上宮太子高等学校(大阪)「秋の大阪を制した上宮太子!夏も頂点を目指す」【前編】

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 上宮太子のキャプテンを務める中山 泰斗(2年)はボーイズでは控え選手、今でこそ注目を集めるエース・森田 輝(2年)も中学時代を知る関係者は「これが本当に生野シニアの森田か」と驚きを隠せない。

「入った時点では1年ぐらい遅れてる。それで勝とうと思ったらどうしたらいいか」この秋、17年ぶりに大阪を制した上宮太子だが意外にも推薦枠が無い。入学してくるのは上宮太子でやりたいという意志を持った一般の選手のみ。専用グラウンドはあるが上宮と併用のため曜日によっては使用出来ず、ナイター照明もあるにはあるが、その明るさは実戦的な練習を行うには危険が伴う。指導に当たるのは日野監督と鶴田充功部長の2人だけ。

 強豪私学の一角、というイメージが強いが、その環境は実は公立高校とさほど変わらない。そのため入学時点での差を埋めるべく、練習は元旦を除く364日行われている。太く重い縄を波打つように振る動きとランニングを組み合わせたサーキットトレーニングなどで追い込み、投手陣は連日100球以上の投げ込みをこなす。昔ながらの練習で鍛え上げた選手と共に日野監督は指揮を執って6年目の秋、ついに大阪の頂点に立った。

エースの負傷で始まり、本塁打無しで優勝を飾る

投手・丸岡 竜一(上宮太子高等学校)

「森田がしっかりすれば負けない自信がありました」折出 智勇(2年)、川崎 宗良(2年)ら打線の軸となれる選手が旧チームから残り、何より安定感あるエースの森田の存在に、日野監督は戦える手応えを感じていた。しかし、秋季大会が目前に迫った8月、大きなアクシデントに見舞われた。練習中、スクイズを試みた森田が右手中指を負傷。幸い骨に異常は無かったものの、血がたまった患部からは3日間血が止まらず、エース抜きでの戦いを余儀なくされた。

「あ、終わったなと思いました」日野監督でさえそう思ったチームを救ったのが丸岡 竜一(2年)。武器とする2種類のスライダーはブレーキがよく効いており、変化量も大きい。来年の夏を見据え森田に次ぐ2番手投手の育成は課題だっただけに、夏の練習試合では多くの試合で先発マウンドを任されていた。公式戦登板はもちろん、ベンチ入りもこの秋が初めてだったが、1回戦の常翔学園戦で7回コールドながら完投勝利。普段練習している上宮太子グラウンドで行われた一戦に「このグラウンドでやってたんで、いつも通り投げることが出来ました」と公式戦デビューを振り返っていた。

 エース抜きで初戦を突破したが、森田が投げられるようになるまではまだ時間がかかる。組み合わせの関係上、同じグラウンドで練習している上宮と対戦する可能性もあったため、森田は夏場でも軍手をはめてランニング。エース負傷の情報を悟られないようしていた。2回戦前に傷は塞がったが、ぶっつけ本番に近い状態では当然本来のピッチングは望めない。先発した箕面学園戦では6回までに6点を失った。が、ここでも丸岡がチームを救った。終盤3イニングをパーフェクトリリーフ。打線もつながり最終的には6点差をつけた。

府内23連勝中の履正社を破って何を得たのか?

キャプテン・中山 泰斗(上宮太子高等学校)

 序盤の山場だったのが中学時代に全国制覇した経験を持つ大石 晨慈(1年)を擁する近大附戦。打線はこの好左腕から4点を奪い森田が1失点完投。チームはこの一戦で自信をつけると夏に敗れた浪速、後に21世紀枠候補に選ばれる今宮、上位進出の常連である初芝立命館を破り決勝進出。決勝では府内23連勝中だった履正社を10対3で下し頂点に立った。

 全国トップクラスの安田 尚憲(2年)<関連記事>、若林 将平(2年)らが並ぶ強力打線から10三振を奪い7安打3失点で完投した森田は「履正社戦は特に印象に残っているしいい経験になりました。インコースのストレートと外のスライダーが効果的に決まって、コースを突いて緩急をつけたピッチングでうまくいきました」と振り返る。つながりのある打線は2回二死からの5者連続適時打で5点を先制し優位に立った。

 試合を通して12安打を放ったがそのほとんどが単打。大阪府大会8試合で71得点を挙げているが、本塁打は0。練習でも柵越えの打球はほとんど見られない。それでもキャプテンの中山は「粘り強く一丸となってプレーするチームです。つないでいく打線はうまくつないで、ピッチャーも3点に抑えてくれた。履正社に勝って近畿大会にも出ていい経験になりましたし、これを夏につなげていきたいです」と胸を張る。

 履正社のエース・竹田 祐(2年)<関連記事>と中山は生駒ボーイズ時代のチームメイト。新チームがスタートしてしばらくは6番だったが、3番に打順を上げると大阪府大会では8割近い打率を残し、当時から名の知れていた本格派右腕に成長した姿を見せつけた。4番として走者を還す役割の折出も「1人打ったらみんなも打っていけました。大きいのを狙うのではなく、みんながつないで点数を取る。僕が出た後も後ろがつないでくれました。普段の練習で3カ所でバッティング練習する時は、真ん中と左側は好きなように打つんですけど、右側は右方向に打つようにしています」と話す。安定感抜群のエースと切れ目の無い打線で8試合を戦う過酷な大阪を勝ち上がった。

 後編では近畿大会の戦いぶりや秋が終わって課題として残ったこと。そして主力選手たちが来年へ向けての意気込みを語っていただきます。

(取材・文=小中 翔太)

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