2018年6月21日、東京新聞のインタビュー記事『【核心】対論「残業代ゼロ」=「高プロ」導入是非は』において、パソナ・グループ取締役会長で、未来投資会議、国家戦略特別区諮問会議のメンバー(民間議員ではない)を務める竹中平蔵氏が、高プロ導入賛成派として登場し、
 「時間に縛られない働き方を認めるのは自然なことだ。時間内に仕事を終えられない、生産性の低い人に残業代という補助金を出すのも一般論としておかしい」
 と語った。

 竹中氏がまさに典型なのだが、グローバリストたちは実に巧みに「経済用語」を活用し、プロパガンダを推進してくる。多くの日本国民が経済用語について
 「名前は知っているが、中身は知らない」
 状況を大いに利用しているのだ。先の発言でいえば、
 「生産性の低い人に残業代という補助金を出すのも一般論としておかしい」
 における「生産性」である。普通の国民は「生産性」という言葉は知っていても、それが何を意味するのか、いかなる要因で決定されるのかは知らない(ちなみに「生産性」とは、生産者1人当たりのモノやサービスの生産量、という定義だ)。
 結果的に、
 「言われてみれば、そうだなあ」
 などと、何となく竹中氏のプロパガンダに引っ掛かり、高プロなどの「日本国民を不幸にするグローバリズム政策」に賛成してしまうわけだ。

 生産性は「資本装備率」と「TFP(全要素生産性)」で決定される。TFPとは、資本の質の上昇や人材の質の上昇、技術革新など、目に見えない生産性向上効果の総計だ。「目に見えない」ため、TFPを観測・統計することは不可能である。実際の生産(=GDP)から資本装備率の影響を控除し、逆算して算出する。
 というわけで、観測可能な生産性向上の要素は、実は資本装備率のみなのだ。日本の資本装備率は1997年のデフレ化以降、ひたすら落ち込んでいった。特にサービス業の資本装備率の低下は、悲惨の極みだ。まるで戦争か内乱でもあったかのごとく、資本装備率が下がっている。日本の生産性、特にサービス業の生産性が低いのは、企業や政府が資本ストックを増やさないためなのだ。この現実を無視し、「働き手が生産性を上げないから悪い」と、竹中氏は問題をすり替え、高プロを推進してくる。

 例えば、資本装備率が着実に上昇しているにも関わらず、全体の生産性が上昇しないならば、TFPに含まれる「人材の質」が劣化している可能性はある。とはいえ、そうではないのだ。
 そもそも、従業員の生産性を高める責任を担うのは経営サイドである。竹中氏の言い分だと、生産性上昇の義務が一方的に労働者に課せられていることになってしまう。これは「一般論」でも何でもない。
 生産性向上のためには、もちろん従業員自身の努力(人材投資)も必要だが、それ以上に効果が大きいのが設備投資、技術投資、さらには政府の公共投資によるインフラ整備である。すなわち資本ストックの拡大だ。そして、労働者1人当たりの資本ストックこそが「資本装備率」である。
 式で書くと、
●生産性向上=資本装備率の増加+TFPの増加
 になる。

 経済産業省の資料(「生産性・供給システム革命」に向けて)には、
 「我が国の資本装備率は細かくは増減を繰り返しつつも、近年、ほとんど伸びていない。従業員数の増加と同じ程度にしか、有形固定資産(資本ストック)が伸びていないためであり、1990年代後半から資本ストックの伸びが低迷し、現在に至るまで資本ストックの伸びは低調、足元でも低下傾向にある」
 と珍しくまともなことを書いている。

 まさに1997年の橋本緊縮財政以降の日本経済のデフレ化により、企業が投資を増やさなくなった。結果、労働者1人当たりの資本ストックは低迷した。企業規模によっては「減少」し、結果的に生産性が伸びていない(結果、実質賃金が増えない)。これが「日本経済の真実」なのである。