現在も親しまれている『サザエさん』(※画像はイメージです)

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『サザエさん』の波平役を務めた永井一郎が亡くなって、来年1月で早3年。当時の情報・報道番組では、何度も「バッカモーン!」という例の怒号が繰り返し流され、各局トップニュース扱いで「日本のお父さん」の死を悼んでいたものです。

そもそも、人気長寿アニメにおいて声優の加齢、そして死は、不可避な課題と言えます。1979年から放送を開始した『ドラえもん』は、2005年に主要キャラの声優をまるまる総とっかえし、これを克服しました。
しかし、こうした荒療治を行うケースは稀であり、1969年から放送を開始した『サザエさん』におけるメインキャラクターの配役は、基本、現状維持路線。そのため、老齢に達した声優陣の誰かが突如鬼籍に入る可能性は常に抱えているわけです。

『サザエさん』収録中に倒れたカツオ役の声優


思えば、今から18年前。カツオ役を務めた声優・高橋和枝が亡くなったときも、波平死去の報同様、まるで大物芸能人でも無くなったかのような大ニュースとして、メディアで取り上げられていました。
事の発端は1998年5月14日。『サザエさん』収録中に異変は起こります。かねてよりの持病であり、治療困難な難病とされる「骨髄異形成症候群」による容態急変のため、高橋は突然倒れてしまったのです。
すぐに東京都文京区の東大附属病院に搬送され、以降、入院生活を余儀なくされることに。これにより、28年間続けてきたカツオ役を、無念ながらも降板せざるを得なくなります。

突然「声変わり」したカツオ、視聴者からは問い合わせ殺到


困ったのは、『サザエさん』のスタッフたちです。何せ、収録の途中で主要な役を演じる人間がいなくなってしまったのだから。そこで急遽、白羽の矢が立てられたのは、その日、伊佐坂ウキエ役を演じに来ていた冨永みーなです。
彼女は、このアニメにおいて、ウキエさん以外にも早川さん・みゆきちゃん・イカコ・リカちゃんのママ役など、長らく脇役を歴任してきた名バイプレイヤーでした。しかし、女キャラのアテレコを得意とする彼女と、高橋の声質は明らかに別物。波平のように、永井から茶風林に変わることが放送前から広く通達された3年前とは違い、この時は何の前触れもなく「カツオの声変わり」が起こったために、視聴者からは問い合わせが殺到します。

中田英寿から回復祈願の手紙が届くも…


最初のうちは批判する向きが多かったものの、変質の理由がメディアを通して公示されると一転。励ましと回復祈願の声が多数寄せられ、サッカー元日本代表の中田英寿や元F1レーサーの中野信治も、病床の高橋に手紙を送ったといいます。
しかし周囲の祈りもむなしく、1999年3月23日午後5時、彼女は70歳の生涯に幕を閉じました。なお、危篤状態の時に、永井が「高橋さん」と呼びかけても反応はなかったものの、「カツオ」と呼ぶと、小さく「はーい」と返したそうです。

葬儀の席では、永井が弔辞を担当。実年齢では3つ上の高橋に「カツオ、親より先に逝くやつがあるか…」と、父・波平として語りかけます。締めくくりもやはり、波平の声で「カツオ、桜が咲いたよ、散歩にいかんか…?」と一言。
あれから、17年。今では2人とも同じ雲の上の住人となり、明けて来春には、3度目の桜を眺望しにいくに違いありません。
(こじへい)

※イメージ画像はamazonよりサザエさん よりぬきカツオくん