業技術総合研究所)に入りました。そこの先輩だった中島秀之さん(現・公立はこだて未来大学名誉学長)が、AIのマルチエージェント分野の研究として、バスやタクシーの配車システムへの応用を考えたのが最初です。高知県で行なわれた実証実験を見学に行ったのですが、相対的に大都市よりも過疎地での評判が良いという結果でした。バスの台数が同じなら当然ですが」

 「2000年に今の大学に着任して、地方都市の公共交通が思っていた以上に疲弊していることを知りました。住民が流出し、乗客が減ってバス路線が維持できなくなる。すると暮らしにくくなるから、また住民が流出する。典型的な“負のスパイラル”ですね。その頃から、AIによる支援を社会実装できないかと考えるようになりました」

ラスト・ワン・マイルを担う
 ーシェアリングが注目されるよりかなり前ですね。しかしオン・デマンド(注文による配車)型のバスやタクシーの実験は、当時からあったように思います。
 「全国の事例を調べてみました。『利用の1時間前にオーダーしろ』とか、極端な例だと『前日の予約必須』とか、はなはだ使い勝手が悪いんです。しかも多くは国や自治体の補助金でやっていて、補助の期限が来ると終わってしまいます。これで続くはずがない」

 「あらかじめ路線を決めず、乗り合いを動的に実現する。予約された人数と行き先をもとに最適なルートで複数の人を移動させる。そうした方法なら“バスより便利でタクシーより安い”サービスが出来るんじゃないか。それがSAVSです」

 ー最近、注目されているMaaS(Mobility as a Service)のひとつの形と考えていいでしょうか。
 「MaaSは北欧から入ってきた概念で、自家用車を所有せずに必要に応じて移動をするという考え方だと思います。日本は鉄道網が発達しているから、中・長距離の移動を担うのは鉄道になるでしょう。SAVSは、駅から目的地や家まで移動する“ラスト・ワン・マイル”を担おうという構想なんです」

 「これをビジネスとして成り立たせるには、補助金ではなく乗客に頂く料金で会社を維持できるようにしなければなりません。SAVS方式では、オン・デマンド配車と乗合い走行を組み合わせて“乗客なし”の走行を減らし、かつ運行車両1台あたりの移送乗客数を増やすことを目指します。定期ルート運行や、カンと経験に頼る客待ち・客探しなどの従来の慣習は、改めてもらいます。スマートフォンのアプリなど最新の情報通信の環境を活用すれば、利用者もサービスを簡単に予約できます。利用者は移動の料金が安くなったと感じ、運営する事業者の合計の収入は増える。同時に効率が高まるから、渋滞緩和や二酸化炭素排出量削減などの環境にも貢献できる。そんな形を目指しています」