「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。「看る」、「看護」「看病」の「看」。今年は5月8日から看護週間が始まります。今回は「看」に込められた物語を紹介します。



「看」という字は「手」を書いてその下に「目」と書き、目の上に手をかざしてものを「みる」という意味を表しています。

手をかざすのは遠くをしげしげとみるときの動作。

そこから「見抜こうとする」「見守る」という意味ももつようになりました。

古代中国では、目には呪力があると考えられ、「みる」ことは特別な行為とされていました。

その対象に霊的な働きかけをし、内部の奥深くへと入り込んでいく行為が「みる」だったのです。

まずは目の上に手をかざし、状況を俯瞰しながら遠目で「みる」。

次にその手を直接さしのべ、おだやかな気持ちでゆったりと「みる」。

不安を取り去ったそのあとで、ひらかれたこころの中を「みる」。

「看護」「看病」の「看」、「看る」という字には、人が人を思いやり、関わろうとするときの基本が示されています。

専門的な知識をもつ医師などいなかった、いにしえの頃。

病人やけが人が出たときは、村中が力をあわせて看病にあたります。

人々はからだの状態や心もちを理解するため、患者の様子を注意深く見守りながら、さまざまな手を尽くします。

太陽が温めた石を、痛む場所にそっと当ててみる。

冷たい川の水に浸した布を腫れた患部にのせる。

果実をしぼってゆっくりと含ませる。

それでも苦しみ続ける人には手をのばし、身体をやさしくなで、さする。

「看」という漢字には、看護の原点があるのです。

ではここで、もう一度「看」という字を感じてみてください。

「スキンハンガー」とは「肌が飢えている状態」のこと。

今、子どもにも大人にも、肌のぬくもりが足りていないといわれています。

目の前に居るその人の状態を見きわめたうえで、ふるえる手を包み込む。

まるまった背中をなで、力ない肩をぽんぽん、とたたく。

それだけでも、胸のつかえはとれてゆくものです。

そして、災害にみまわれた方には、今できることを、できるだけ。

データを分析し、情報をつめこむだけでは、人の痛みなどわかるはずがありません。

今、起こっている現象を我が目で見つめ、近づいて触れてみる。

そして、相手が本当に求めているものは何か、こころの声に耳を傾ける。

「看」という字のもつ本来の意味を今、改めてかみしめたいものです。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。

その想いを受けとって、感じてみたら……、

ほら、今日一日が違って見えるはず。

*参考文献

『常用字解(第二版)』(白川静/平凡社)

『看護の力』(川嶋みどり/岩波新書)

5月7日の放送では「鳥」に込められた物語を紹介します。お楽しみに。

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<番組概要>

番組名:「感じて、漢字の世界」

放送エリア:TOKYO FMをはじめとする、JFN全国38局ネット

放送日時 :TOKYO FMは毎週土曜7:20〜7:30(JFN各局の放送時間は番組Webサイトでご確認ください)

パーソナリティ:山根基世

番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/kanji/