花田優一 撮影/降旗利江

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 あの偉大な父を持つ彼が、世間に生粋に物申す!

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 “平成の大横綱”の長男として、生まれたときから特別な立場にいた彼が、靴職人という道を選んだ。その選択にあっと驚かされた世間に対し、再び衝撃が!? 父親のこと、結婚、職人として……。そのルックスとは相反した骨太な本懐とは─。

「もう、籠もりっきりなんです。ここ2日くらい、工房で寝泊まりしていて(苦笑)」

 取材現場にやって来た花田優一(22)の指先は靴作りの工程で使う薬品や染料で黒く染まっており、仕事の直後であることが容易にうかがえる。

 日本中の誰もが知る有名人の父、“平成の大横綱”貴乃花(現・貴乃花親方)、元フジテレビアナウンサーの母・景子さん、それぞれの面影が宿るその顔には若さでもカバーしきれない疲れが時折、垣間見える。

 それもそのはず。イタリア・フィレンツェでの修業を終え、2015年から靴職人として独立した花田の作る完全オーダーメードの靴にはオファーが殺到中。納品までに約1年半待ちという状況だという。さらには、8月に本格的に芸能活動もスタートさせた彼だが、今月17日には著書『生粋』を発表した。

「なぜ本を書いたかというと、自分が22年間やってきた考え方、生き方だったり思いを正直に語りたかったのです。テレビ番組だとどうしても編集が入ってしまうので、もっと正確に伝えたい、と」

惹かれていたのは
靴ではなく「職人」

「でも僕は“横綱の息子”じゃない。その前に、花田優一という、ひとりの人間なんです」と語る花田。それでいて父親への尊敬の念を隠そうとはしない。

 例えば、『生粋』には〈相撲という伝統文化において、足の裏だけが大地と触れることを許されていて、その足と大地の間に入る唯一の道具が靴〉というくだりがある。横綱の長男として生まれた彼が、靴職人という道を選んだ。何とも、運命的な話ではないか。

「靴作りを究めていくと、今まで普通に見ていたテレビの相撲中継も見方が変わるんです。もちろん昔から父の相撲は見ていましたけど、“なぜ、この相撲がすごいか”が、わかるようになっていくんです。息子としてではなく靴職人のフィルターを通して相撲を見ることができるようになって、身体や足の使い方だったり、初めて気づくことがある。それがまた、自分の仕事にも返ってくるんです」

 だが、靴職人という道を選んだ経緯について、彼は「理由は……特別にはないんです」と笑う。

「というのも、僕が真っ先に惹かれたのは、“靴”そのものではなくて、“職人”の生き方、あり方だったからです。理由づけすると、なるべく多くの方が使うものを作りたいという考えがあったうえで“靴”を選んだのですが、それは後づけで(笑)。

 ほとんどのことって、理由は後からついてくるものだと思うし。“なぜ、この使命をいただいたか”を考えれば、気づいて見えてくる。“後づけ”という言葉だけで片づけられない目に見えない世界があるんだろうなと、僕はすごく思っています」

 活動の場を広げていく中でも、まだまだ修業の身だと思い知る日々だという。

「褒められれば褒められるほど“まだ足りない”と感じます。お褒めの言葉をいただいている時点で、わざわざ“伝えてもらわないといけない”程度の立場なわけじゃないですか? 誰しもが認める圧倒的なことを僕ができていたら、みんな褒めたりしないと思います。少なくとも、僕の父を“すごいですね”とわざわざ褒める人はいなかったので」

 現在、二世タレントという存在に対し、世間からさまざまな声が飛び交っている。靴職人として己の道を歩む花田に愚問だとは承知のうえで、この件について思うところを聞いてみた。

「世の中の人間は誰しも“誰かの二世”だと思うんです。有名人が親だとしても、普通の会社員が親でも、それは変わりません。僕は、あの父と母の息子として生まれて、生きているというだけで、そういう“枠”にも、それにハメようとする人にもまったく興味がないんです。いいことをしても悪いことをしても、何か言う人は必ずいると思うので。そこに煩わしさもないし、戸惑いもありません」

僕の立場は
周りの人間が決めること

 プライベートでは、つい先ごろ、元幕内・陣幕親方の娘である一般女性と入籍し、結婚式を挙げていたことを公表し、マスコミをにぎわせた。

「プライベートなことや結婚の質問をみなさんにしていただくのですが、とにかく忙しすぎてなかなか一緒にいられる時間がないので、面白いお話がないんですよ。先にもお話ししたとおり工房に寝泊まりすることも多いですし、とにかく働いてしかいないっていう毎日で……(苦笑)」

 職人と芸能人、“二足のわらじ”をはく彼の立場は、目まぐるしく変わっている。

「僕自身には“二足のわらじ”という感覚はないんです。テレビやイベントのお仕事も、あくまで“職人として”お声がけをいただいて、“職人として”お受けしているので。ですから、“イチ職人の結婚になんて誰も興味ないはず”と思っていた部分はあるんです。でも、芸能界でお仕事をいただく以上、自覚を持って対応することも必要なんだな、と。その点は申し訳ない気持ちですし、僕も勉強になりました」

 そして、こう続ける。

「社会での立場って、僕が決めることではなく、周りの方が決めることだと思います。“君のことを芸能人だと思っているんだから”という人が増えていくのであれば、そういう方々に対して、当然ですが、僕もそう意識しないとやはり失礼ですから」

まず同世代に伝え
上の世代を変える

『生粋』の冒頭で、花田は「僕と同じ世代の人たちが自信をつかみ取るための“ヒント”を語ることができるはずだ」と綴っている。自分の立場は、周りの人間が決めると考える花田は、同世代の若者に対してどう考えているだろう。

「厳密に言うと、同世代に向けた言葉ではないのです。でも、これからの社会や生き方は、僕らが作っていかないといけない。僕ひとりの影響力なんて、ちっぽけで何を吠えたところで痛くもかゆくもないレベルだと思いますけど、僕の言葉で、結果的に、同世代の人たちが“こんな生意気なやつがいるんだったら自分もやれるんじゃないか”と少しでも思ってくれるのなら、結果として上の世代の方々、いまの“枠”だらけの社会を変える力のひとつになるんじゃないかって。どうせ書くなら、毒か薬かどちらかになればいいなと思っています」

 たしかに、『生粋』の内容は荒々しさもある。好青年、優等生といった“花田優一像”とは異なる彼の真の姿が、読むほどに透けて見えてくる。

「“二世だ”“七光だ”という目で見られるのは覚悟していますが、そう言われるのならば、“上等だ。寝ずに仕事して、俺よりいい作品、いい本を作ってみてくださいよ!”って言いたいですね(笑)」

 生まれやルックスだけではない。この“二面性”の気質こそ、彼の大きな魅力なのかもしれない─。

はなだ・ゆういち◎1995年9月27日、東京生まれ。靴職人。父は横綱・貴乃花(現・貴乃花親方)、母は元フジテレビアナウンサー・花田景子さん。15歳で単身アメリカへ留学後、イタリア・フィレンツェで靴職人に弟子入りし靴作りを学ぶ。2015年10月、修業を終え帰国して独立。都内の工房で靴作りに打ち込む日々を送る。

『生粋(ナマイキ)』
(主婦と生活社刊 税込み1188円)
話題の靴職人・花田優一、初の著書。生きにくい時代で、自分の働き方、あり方、生き方に、戸惑い立ち止まっているすべての人たちへ届けたいメッセージ。