CEOを退いた鈴木修会長

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スズキは2016年6月8日、鈴木修会長(86)が兼務する最高経営責任者(CEO)職について、6月29日の定時株主総会をもって辞任すると発表した。燃費データ不正問題の責任をとる。一方で「代表取締役会長」には留任する。一般ユーザーには分かりにくい話だが、株式市場はこれを「問題に一区切りつく」と好感しており、スズキの株価低下に歯止めがかかりつつあるようだ。

三菱自動車に続く形でスズキの燃費データ不正が明らかになったのは5月18日。昼にニュースが伝わると業績への悪影響を懸念する見方が広がり、午後の株式市場スズキの株価は急落し、年初来安値を更新し2450円をつけた。同日夕に国土交通省でスズキの鈴木会長らが記者会見してデータ不正を正式発表したが、「三菱自のように燃費性能をよく見せようとしてデータを改ざんしたわけではないので生産・販売は続ける」と強調。火消しに躍起になる姿がテレビのニュースなどに映し出された。

副社長辞任だけでは「いかにもトカゲの尻尾切り」

しかし「三菱自とは違う」との説明に消費者の反応は厳しかった。6月6日に発表された5月のスズキの銘柄ごとの軽自動車販売は、「ハスラー」が20.9%減、「ワゴンR」が28.4%減などと、前年同月比で大きく減少。一方でライバルのダイハツ工業は「タント」が29.9%増などと大幅に販売を伸ばし、不祥事企業から顧客を奪ったことをうかがわせた。スズキの株価は6月に入っても4日連続で下げるなど冴えない展開が続いた。

そうしたスズキが、「逆風」なお吹き続ける中で迎えた6月8日の記者会見。この日は国土交通省に再発防止策などを報告し、それを発表するものだった。しかし再発防止策と言っても「技術者の教育、研修」など特段目新しいものはなく、必然的に目玉は「修会長のCEO辞任」となリ、マスコミ各社もこぞって報道した。

ただ、株式市場が好感したのは皮肉にも「CEO辞任」より「会長留任」の方だったようだ。というのも、同時に技術担当の本田治副社長(66)が引責辞任するのだが、それだけではいかにもトカゲの尻尾切り。ワンマンの修会長がCEOを辞任することで、けじめをつけたことになるという判断だろう。一方で、会長留任で実権はなお握り続けるという、絶妙の処置ということか。

「ワンマン経営は変わらない」と見る向きが多い

もちろん、高齢の修会長が「企業規模からして私1人で(経営を)見ることは不可能」と説明するように、ワンマンから集団指導に進むのは、長い目で見れば不可避。自動車業界では「修氏が代表権を持つ会長を続けるならワンマン経営は変わらない」と見る向きが多く、「けじめ論」にも概して冷ややかな一方、株式市場はむしろ「修会長のリーダーシップが維持されることで経営が安定することを好感した」(国内証券大手)という複雑な反応になった。

とはいえ、これで信頼を回復できるか。本当に一区切りついたかどうかはまだ不透明で、消費者の厳しい視線が注がれる状況が、しばらく続く可能性もある。