海老名リトルシニア「栄光に近道なし」
今回からスタートしたネクスト球児たちを紹介する「中学野球チーム訪問」!今月は、神奈川県中学硬式野球チームを特集します!第一弾は、海老名リトルシニアに訪問!
恵まれた練習環境のもと、将来のための育成を重んじながら、試合で結果を出すことも大事にしているのが海老名リトルシニアだ。高校野球やその上で活躍するOBは多く、全国大会に春夏合わせて9回出場と、実績もある。2回目の出場となる今年の「DeNAベイスターズカップ」で、初出場初優勝を飾った第3回大会以来2度目の王者を目指している海老名リトルシニア。飯塚 良二監督と選手のみなさんにお話をうかがいました。
練習風景(海老名リトルシニア)
JR相模線・番田駅から歩いて15分ほど。広々とした畑の真ん中に海老名リトルシニアの専用グラウンドはある。メイングラウンドに、3打席ある打撃練習場(鳥カゴ)、そして2人が同時に投げられるブルペン。マシンは6台もある。中学生が練習するには十二分過ぎるほどの恵まれた環境だ。映画「フィールド・オブ・ドリームス」さながらの手作り感漂うこの施設で、選手たちは平日も週3日、レベルアップに励んでいる。
チームのモットーは「明るく、楽しく、元気良く、そして厳しく」。2000年に海老名リトルシニアを立ち上げ、平日も必ずグラウンドに立つ飯塚 良二監督は、「好きな野球を楽しくやってほしいと思っていますが、楽しいだけでは高校に行って苦労しますからね。ここで厳しい練習をして、3年間しっかり高校野球をするための基盤を作ってほしい。“厳しく”にはそういう意味があるんです。基盤ができていれば、たとえ中学では控えでも高校でレギュラーになれますし。実際、そうした例は多いですしね」と話す。
海老名リトルシニアでは、タイヤ押しなど、自重を使った地道なトレーニングを年間通して行っている。これも“基盤作り”一環だ。“引退”が3月なのも、基盤作りのため。飯塚監督は「夏の大会が終わってから、高校入学までの期間が実はとても大事。勉強もあるが、ここで体を遊ばせてしまうと、それまでの積み重ねがうまく作用しない」と考えている。
飯塚監督は神奈川・向上高の出身。社会人のリッカーでも5年プレーした。中学硬式での指導歴はもう30年になる。座右の銘は「栄光に近道なし」。「(阪急=現オリックスで活躍したサブマリン投手の)山田 久志さんに色紙をいただいた時、この言葉が書かれていましてね。284勝した大投手もそうやって努力してきたのか、と感銘を受けまして。上手くなるにはコツコツやるしかない、と、そういう思いで選手と向き合っています」
指導陣は充実している。飯塚監督の他、コーチは佐藤 進ヘッドコーチ以下10名。土日祭日はベテラン指揮官をサポートしながら、3学年合わせて70人以上いる選手たちを熱心に指導している。「コーチの中にはウチにいた時は控えだった子もいましてね。そういう、当時は日の当らなかった子が指導者になって戻ってきてくれる。これは何よりも嬉しい」と飯塚監督。
活躍するOBの存在が選手たちの大きな励みに飯塚 良二監督(海老名リトルシニア)
海老名リトルシニアで基盤を作り、高校野球の世界へ巣立って行ったOBは、様々な学校で活躍している。近くでは昨夏甲子園初出場を果たした八王子高の2番ショート・竹中 裕貴選手もOB(今春から桜美林大でプレー予定)。身長158cmと「ありんこ軍団」を象徴するような存在だった竹中選手は、西東京大会でチーム最高打率をマークし、八王子高をけん引した。飯塚監督は「背は練習体験にやって来る小学生と変わりませんからね(笑)。でも、たとえ体格に恵まれなくても甲子園に出られる。後輩たちにとっていい見本にもなっています」と、教え子の頑張りに頬を緩める。
また、2011年夏に日大三が甲子園を制した時の正捕手で、立教大4年時には主将を務め、現在はJR東日本でプレーする鈴木 貴弘選手のように、高校卒業後もプレーを続けるOBも少なくない。エースの松平 康稔投手(2年)は「先輩方の活躍が刺激になっています」と口にする。暮れに行われるOB戦は、海老名リトルシニアの恒例行事だ。
海老名リトルシニアは選手の基盤作りに力を入れる一方で、結果も残してきている。これまで全国大会には春3回、夏は6回出場し、ベスト4が1度。ジャイアンツカップ3位の実績もある。飯塚監督は「中学で野球が終わるわけではないので、はじめは結果は二の次と考えていたんです」と言うと、こう続けた。「ですが、負けると選手が泣くんですよ(笑)。泣くとこっちも辛いので、勝たせてあげたいと。やはり選手の笑顔を見たいですからね。それに全国に出られれば、選手の評価も上がる。ですので、ノーヒットでも1点を取れる、細かい野球の練習にも力を入れています」
松平 康稔選手(海老名リトルシニア)
今年のチームの柱はエースの松平。制球力があり、緩急も使える。飯塚監督は「決してボールが速いわけではないのですが、安定しているので計算が立つ。変化球もいい」と評す。この松平、打っても中軸だ。二番手は冨田 学(2年)。1年時の足首の骨折を乗り越え、今年に入ってから球速がアップしてきた。こちらはストレートで押すタイプだ。打線は「例年と比べてよく打つ。マシンガンとまではいかないが、ピストルくらいかな(笑)」(飯塚監督)。
長距離砲はいないが、1番から9番までつながりがあるという。打のキーマンの1人が馬込 悠(2年)。左打席から広角に打てるシュアなバッターで、50m6秒3と足もある。
練習風景(海老名リトルシニア)切れ目のない打線で2度目の神奈川統一王者へ飯塚監督が目指す野球のスタイルはズバリ「打ち勝つ野球」。前述の通り、そのための練習環境も整えている。ティーネットや練習用のボールの数も豊富だ。ただ、「走る野球もやりたい」とも。これは自身が捕手だった経験から。「捕手は相手に積極的に走ってこられるとすごく嫌なものですからね」
神奈川の中学硬式ナンバーワンを決める「DeNAベイスターズカップ」は、海老名リトルシニアにとっても高い位置付けの大会だ。飯塚監督は「他の大会よりもメディアに取り上げてもらえますし、高校の関係者からも注目されている大会ですからね」と、その理由を語る。初出場となった第3回大会では優勝を飾っている。「打線がうまくつながれば、いけるかな」と、飯塚監督は2年ぶり2度目の出場となる今大会も優勝を狙っている。去年は出場を逃し、代表の選手が1人で優勝旗を返しに行った。その悔しい思いもバネにするつもりだ。
選手たちにとっても「DeNAベイスターズカップ」は特別な大会だ。会場となる横浜スタジアムは神奈川の高校野球の「聖地」。松平は「あの球場のマウンドで投げられると思うと、今からワクワクします」と瞳を輝かす。もちろん選手たちも目指すは“てっぺん”。馬込は「2年前に先輩たちが優勝しているので、僕らも続きたい」とキッパリ。チャンスでの相手を圧するようなベンチの盛り上がりも、海老名リトルシニアの武器だ。
海老名リトルシニアのユニフォームカラーは、「浜スタ」をホームとするDeNAベイスターズと同じブルー。「青の軍団」は、新調したばかりの白スパイクで「浜スタ」を駆け回り、2度目の栄冠をつかむ―。
(取材・文=上原 伸一)
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