安いものにはワケがある。規制緩和のツケ/増沢 隆太
・「自由の責任」
自由は自由である責任を伴います。自己責任論が定着し、自分勝手なふるまいで他人や公的サービスに迷惑をかければ、たちまち大きな批判を呼ぶようになりました。勝手に危険地域や立入り禁止地に出かけ、何千万もの税金で救助を受けたりすれば、ネットという環境下では壊滅的な批判が巻き起こります。
しかし事故や事件で被害者をすべて一方的に自己責任と斬り捨てることはできません。本人の責によらない事故や失敗であれば、税金や公的サービスを使って援助することは社会の責任だといえます。
ハーフの芸能人に侮辱的な発言をした古市憲寿氏が批判されていますが、これは当然出自・出身といった、自分の力ではどうすることもできない事象を侮辱するという、差別そのものだからです。このような不可抗力での被害から守ることは社会の責任です。
話はずれますが、この件、古市氏ご本人にそこまでの自覚はなく、単にウケ狙いのボケが滑っただけではないかと想像します。文化人が挑発的言辞を使うには、プロのお笑い芸人さんのようなセンスを持たなければ無理です。ウケを取る素人の分際でボケをなめるなと思いました。
・規制緩和のツケ
2000年代初頭の規制緩和で、乗合バスなどは大幅な自由化が実現されました。免許制から許可制になり、運賃も価格決定への規制が大きく自由化されたのです。これにより競争当然激しくなりました。特に参入障壁が自由化で下がった訳ですから、今回事故を起こした会社のような中小零細企業も新規参入できるようになったのです。
結果としてバス運賃はどんどんダンピングされ、安い料金でバス旅行を実現できるようになりました。規制緩和バンザイ、めでたしめでたし・・・では当然ないのです。
自由には責任が伴います。安いものにはワケがあるのです。もちろんわれわれ一消費者はその安いワケを見抜けることも見抜けないこともあります。バス事故が起こるたびに事故を起こしたバス会社を吊し上げまではイキオイが出ますが、それ以後は皆すっかり忘れ、価格比較サイトで最安値バスを選ぶ生活は元通りになります。
廃棄のカツを格安で転売、市販するという外国のことのような話が実際に起こりました。安いものには確実に理由があります。
・ズルさせない手段
もし詐欺など犯罪を犯してもその罰が軽かったらどうでしょう。犯罪によって得られる利益より、罰の方が小さければ、犯罪をやったもの勝ちになります。「ズルしていただき(Ceat to Win)」というモラルハザードを許さないためには、一度でも利益のために人命に関わるような犯罪をしたならば、永遠に立ち直れないほどの厳罰が必要だと思います。
破産や懲役刑を食らったくらいでは収まらない、大手グループなら本体にも影響するほどの巨額の賠償責任を負わせる。それが負えないような事業者は排除するといった、障壁は、こうしたズルを防ぐには有効だと考えます。
もちろんその結果サービス料金は上がるでしょう。確か国民の強い支持を受けているという安倍自民党政権はインフレを目指しているはず。であれば、規制強化によって値上げが起こることはインフレにもなるし、国民を守ることにもなるし、一挙両得ではないのでしょうか?
・元日営業自粛はフェアトレードである
今年の正月は大手流通業、デパートや量販店が元旦営業自粛を相次いで発表しました。正月は元日から営業が「普通」となって定着した風潮を変えたのです。正月営業自粛によって生活が立ち行かない人、生命の危機を感じた人は出たでしょうか。
便利で安価な生活は文明としてレベルの高さだと思います。しかし不必要な便利さや、その製品やサービスを生産する産地や製造者からの搾取ともいえるほどの激しいコスト圧迫の結果がこのバス事故だと感じます。安すぎるアパレル、コーヒー、食品・・・フェアではない製造調達プロセスが疑われます。
安すぎるサービスを国が放置している以上、われわれ消費者自身が身を守るしか今は手段がありません。消費者保護の行政は本来はこうした国民ができない質的チェックに向けられるべきと思います。それがない以上、「安いものにはワケがある」が今のところ唯一の防衛手段でしょう。
政府には、経済競争における強い自己責任の追求を求めます。不可抗力ではなく、利益のためのズルであれば二度と立ち上がれないほどの罰金や処罰を。われわれ消費者はフェアトレードを実現するため、分相応の負担、値上げを受ける必要があるでしょう。