なぜファンは魅了され続けるのか?巧みな動画マーケティングを展開するLEGO社に学ぶマルチプラットフォーム戦略
組み立てブロックでの“遊び”を追求し続ける世界的おもちゃ企業、LEGO社。
メインユーザーは子どもですが、そのブランドや商品力に夢中になる大人も世界中に存在します。また大人は子どものおもちゃを買う立場でもあるため、あらゆる世代に対する的確なコミュニケーションが求められると言えます。
そんなLEGO社が各プラットフォームで展開する動画施策事例を集め、そのコンテンツ戦略を紐解いてみましょう。
世界に1100万人以上のファンを抱えるFacebookページでは、新商品や映画作品などに絡めた動画や画像を頻繁に投稿。コメントや「いいね!」を通してファンと積極的に対話を行っています。また、ひとつのテーマでファンからオリジナルの作品を募集するコンテスト企画を定期的に開催するなど、レゴの楽しさをさまざまな形で伝えています。
また、子どもの好奇心や創造力を刺激し、自由な発想で何でも作れることに価値を持つのがレゴですが、一度組み立てたら終わり、という競合商品との違いを改めて認識してもらうために昨年展開されたのが「Kronkiwongi」キャンペーンです(参考)。本キャンペーンはターゲットを母親層に絞り、Kronkiwongiという意味を持たない言葉から連想するものを子どもたちに自由に作ってもらうことで、レゴ商品の価値を改めて訴求しました。
▽ 子どもたちの無限の発想力を再認識させる
フリークエンシーレベルを最適化しながらFacebook広告を配信したところ、世界15カ国でのべ2400万人の母親層にリーチ。これはFacebookユーザーの母親層の80%に相当します。また英国では想像力や創造性といったブランドイメージが7%向上しました。動画は3700万回再生され、CPV0.03ドルという欧州の相場では非常に良い結果を残したそうです。
LEGO Groupのディレクター、Lars Silberbauerは「何百万もの親世代にリーチすることはFacebookなしには実現しなかった」と語っています。Facebookの精緻なターゲティング機能を活用した、ピンポイントのメッセージと配信が成功のポイントと言えるでしょう。
リアルタイムなコミュニケーションを得意とするTwitterでは、Facebook同様のコンテンツのほかに、スポーツイベントなどタイムリーな話題に合わせた投稿を実施しているのが特徴的です。
▽ ロンドンマラソン(左)やエリザベル女王の誕生日(右)を記念した投稿
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また、ユーザーからの問い合わせなどに対応するカスタマーサポート窓口としてTwitterを活用する企業は多く存在しますが、LEGO社はそれに加えて、一歩進んだ動画コミュニケーションを展開しています。
その一例が「#LEGOTalks」というTwitterならではのユニークなイベントです。事前にハッシュタグを使ってユーザーからさまざまな質問を募集し、イベント時にLEGOスタッフが次々とTwitter上で回答していくという企画ですが、回答役であるサステイナビリティ(環境対策)担当者の人となりを動画を通して事前に見せることで、多くのユーザーの参加を促しています。
Got a question for Tim, our head of Environmental Sustainability? He'll be answering as many possible! #LEGOTalkshttps://t.co/q4JVRlvn0y
- LEGO (@LEGO_Group) 2016年3月1日
また、通常であればなかなか一般ユーザーの関心を引きにくい業績発表も、「2015年に何個のブロックが売れたと思いますか?」といった、普通の人でもちょっと気になる問いかけと動画で上手に興味喚起を図っています。
How many LEGO bricks did we sell in 2015... and how far would they reach? Find out here! https://t.co/jaq2exlKH4https://t.co/E88btz0X4N
- LEGO (@LEGO_Group) 2016年3月2日
もちろん、CEOによる業績発表の様子はPeriscopeを使ってライブ動画配信されました。
クリエイティブの質が求められるInstagramでは、その世界観に合ったエンターテインメント性の高い動画コンテンツを多く配信しています。フォロワーの数は120万人を超えています。
またInstagramはFacebookやTwitterよりもユーザー層が若いという特徴があります。幼児向けの大きめのレゴ(LEGO DEPLO)を使ってアイテムを組み立てるアイデアをInstagramらしい世界観で表現した次のようなシリーズ動画は、若い母親層を意識していると推測できます。
また、投稿が時系列に表示されるという特性を活かし、シリーズ化されたショートストーリーコンテンツを順番に配信しているのもInstagramならではです。(※Instagramは順次アルゴリズムによる表示に切り替えられています)
▽ Minecraftシリーズを用いた短編動画シリーズ
YouTube
以上のように、各種SNSの特性に合わせたコンテンツ戦略がとられていることが分かりましたが、LEGO社のYouTubeチャンネルも忘れてはいけません。
2016年2月には、Red BullやPlayStationなどをおさえ、トータル動画再生回数で1位に輝きました。その数はなんと1億8400万回。1日あたりの動画配信本数も平均10本を超えるという力の入れようです。
動画コンテンツも非常にバラエティ豊かですが、上記SNSとは異なり、メインターゲットである子どもが楽しめるコンテンツが中心になっています。シリーズ展開されているコンテンツが多いため、何度も訪れたくなるチャンネルになっていることもポイントです。チャンネル登録者数は150万を超え、ソーシャルメディアのようなつながりではないものの、リッチなコンテンツを通してファンと継続的なコミュニケーションを図っていることが分かります。
▽ ニュースショウシリーズ
▽ “Ninjagoシリーズの中でもっともワルいキャラクターは誰?”を子どもにインタビュー。コメント欄にもファンがそれぞれの意見を書き込み、盛り上がりを見せている
▽ 大人気のスターウォーズシリーズ
視聴者を楽しませるコンテンツとメディアの取捨選択
このようにさまざまな動画施策をまとめてみると、LEGO社の動画コンテンツには「ファンが楽しめるもの」という徹底した方針が見えてきます。たとえ新商品の告知が目的であっても、商品の購入を直接的に促すのではなく、あくまでその世界観を楽しんで好きになってもらうことでブランドのファンになり、その結果として商品の購入につながることを目指しているのでしょう。
そしてその大前提のもとでプラットフォーム、メディアごとにコンテンツを巧みに使い分けていることも明らかです。各メディアのユーザー層や特性を十分に理解し、最適なコンテンツを配信し続けることが大切なことは言うまでもありません。当然コストも手間もかかりますが、LEGO社が実際に成功を収めているという事実が背中を押してくれるのではないでしょうか。
またマルチプラットフォーム戦略を進める上では、メディアの選定も大切なポイントです。LEGO社はVineでもアカウントを開設していますが、その投稿数は明らかに少なく、今年に入ってからはまったく動きを見せていません。限られたリソースで最大限の効果を上げるために、メディアの戦略的な取捨選択をしていることがうかがえます。
LEGO社は他社に先駆けて早くから動画施策に取り組み、今や動画マーケティングに成功しているブランドのひとつとして名前が挙がる存在です。どこよりも経験値を積むことで、独自の戦略を見出しているのでしょう。そのエッセンスを参考にしつつ、自社の成功の方程式を見つけていきたいものです。