11月の代表戦でゴールを決めるなど存在感を高めている小林。その背景には日頃のプレー環境の変化が大きく影響しているという。 (C) Getty Images

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 昨年5月、小林祐希が初めて日本代表合宿に参加した時のことだ。
 
 紅白戦で右サイドハーフに入った小林にサイドチェンジのパスが来た。1回、首を振った時、対面の長友佑都との間合いは十分あったはずだった。しかし、長友のアプローチは予想を超えて速く、小林は前を向くことができなかった。
 
 飛び交うパススピードも速く、小林は「自信を持って代表に行きましたが、レベルが高かった」と当時を振り返る。そして11月、再び代表チームに呼ばれた小林は、紅白戦で半年前とは違った感覚に手応えを掴んでいた。
 
「ハーフコートで11対11の紅白戦をやったんですが、普通のフルコートと同じ感覚でプレーできました。ゆっくり感じましたね。これは普段の練習の環境によるものだなと思いました」
 
 彼が口にした“普段の練習の環境”とは所属クラブ、ヘーレンフェーンでのものだ。小林が初めて渡ったオランダの地には、本番さながらの激しいデュエルがあり、渾身の力を込めて蹴る、受け手にとって優しくない強烈なインサイドパスが送られてくる。
 
 日頃から迫力と速さのある練習を繰り返したことで、わずか半年の間に小林は日本代表のプレースピードがゆっくり感じられるようになり、プレーに余裕が生まれたのだ。
 
 小林は入団半年でユルヘン・ストレッペル監督の信頼をしっかり掴み、負傷中の主将スタイン・スハールスに代わり、アンカーの重責を任されている。
 
 さらに指揮官は小林に、チームのリーダーになることを要求し始めているという。小林にとって“リーダー”とはどういう存在なのだろうか?
 
「若手とも、年上とも対等に話せることも大事ですが、一番必要なのは振る舞い、態度、オーラ。バルセロナでずっとプジョールがキャプテンマークを巻いてきたのは何なのかと言ったら、普通の人にはない熱いハート。相手の汚いプレーに対しても『俺たちは自分たちのサッカーをする』というのを伝え続けること。プジョールのような背中を見たら、俺たちも付いていくことができる。チームを引っ張っているんじゃなくて、勝手にみんなが集まってくるオーラを持っている人がいいですね」
 
 11月の代表戦では原口元気、大迫勇也、清武弘嗣がハイパフォーマンスを発揮し、“世代交代”への機運が高まった。それがまた、ベテラン勢の巻き返し、小林のようなボーダーライン上の選手の台頭の期待にも繋がっている。健全な競争が働き出したわけだ。
 
 トップ下でのプレー願望が強い小林だが、クラブでアンカーを務めていることもあって、代表での狙い所はボランチのポジションだろう。
 
「常に声を出し続けたり、味方を鼓舞し続けたり、レフェリーを巻き込んで味方に付けないといけないことも考えると、ボランチは“リーダー”じゃないといけないポジションです。代表でもリーダーとしてやりたいし、なるんだったら、もちろんキャプテンマークを付けたいと思っています」
 
 チームキャプテンへの憧れを口にする小林はさらに続ける。
 
「俺は常に熱い気持ちで戦えるし、相手が誰だろうが関係ない気持ちで戦える。まず代表の選手としてピッチの上に立つのは大変なこと。そしてキャプテンマークはチームに一人しか巻くことができない。それを守り続けている長谷部さんはすごい。だけど、追い越していかないといけない。そのぐらいリーダーとして自覚を持ってヘーレンフェーンでやって、日本代表に行っても自分がリーダーだという気持ちでピッチに入って練習し、試合に出る。それが大事だと思います」
 
 高い意識を持っていることを隠さない小林は、「お前は19歳の時、ヴェルディでキャプテンをやって潰れたじゃないか」と指摘されることも予想している。あの時、小林は「サッカーが嫌いになりそうだった」という。
 
 2012年にジュビロ磐田に移籍したのは、そういったプレッシャーからの逃げだったということを否定しない小林は、「今は違う。キャプテンマークを着けても着けなくても、今は俺がリーダーだと思ってやっています。代表で10番を着けたいという思いと同じぐらい、キャプテンもやりたいと思ってます。それぐらい、覚悟があります」と語った。
 
 オランダで心技体の充実を見せる小林。“リーダー”としてのさらなる成長が楽しみだ。
 
取材・文:中田徹