聖カタリナ学園高等学校(愛媛)「課題を詰めて『躍進』から『結果』へ」【後編】
前編では、チーム始動から課題の見えた愛媛大会までを監督に振り返っていただいた。後編では選手たちの声も交えながら、「躍進」から「結果」につなげるための意気込みを聴いた。
「野心」を持った選手たち、夏躍進への成長過程右から入江 寛大(投手)・玉井 陸翔(中堅手)・新保 雄太郎(主将・投手)・伊藤 紘輝(三塁手)・大森 貴仁(捕手)(聖カタリナ学園高等学校)
前編では指揮官側から見たチームを語ってもらったが、選手側から見た夏までのチーム作りの収穫と課題はどのようなものだったのだろうか?以下の5選手に集まってもらった。
新保 雄太郎(1年主将・投手・175センチ76キロ・右投右打・松山中央ボーイズ出身)玉井 陸翔(1年・中堅手・右投左打・174センチ63キロ・右投左打・愛媛松山ボーイズ出身)大森 貴仁(1年・捕手・右投左打・162センチ58キロ・西予市立城川中出身)伊藤 絋輝(1年副将・三塁手&遊撃手・右投左打・170センチ74キロ・松山リトルシニア出身)入江 寛大(1年・投手・右投右打・171センチ66キロ・宇和島ボーイズ出身)
全員が「1年生から試合に出る。甲子園に出て歴史を作る」野心を持って聖カタリナ学園の門を叩いた選手たち。入学早々に越智 良平監督から「1年目から甲子園に行くぞ」との檄に気持ちをさらに高めた彼らは「挨拶・キャッチボール・声のかけ方といった練習での試行錯誤だけでなく、練習試合では三塁コーチからの声のかけ方まで1つずつ決めていった」と新設野球部ならではの苦心を語ったのは主将の新保。
そんなスタートラインから「まずは自分が思っていることを伝えることから元気よくやっていく」(大森)基本理念を作り、レフト側がカットされているグラウンドをハンデにせず「内野手がノックを受けている間に外野手はティーを打つ」(入江)メニューを覚えこむことで効率性を高めた。ちなみに彼らのシーズン中における1週間の練習カリキュラムは以下の通りだ。
月曜日:奉仕活動(体は休めても心は磨く)火曜日:グラウンドでの基礎練習水曜日:グラウンドでの基礎練習木曜日:聖カタリナ大学のトレーニング室を借りての筋力トレーニングなど金曜日:球場を借りての実戦練習土曜日:練習試合日曜日:練習試合
夏の大会中でも筋力トレーニングは継続。加えて平日の7時15分からは学校体育管内でコース別に分けた素振り90秒での30スイングを30セット。残る100本をフリー素振りをして計1000本を1時間でこなしてから授業に臨む。
「始めた当初はメニューの最後になると身体がバラバラになっていたが、今は形をしっかり作って振れるようになった」と身長は低くても中軸として強い打球を放ち続ける玉井が効果を語れば、伊藤も「9分割した中で素振りをするので、どのコースにも対応できるようになった」と強調。事実、朝練習を見てもほとんどの選手がしっかり軸をブラさず振ることができていた。
「野球がうまくなることはもちろん、学生野球なので普段の学校生活から気を抜かないことで集中力を高めようとしている」小松ではトレーナーを務めていた北 裕則コーチや、今年3月に小松卒業後、聖カタリナ大での学生生活を送りながら「選手とコニュニケーションを取り、小松での経験を教えながら、僕も指導者になるために勉強している」大工 寛太コーチとも手を取り合いながら、自ら考え、量をこなす中で質を高める「成長過程」。その中間点として夏の愛媛大会ベスト8の躍進があった。
「名門」の雰囲気・プライドに敗れた新人戦と秋初代主将・新保 雄太郎(聖カタリナ学園高等学校)
このように確かな収穫の反面、「試合ごとに足をつる選手がいた」と新保が振り返ったスタミナ面や、「全試合リリーフした中、2番手の僕が打たれてしまった」と悔いる入江や、「少ないピンチで失点したのは、僕が捕手として投手の投げやすさを作れなかったから」(女房役の大森)など、敗れた準々決勝・東温戦の反省を糧に新人戦へと突入した聖カタリナ学園。
中予地区新人戦では2回戦で松山商と対戦。ここで越智監督は自らが高校・大学時代に背負っていたものを松山商に感じる。「『1年生チームに負けてはいけない』という名門の雰囲気とプライドを感じました」。宇和島東や早稲田大で「このユニフォームや看板を行動面を含めて汚してはいけないと思っていた」荒々しいまでの想い。「夏のようにアップから声が出ない動きの悪さがそのまま出た」(大森)選手たちの悪い予感は、最終回に2点を奪ったのみの2対6の完敗につながった。
如水館(広島)や明徳義塾(高知)との練習試合では勝利し迎えた秋。中予地区予選・代表決定戦の北条戦では「投手攻略の方法について僕とのディスカッションや、根拠を持って点を取ろうとすることができるようになってきた」(越智監督)積み上げが見える試合巧者ぶりを見せつけた。
だが、県大会1回戦・宇和島東戦では初回の先制点を活かせず1対5。結果的に名門の壁を超えることはできず。「自分の球数が多く、チームとしても自分としても先手が取れなかった」。先発6回で110球を投げさせられ7四死球5失点の新保は唇を噛んだ。
2017年は夏への準備を高め、「躍進」から「結果」へ勝利を決める一打に歓喜の輪が広がる(聖カタリナ学園高等学校)
かつて野球王国と言われた愛媛県だが、現状は厳しい。近年でも夏は2013年に済美、春は2015年に今治西・松山東が挙げた1勝から3季連続甲子園勝ち星なし(2016年はセンバツ出場なし)。複数勝利は2013年春・済美の準優勝からないのが現実である。
愛媛松山ボーイズでは京都翔英(京都)に進学した瀧野 雅太(3年・投手・東京国際大進学予定)や阿部 大弥(2年)が四国の中学硬式野球界で抜きんでた力を発揮していたことをチームメイトとして痛感していた玉井もこう語る。「瀧野さんや阿部さんの京都翔英は夏の京都大会で他を圧倒していたのに、甲子園では初戦敗退。甲子園は改めてレベルが違うと感じました」
ただ、それらの壁を超える準備はできつつある。夏へ向けてハードな練習に取り組み、けが人が多数出た最中でも中予地区1年生大会を制した特典として、愛媛県大学選抜と対戦した11月23日の「愛媛県野球フェスティバル」。チームは終始主導権を相手に渡さず5点を奪い、新保も初の9回完投・自責点0で5対2と快勝。改めて実力は年上相手にもそん色ないことを示した。
「夏までに投手を援護する打線になるために、下位からでも振っていける怖さを出したい。秋季大会直後からトレーニングしている中で打球の速さはみえた。来年は怖さを与えながら、真の強さ・厳しさを出していければと思っています」
越智監督が総括した2016年。さらに2017年は大学生相手に見せた成果の一端から「初回からバットを振り、守備で投手を援護できるチーム」と選手たちも異口同音に掲げるチームコンセプト実現のため、精度と集中力を高めて甲子園出場のその先へ。「躍進」の初年度を大学生撃破で終えた聖カタリナ学園は、真の「結果」を出す2年目に向かう。
(取材・文=寺下 友徳)
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