上宮太子高等学校(大阪)「秋優勝も、打倒2強という目標は変わりない」【後編】
後編では収穫と課題を得た近畿大会の模様を振り返っていきます。そして来年へ向けての意気込みを選手に語っていただきました。
近畿大会ではベスト4入りを逃すエース・森田 輝(上宮太子高等学校)
つながる打線は近畿大会でも底力を見せた。初戦の高野山戦では強打の相手に森田が持ち味を発揮出来ずに5失点。2点ビハインドで9回を迎えていた。折出 智勇の犠牲フライで1点を返すが状況は二死走者無し。崖っ淵に追い込まれたがそこから試合をひっくり返した。続く準々決勝、選抜出場を懸けた神戸国際大附との大一番は5回まで2対2。スコア上は互角だったが森田が見事なピッチングで試合を作る。すると打線は6回に相手のバッテリーミスで1点を勝ち越す。しかし、試合が動いたことで直後に落とし穴が待っていた。
「守りにいったわけではないんですけど、いっぺんに9点なんで弱さが出てしまった。森田もコントロール出来なくなっていた」とベンチで戦況を見つめる指揮官がそう話せば、マスクをかぶる平田 航大(2年)は「森田も緊張からか力が入っているのか、かわしにいった変化球を打たれました」。勝ち越した直後にビッグイニングを作ってしまい、緊迫した展開が一転、まさかのコールド負け。
「6回先頭を出してから狂ってしまった。変化球を狙い打ちされて、僕の考えの甘さが出た回でした」そう話す森田は試合の大勢が決まった時、マウンドを丸岡に譲っていた。「僕は豪速球を投げるピッチャーじゃなく低めで打ち取るピッチャー。そこに投げられないと失点につながるので、そういうコントロールは意識しています。近畿大会では、高めに浮いた球はコースに決まっていてもホームランを打たれたので、低めに投げないといけないと実感しました」と近畿大会では悔しさを味わった森田だが、日野監督は森田の投手としての素質を高く買っている。
エース最大の武器は観察眼今秋、大阪を制する原動力となったエースの森田 輝。入学当時、「すごい腕の振りが良かった」というのが日野監督の森田に対する第一印象だった。キャッチボールでも素質、能力の高さは際立っていた。ただ、最高球速は140km/hを超えるがパワーピッチングでガンガン押せるタイプではない。追い込めばタテスラで三振も狙えるが、登板の度に奪三振数が話題になるわけでもない。一見すればよくいる好投手の1人に過ぎない。
その真骨頂は打者や状況によって押すか引くかを嗅ぎ分けピッチングを組み立てられる「観察眼」にある。「小学校からピッチャーをやらせてもらって、いろんなバッターを見てきました。打席に入る前のスイングや足の上げ方を見てます」最も多くの情報を入手出来るのはイニング間の投球練習だ。平田のミットめがけて投げ込むだけでなく、どのコースのどの球種を狙っているかをチェックしている。
当然、試合中でも情報はアップデートされる。「1打席目に打たれたら次の打席ではその結果を生かして投げるようにしてます」コントロールにも優れ、丁寧に低めを突く投球は投げミスが少ない。捕手の平田によれば、ストレートでインコースを突けるのはもちろん、調子の良い時は低めを狙った変化球がワンバウンドせず地面スレスレのミットに収まるという。「点を取られないピッチャーが勝つピッチャーだと思うので、上宮太子を負けないチームにする、絶対的なエースになれるよう冬の練習に取り組みたいです」と体重63kgの細身の右腕はレベルアップを誓っていた。
再び打倒2強を目指して捕手・平田 航大(上宮太子高等学校)
秋に結果を残したが、日野監督は夏へ向けて底上げの必要性を感じている。「試合に出ていた10人は自信をつけたんですけど、他の選手が追いつけていないです」大きなカーブが武器で森田、丸岡に続きたいサイドスローの富田 幸生(2年)らが出場したレギュラー組vs控え組の紅白戦は、10対2でレギュラー組の勝利。紅白戦後、控え組のメンバーには設定タイム有りのランニングメニューが8本追加された。
控え組を破ったレギュラー陣はそれぞれが長所を持つ。センター・木岡 大地(2年)は守備範囲が広く、川崎 宗良は1年春からベンチ入りした強打者。捕手の平田は守備の負担が大きいポジションのため打順は下位打線となっているが、4番を打つ力もある。実際、秋は4番・折出と共にポイントゲッターとなった。元外野手でチーム事情により全く経験の無かった捕手へコンバートされたが、夏にベンチを外れた3年生が付きっ切りで指導してくれたおかげで扇の要を守り抜いた。その打線も冬の間にパワーアップを目指す。
チームのまとめ役・平田が「全員が遠くに飛ばせるように振り込んで長打を打てるよう頑張りたい。コースを突いても初球から思い切り打ってくるバッターはピッチャーも嫌やと思うんで」と冬のテーマも挙げれば、中山も「この冬で打線のつながりを強くして欲しい場面では長打を打てるように。守りからリズムを作り攻撃に活かせるチームにしたいです。大阪2強と言われるだけあって差はあると思うんですけど、勝って夏の甲子園に行きたいです」と長打力アップで再び打倒2強を誓う。
全国で唯一シードの無い大阪、仮に春にも優勝したとしても夏の初戦でいきなり強豪と当たる可能性もある。秋に優勝したことでマークされるのは間違いないが、つながる打線に力強さを加え春に挑む。
(取材・文=小中 翔太)
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