自治体が本気になれば国も動く
 ーどんなふうに進めてきましたか。
 「2012年ごろに、地元の函館で実証を始めました。最初はタクシー5台。次は10台に増やしました。2015年に、私が会長だった人工知能学会の全国大会を函館で開いた時には30台のタクシーで実験し、かなり良い結果が得られました。複数の客の要望を最適化するマルチエージェントの配車・運用技術はAIの研究としても成り立つし、実用化できると自信を得たのです。それで2016年に未来シェアという会社を設立して、SAVS方式の採用を自治体や企業に呼びかけることにしました」

 ー既存のバスやタクシーとの競合についてはどう考えますか。
 「どちらとも違う方式だから、両方がライバルといえるかもしれません(笑)ただ、既存のバスやタクシーの会社を打ち負かそうなどとは思っていません。国も自治体も『今のやり方では地方公共交通はダメになる』と認識しているはずです。それを打破するには、まず現実に苦しんでいる自治体に変わってもらいたい。自治体が本気になれば国も動くし、そうなれば企業も相次いで参入してくるでしょう。今のままだと、海外のシェアリング事業者に日本の公共交通が負けて、乗っ取られてしまうのではないか。そういう危機感を持っています」

[https://www.magazine.mlit.go.jp/interview/vol2-b-2/{松原仁氏インタビュー 後編はこちらから}]
<プロフィール>
まつばら・ひとし 1959年東京都生まれ。公立はこだて未来大学副理事長・教授、未来シェア代表取締役社長。東京大学大学院工学系研究科情報工学専攻博士課程修了後、通商産業省工業技術院電子技術総合研究所(現産業技術総合研究所)に入所。鉄腕アトムの実現を目標に、人工知能を研究。コンピューター将棋などで多くの成果を上げる。人工知能やロボットが競技を争うロボカップの提唱者の一人。2000年に公立はこだて未来大学に移った後も、人工知能研究を続け、「ゲーム情報学」という新領域を提唱した。14年から16年まで一般社団法人人工知能学会会長も務める。16年に未来シェアを設立し、AI活用により公共交通の課題解消に取り組む。