「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今日の漢字は「新」。新学期や新年度の始まりにひもとくこの漢字には、意外な成り立ちの物語がかくされています。今回は「新」に込められた物語を紹介します。



「新」という字は「立」に「木」、その横に「斤(きん・おの)」と書きます。

「立」の部分は「辛い(からい・つらい)」という字を省略した形。

これは、取っ手のついた大きな針を表しています。

古代中国では、木にむかってこの針を投げ、当たった木を使って親の位牌を作るという慣わしがありました。

その木を切る道具が「斤(おの)」。

つまり「新」という漢字は、亡くなった親の新しい位牌を作るため、神の御心によって選ばれた神木を斧で切り出す作業を表したもの。

そこから「あたらしい、はじめ」という意味をもつようになったのです。

瞳を閉じて母の顔を思い浮かべ、森にたたずむいにしえの人。

息をひきとった母の位牌を作るための木を、私にお示しください。

神に祈りを捧げながら、取っ手のついた大きな針を放り投げます。

針が当たったのは青々とした葉を茂らせた立派な大木。

ごつごつとした幹に触れながら、その人は木を見上げます。

静かなたたずまい、力強い息遣い。

春の光が織りなすやすらぎの影。

みずみずしく清涼な香り。

そういえば、この木はどこか、母に似ている。

人に新たな命を授け、あの世とこの世をつなげる木。

ひとつの命が終わりを告げて、新しい出会いを運んできたようです。

ではここで、もう一度「新」という字を感じてみてください。

いにしえの人は、新たな心のよりどころとして、親の位牌を作ったその木を、幾度もたずねたことでしょう。

慣れない日々の緊張や興奮に疲れたとき。

自分自身を支える幸せな記憶を取り戻したいとき。

愛する人のいのちが形を変えて、ずっとそばにあることを確かめたくなったとき。

新しい世界で懸命に生きようとするその姿を、静かに見守り続ける一本の木のような存在が、あなたにもきっと、あるはずです。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。

その想いを受けとって、感じてみたら……、

ほら、今日一日が違って見えるはず。

*参考文献

『常用字解(第二版)』(白川静/平凡社)

4月9日の放送では「田」に込められた物語を紹介します。お楽しみに。

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<番組概要>

番組名:「感じて、漢字の世界」

放送エリア:TOKYO FMをはじめとする、JFN全国38局ネット

放送日時 :TOKYO FMは毎週土曜7:20〜7:30(JFN各局の放送時間は番組Webサイトでご確認ください)

パーソナリティ:山根基世

番組Webサイト:http://www.tfm.co.jp/kanji/