宮西 尚生投手(市立尼崎−北海道日本ハムファイターズ)「自分の現在地を把握すれば、成長度合いは大きく変わってくる」【後編】

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前編:高校入学時の球速は108キロ!それでもプロにいける器だと感じた理由 を読む

 前編では球速が遅くても、宮西 尚生選手に秘めるセンスの高さを紹介したが、後編では引き続き竹本監督に宮西選手の練習に取り組む姿勢や現在の活躍について、そして宮西選手へのメッセージをいただいた。

成長に大きく寄与した金刃 憲人の存在

竹本 修監督(市立尼崎)

 宮西にとっては、金刃 憲人が1学年上にいたという事実がものすごく大きかったと思います。ぼくの指導がどうのというよりも、金刃がいたからあれだけ伸びた。彼の原点は金刃ですよ、間違いなく。入部したときなんか、金刃が神様に見えたと思いますよ。美しいマウンドさばきから、すさまじいボールを投げ、試合でもぴしっと抑える不動のエース。「こんなすごいピッチャーが同じ左腕でこの世にいるんだ!」とびっくりしたと思います。

 それに金刃は才能に任せて野球をやるタイプではなかった。練習中にグループ別に競争した際に、負けたグループが腹筋などの罰ゲームをするとしたら、金刃は勝っている側のグループにいるのに、一緒になって腹筋をするやつなんです。ランニングをするときもわざわざ遠回りをして、少しでも長い距離を走ろうとする。そんな先輩の背中を観て「背番号1というのはこれくらいやらなきゃいけないんだ!おれももっと頑張らなきゃ!」という思いを強くしていたと思います。金刃と同様、いつだって黙々と彼は練習をしていましたから。

 ぼくから見れば、金刃と宮西では元の素材が違ったように見えました。金刃がダイヤモンドだとすると、宮西は石炭に例えたくなる。でも石炭は磨くとものすごくきれいな黒い強い輝きを見せる。きっと彼もダイヤモンドと石炭くらいの差があることは感じていたと思いますが、金刃に追いつきたいという気持ちが「これが石炭なの!?」と言いたくなるほどのダイヤモンド級の輝きを生みだした。今の彼があるのは間違いなく金刃の存在のおかげだと思います。

いつの時代も変わらぬ練習熱心な姿勢

 彼はプロ入り後、うちの高校でオフ期間の練習を行うんです。毎年12月に入ると、スーツケースをゴロゴロと引っ張ってきて、1月末まで母校でトレーニングを行い、ここからキャンプ地へ向かうのが慣例になっています。うちの学校はウエイトトレーニングができるトレーニングルームもありますし、人目も気にしなくていいので練習に集中できる点を好んでいるのでしょうが、イベントなどで東京や北海道に行かなければいけない時以外は週6のペースでトレーニングをしていますね。元旦も必ず練習していますし、もう少し休んだらいいのにとこちらが思ってしまうほどに、よく練習をします。

 今年はWBCで使用するボールを2ダース持ち込んで、キャッチボール、ピッチングをしていました。滑りやすいと言われるボールらしいですが、彼の長い指があればそう苦にしないのではないかと思っています。キャッチボールやピッチングをしている姿を現役の部員も近くで目撃できるので「すごいなぁ」みたいな顔をしていますね。でもよく言うんです。「おまえら流石プロ野球選手と思ってるかもしれないけど、高校生の時点ではおまえらの方がよっぽどコントロールがいいし、スピードもある。あいつ入ってきたとき108キロしか投げられなかったんだぞ」と。すると必ずといっていいほど「えー信じられない!」という反応を全員が見せる。高校球児に勇気を与える存在だとつくづく思いますね。

自分の現在地をきちんと把握できる選手だった

宮西 尚生(北海道日本ハムファイターズ)

 宮西は自分の現在地がよくわかっている投手でしたね。だから目指す自分になるためにどういう努力がどれくらい必要なのかをきちんと把握できていた。高校生の指導者を長年やっていて思うのですが、自分の現在地をよくわかっていない選手は思いのほか多いんです。東京に行きたい選手が実際はまだ大阪にいる状態なのに、自分はもう横浜にいると勘違いしていたりする。あと500円分の努力をすれば東京に着くと思ってるけど、実際は京都あたりまでしかいけない。そして自分は才能がないと思い込み、心が折れたりする。そういう選手が多いんです。

 宮西はたしかに108キロしか投げられなかったけど、自分の現在地を冷静にとらえ、なにをどのくらいしなければいけないのかをきちんと把握し、かつ、自分で決めた努力をやり続ける意志の強さがあった。身体能力が一緒でも考え方や気持ちの持ち方で成長の度合というのは大きく変わる。宮西を引き合いに出しながら、教え子たちにはそんな話をよくしますね。

教え子・宮西 尚生へのメッセージ

 WBC、選ばれちゃいましたね。ここまでの投手になるとは正直、想像できませんでした。WBCでも登板機会はあると思います。納得のいく準備をした上で、与えられた仕事をしっかりこなしてほしいですね。プロに入ってから登板数が50試合を割った年がないんですよね?すごいですよね…。プロに行けるかなとは思いましたが、プロに入ってからの活躍度合いはぼくの想像をはるかに超えています。

 いつも身体が万全なわけではないのでしょうが、彼はとにかく痛みに強い。高校時代もどこかが痛いと言ったことは一度もありませんでした。その分、体に無理はかかっていると思うので、心配にはなる。自分の身体をこれでもかといたわってほしいです。ぼくのプロの世界に対する信条は「細く、長く」。一年でも長く、現役生活を続けられることを切に願っています。

(取材=服部 健太郎)

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