市立船橋サッカー部「サッカーで必要な動き出しのパワーは野球にも生きる」【後編】
前編では永井 将史コーチに、トレーニングをする前に、トレーニングの取り組みで大事にしてほしい姿勢を語っていただきました。そして卒業後Jリーグに進む杉岡 大暉選手、高 宇洋選手に3年間の取り組みを伺いました。後編では、瞬発力を発揮するためのトレーニングやポイントを解説していただきます。
瞬発力を発揮するための2つのポイントとは?ストレッチは欠かせない(市立船橋)
サッカーは競技特性上、切り返しの動作が多い。そのため「疲労で筋肉が短くなりやすく、そうなるとステップなどの動きが崩れやすいことから、ストレッチではしっかり伸ばすようにしています」と永井コーチは教えてくれた。
野球とは競技特性が異なるサッカーだが、サッカーでは「瞬発力」についてどのように考えているのだろうか。「サッカーは試合でいつも選手が全力で走っているかというと、決してそうではありません。歩くようなスピードの時もあるし、止まっている時もある。そこから動き出した時にいかに強い力を出すか。この動き出しでのスピードが、サッカーで求められる『瞬発力』になります」
「瞬発力」を発揮するためのポイントは2つあるそうだ。1つは走るフォーム。永井コーチは「1歩目、2歩目の足を地面のどこに着くのかも含めたフォームが大事。トレーニングを通してスピードを出すための「カタチ」を作るようにしています」と説明する。
そしてもう1つが筋力だ。「1歩目で力を伝えるには、地面に力を伝えられる、理に叶った「カタチ」が必要ですが、これに加えて、力強く地面を蹴る力、つまり筋力が求められます。ですから瞬発力については、「カタチ作り」と「筋力アップ」の両面のトレーニングを行っています」
野球でも動き出しのスピードは求められる。イチロー選手の走り方を研究するなど、野球の動きも勉強している永井コーチはこう話す。「野球の技術的な部分は詳しくわかりませんが、たとえば盗塁する時のスタートの時、あるいはゴロやフライを捕る時、動き出しのスピードが必要になると思います」
また野球選手の動きについて、次のように感じているという。「サッカー選手と比べると、動く時の、特に横方向への動き出しの時の姿勢がいいですね。これは競技特性上、回旋の動作があるからだと思います」
野球でも活用できるサッカーのトレーニング4種取材当日、市立船橋高サッカー部は、ボールを使った練習を行う前に「動き出しのスピード」を鍛えるいくつかのトレーニングを行っていた。こうしたメニューはサッカー専用というわけではなく「野球も含めた、動き出しのスピードが求められる全ての競技に当てはまる」(永井コーチ)という。そこでそれぞれの目的やポイントについて解説してもらった。
1.ハーネスを使ったニーアップウォーク
「瞬発力を発揮するための理に叶ったフォームで走るには、体幹が安定しなければいけません。そのため、パートナーから引っ張られても、上半身がぶれないようにするのが1つのポイント。そして片方のヒザを上げた時、もう一方の足のヒザが伸び切るよう、お尻にしっかり力を入れる。これが2つ目のポイントになります」
2.チューブサイドウォーク
「これはお尻周りのトレーニングです。サッカーの場合、カッティングと呼ばれる方向転換の動作があり、この時、お尻周りの力が必要になるので。野球にも切り返しの動作がありますから、この部分を鍛えるのは大切だと思います。2本のチューブを足につけ、体を横にして左側に進んでいくのですが、この時、後ろの足で地面を押すのがポイントす。お尻周りを鍛えつつ、ヒザ周りも安定させます」
3.ミニハードルを使ったダッシュ
「5本のミニハードルを越えてから、10mくらい先にあるコーンまで全力で走ります。サッカーでは10〜15mほどの距離を走る「スプリント」を何回も行うので、そのための動き出しの力を養います」
4.チューブ走
「10mほどの長いチューブを腰に巻き、パートナーが引っ張る方向へ走ります。これは引っ張ってもらうことで、自分が持っている以上のスピードが出るからです。そうすることで筋肉を刺激するのが目的です」
すぐに実践できる野球での瞬発力を養うためのメニュー解説してもらったこの4つのメニューはいずれも用具が必要だが、用具がなくてもすぐに実践できる、野球選手が瞬発力を養うためのメニューも、永井コーチに紹介してもらった。
A.ステップバックスタート
「これは前方向への動き出しのトレーニングになります。ステップバックでは、姿勢がとても重要で、前足に体重を乗せるために、少しだけ後ろの足を引きます(シューズ1足分くらい)。いわゆる“ヨーイ ドン”のポジションを作るわけですが、この時、足首、ヒザ、股関節、肩が一直線になるのがポイントです。なぜなら、こうすることで地面に効率良く力が伝わるからです。一直線になっていないと、力が伝わりません。一直線になっているか、パートナーに確認してもらったり、前から押してもらってこのポジション作りを手伝ってもらうといいでしょう」
B.オープンステップスタート
「オープンステップスタートは横方向の動き出しです。盗塁でのスタートに似ているかもしれませんね。オープンの姿勢から右足に体重を乗せ、つまり進行方向に重心を乗せて、一歩目が遅れないようにします。そしてつま先の位置を変え、A同様の“ヨーイ ドン”のポジションを作ってスタートします。
C.ジャンプスクワット
「先も言いました通り、瞬発力を発揮するには筋力が必要になります。ジャンプスクワットは筋力をつけるための種目で、文字通り、スクワットをしながらジャンプして、股関節を伸展するパワーを養います。このポイントは、しゃがんだ姿勢からジャンプした際に、骨盤を起こすこと。ジャンプする時、踵で地面を押し切るようにすると、自然に骨盤が立ちます。骨盤の切り返しを意識してください。ジャンプから着地した時に、着地を安定させるのもポイントです」
3つのメニューはすぐに実践できる半面、ポジションが間違っていたら効果は期待できない。この3つのメニューに限らず「トレーニングは全て、目的やポイントを正しく理解した上で、1つ1つの動作を丁寧にやることが肝要です」と永井コーチ。そう、“こなす”のではなく、“正しくやる”ことが大切なのだ。
もしかしたらキミは、量や本数をこなすことで満足してはいないだろうか?永井コーチは「量より質がトレーニング効果を高めます」とキッパリ。瞬発力系のトレーニングを実のあるものにするためにも、一度、ふだんの自分のやり方を見直すといいだろう。
(取材/文・上原 伸一)
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