だが、派遣先企業の社員と同じ給与を派遣元が支払うのは難しい場合もある。派遣社員の給与は派遣先から派遣元が受け取る派遣料金から支払われている。だが、欧州では派遣元が派遣先の社員と同じ給与を支払えない場合は派遣先が支払うことを命じる判決も出ている。 フランスでは派遣先に雇用されたとしたら支払われたであろう賃金と残業手当と実際に受け取っている賃金との差額を支払うように派遣元事業主に求めた裁判がある。判決では「派遣先で支払われるであろう賃金を支払う義務は雇用主である派遣元事業主にあるが、この義務を履行するに当たり派遣先事業主に落ち度がある場合には、派遣先事業主に支払い義務がある」と言っている。 では日本では派遣労働者の取扱いはどうなるのだろうか。政府が示した「同一労働同一賃金ガイドライン案(暫定版)」では有期雇用労働者とパートタイム労働者については詳しく記しているが、派遣労働者についてはこう書いている。

 「派遣元事業社は、派遣先の労働者と職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情が同一である派遣労働者に対し、その派遣先の労働者と同一の賃金の支給、福利厚生、教育訓練の実施をしなければならない。また、職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情に一定の違いがある場合において、その相違に応じた賃金の支給、福利厚生、教育訓練の実施をしなければならない」 職務内容や配置、その他の事情が同じであれば、派遣先労働者と同じ待遇、また、一定の違いがあった場合は均衡待遇、つまりバランスのとれた処遇にしなさいと言っている。派遣労働者については派遣元の正社員との格差、派遣先の社員との格差の是正という二重の違いがある。今後、具体的な検討を進めていくことになるだろう。

 欧州のような「同一労働同一賃金原則」が日本でも適用されたら、派遣社員の待遇の見直しは避けられないだろう。今後のガイドラインや法案の内容次第では派遣社員に限らず、有期契約、パート社員を含めた非正社員の待遇、正社員を含めた賃金体系の見直しが進むことになる。 折しも18年4月から5年超の有期契約社員の無期転換申し込み権が発生し、有期から無期に転換する労働者が大量に発生すると見込まれている。無期転換のための教育、賃金体系など人事制度の見直しは待ったなしである。65歳までの継続雇用制度のあり方も問われている。17年は日本企業全体で賃金体系の見直しが加速することが予想される。