峯田和伸

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 古舘プロジェクト所属の鮫肌文殊、山名宏和、樋口卓治という3人の現役バリバリの放送作家が、日々の仕事の中で見聞きした今旬なタレントから裏方まで、テレビ業界の偉人、怪人、変人の皆さんを毎回1人ピックアップ。勝手に称えまくって表彰していきます。第33回は樋口卓治が担当します。

峯田和伸 様

 今回、私が勝手に表彰するのは、銀杏BOYZ・峯田和伸さんである。

 最近ではNHK連続テレビ小説『ひよっこ』でみね子の叔父・宗男として、熱いロック魂を昭和に吹き込み、音楽番組では心洗われる峯田サウンドが流れている。

 出てくるべき人にスポットライトが当たったと私の周りは喜んでいる。

 と、さもファンのように語っているが、私はかなり後発のファンで、銀杏BOYZを知ったのは数年前、久しぶりに家族でカラオケに行ったときのことだった。

「家族そろってカラオケ、何年ぶり?」と心の内で小躍りしていたが、「お父さん歌って!」のよいしょもなく、こっちも息子、娘の歌う歌はよくわからんというスタンス。妻は勝手に何曲も入れているし。イメージと違う! という気分で時は過ぎていった。

 そんな中、いっちょまえにニット帽をかぶった娘が、ソファーの上に立ち熱唱したのが『BABY BABY』だった。イントロが流れた瞬間、身体中がしびれた。中学の頃、レコード針を落とした瞬間、世界が変わった。ビートたけしの『オールナイトニッポン』を聴いた時、価値観が変わった。そんな衝撃に似ていた。甲高い声で娘が歌った途端、心が震えた。

 歌詞がいい、メロディーがいい、トータル全部いい。サビのあたりで息子もマイクを持ち、二人で熱唱している。「めちゃめちゃいい曲じゃん!」と興奮しながらも平静を装うオレ。

 気がついたら涙が溢れていた。

 ジ〜〜〜ンという気持ちを親子で共有できる体験だった。

 風呂場から息子の歌声が聞こえてくる、それがサザンだった。親世代が夢中になった歌を子世代が口ずさむ、あの感動の逆バージョンだ。

 テレビで銀杏BOYZが歌っていると、娘が部屋から出てくる。あれ、親子でテレビを観ている? 最近のテレビじゃ珍しい現象が起きる。

 息子におすすめ曲を教えてもらっている。あれ、童貞同士で音楽を語ったあの頃に似ている。

 今、世代を超えて共有できる娯楽が増えている気がする。いいものは世代を超えていいと言い合える土壌。きっとこれが、これからのテレビのベクトルだ。

 銀杏BOYZがBGMでかかるようなバラエティー番組を作ってみたい。かつての『学校へ行こう!』みたいなポップな。

 狂った時計の針を合わせるように、明るいバラエティー番組がまた生まれそうな気がする。

 子供に教えてもらう感性、大人が見てきた感性。この双方向の乗り入れる時代。

 追伸、先日、娘と映画を観てきた。『アウトレイジ 最終章』。娘は初北野映画にテンションを上げていた。銀杏BOYZから始まった共有が、こんなところで繋がるとは。
 
「生まれてきてよかったと思ったことはないが、生きいてよかったと思えたのが今日です」

 10月13日、日本武道館で銀杏BOYZ・峯田氏がファンに向かって言った気持ちが心に染みる秋の出来事だった。

<プロフィール>
樋口卓治(ひぐち・たくじ)
古舘プロジェクト所属。『中居正広の金曜のスマイルたちへ』『ぴったんこカン・カン』『Qさま!!』『ぶっちゃけ寺』『池上彰のニュースそうだったのか!!』などのバラエティー番組を手がける。また小説『ボクの妻と結婚してください。』を上梓し、2016年に織田裕二主演で映画化された。最新刊は『ファミリーラブストーリー』(講談社文庫)。