人材紹介、求人広告、ダイレクト・リクルーティングのメリ・デメ比較 〜採用手法を理解し「売り手市場」で勝つ方法を見極める〜/HRレビュー 編集部
「売り手市場」といわれる昨今の中途採用市場。採用担当者は欲しい人材がなかなか採用できないという課題を抱えています。採用が年々難しくなっていくなか、代表的な採用サービスである「人材紹介」「求人広告」「ダイレクト・リクルーティング」などを比較した記事や情報は少なく、採用担当者の方のなかには次にとるべき手段がわからずお困りの方も多いのではないでしょうか。そこで今回、HRレビューでは代表的な採用サービスのメリット・デメリットを比較・解説し、優秀な人材を確保するために採用担当者がとるべき手法についてご説明します。
中途採用はいま「売り手市場」
2015年12月25日に厚生労働省から発表された11月の有効求人倍率(季節調整値)は1.25倍で、23年10カ月ぶりの高水準となりました。12月には米FOMCによって10年ぶりに政策金利の利上げが決定し、米経済情勢も緩やかな景気拡大を続けていることが伺えます。テロなどの地政学的なリスクの可能性も引き続き高まっており、景気動向がどちらに動くのかは不透明ですが、少なくとも日本における求職者の売り手市場は今後も続くと見て対策を考える必要があるでしょう。
まず、中途採用において利用されている手段やサービスはどのようなものが多いのでしょうか? HR総研が2014年に中途採用を行った企業に対して行った調査で、次のような結果が出ています。
2014年に中途採用で利用されてた手段・支援サービス ※複数回答可 (HR総研調べ)
有料サービスである「人材紹介」(62%)、「求人広告(インターネット)」(43%)が1位、2位を占め、3位からは無料で採用活動を行える「自社ホームページ」(42%)、「ハローワーク」(41%)、「従業員からの紹介」(いわゆるリファラル・リクルーティング)(35%)が続きます。その他従来型の「転職情報誌」や「新聞広告」など紙媒体での求人募集も一定数ある一方、まだまだ「転職データベース」(いわゆるダイレクト・リクルーティングのデータベース等)は使われる機会が少ないのが現状のようです。
「人材紹介」サービスは、厚生労働大臣の許可を受けた人材紹介会社が、企業から依頼を受けて、該当する候補者を紹介するサービスです。一方の「求人広告」サービスは、インターネットや情報誌、新聞などの紙媒体を利用して企業の採用情報を求職者に紹介するサービスです。
これらの有料サービスを利用し、かつ自社ホームページやハローワークなどの無料の媒体も活用し、それでもまだ自社の採用ニーズを充足できないとしたら、次に考えるべきはその他の手段です。
それが「ダイレクト・リクルーティング」に代表される「転職データベース」でしょう。「ダイレクト・リクルーティング」とは、人材紹介会社に依頼をしたり、求人広告を出したりして受動的に応募者が集まるのを待つのではなく、自ら積極的に優秀人材に声がけをし、「面談」や「面接」で自社への転職意欲を高めることで、最終的に内定承諾を促す採用手法です。受動的に待っているだけでは採用が難しい優秀層と接点を持てるのが、ダイレクト・リクルーティングの特長です。
「ダイレクト・リクルーティング」を実践するにあたって優秀な人材と知り合う手段はどんな媒体でもかまいません。人材紹介会社や求人広告、転職データベース、SNS、自社ホームページ、ハローワークなどさまざまな媒体を戦略的・包括的に活用して、採用の基点となる(優秀な人材の)母集団を集めて、その時点では自社への意向が低かったとしても意向上げを行って内定承諾へと誘導すればよいのです。
ダイレクト・リクルーティングで使われる、「面談」と「面接」を使い分けて候補者の転職意欲を高める手法は、人材紹介や従業員からの紹介で知り合った、まだ意向がはっきりしない人材への説得にも使えるので、人材紹介や求人広告と組み合わせて使うと、最大の効果が得られる可能性があります(「面談」と「面接」の使い分けについてはコチラの記事をご参照ください)。
「人材紹介」は、人材を紹介してくれるが、もっとも優秀な人材を紹介してくれるとは限らない
メリットデメリット
- 担当の人材コンサルタントに、的確に人材要件を伝えられれば、待っているだけで要件に合った人材とピンポイントで出会うことができる
- 候補者との面接設定など、プロセスの大部分を人材コンサルタントに任せることができる
- 採用に関するさまざまなアドバイスを人材コンサルタントから受けることができる
- 採用に成功したときにだけ採用フィーを支払えばよい(ただし、エグゼクティブクラス専門の人材紹介会社では、コンサルティング費用として年間利用料を徴収している場合がある)
- 人材コンサルタントと信頼関係をうまく構築できていれば、そのとき自社で募集していないポジションの人材、ポジションをつくってでも採用したほうがいいような優秀な人材を推薦してくれることがある
- 採用に至った際の採用フィーは、一般的に入社者の年収の30%前後が日本の相場といわれており、入社者の年収によっては大きなコストがかかる場合がある
- 人材要件が担当の人材コンサルタントに的確に伝わっていないと、なかなか採用に至らない場合がある(担当の人材コンサルタントがその業界に精通していない場合など)
- 採用予定人数に対する最低限の人数しか紹介してもらえない。大きな母集団の形成は難しい
- 人材紹介は、自社にもっとも優秀な人材、もしくはもっとも適切な人材を紹介してくれるとは限らない。採用フィーを高く払ってくれる会社を優先する可能性が高い(しかもその事実はあなたには永遠にわからないのです)
「求人広告」は、求人情報を多くの人に見てもらえるが、採用できてもできなくても費用はかかる
メリットデメリット
- 大きな母集団を形成するのに向いている
- 求職者が自ら選択して応募してくる仕組みであるため、自社への転職意向が高い人材を集めやすい
- 思いがけない優秀な人材が応募する可能性がある
- (媒体によっては)求人広告を専門のライターやカメラマンが魅力的に作り上げてくれる
- 「何百万人も登録者がいる有名転職サイトで応募者が集まらなかったので、このポジションの採用は難しいです」という言い訳を上司にできなくもない
- 期間で広告枠を買う商品であるため、採用できてもできなくても費用がかかってしまう
- 良い場所への露出はコストが高い。求人サイトでは、お金を積まないと求人検索結果の上位に表示されない場合がある
- 一度求人を出したら、その内容を変更できないことが多い。もしくは変更のために追加料金が必要な場合がある
- 登録者を集める過程で玉石混交のデータベースであることが多く、応募者のなかから優秀な人材をスクリーニングするのに非常に手間がかかる場合がある
- 管理職やグローバル人材などのエグゼクティブ層の登録は限定的で、それらのポジションの採用には向かない場合がある
- 大企業・有名企業には大量に応募者が集まるが、中小企業・中堅企業などにおいては応募者が少ない場合がある。もしくは優秀層の応募が大企業に集中してしまう
- 「売り手市場」の環境下では、これまで応募してきていた層よりも下の層の人材しか応募してこない可能性がある(これまで採用してきた層の人材は、あなたの会社より給与などの条件に恵まれている企業に応募してしまうのです)
「ダイレクト・リクルーティング」は、「工数をかければ」良い人材と出会うことも可能
メリットデメリット
- 人材データベースが直接企業に開放されているので、人材要件にマッチした人材を納得がいくまで、とことん探すことができる。もし当初の人材要件にぴったり合う人材が見つからなかったとしても、活躍が期待できる候補者を採用担当者の判断で適宜ピックアップすることが可能
- スカウトによって優秀と思われる人材にのみ会うことができる
- 採用までの期間を短くできる。求人広告出稿期間や人材コンサルタントへの説明と推薦待ちの時間を挟まず、採用担当者が候補者に直接アプローチできるため、翌日に面談・面接を設定できる場合もある
- 人材紹介や求人広告と比較して、トータルコストを安く設定している場合が多い(ただし、サービスごとに料金設定が異なるので一概にはいえない)
- 転職意欲の低い候補者には、採用プロセスにのせる前に面談で意向をあげるようなアプローチを臨機応変にとることができる
- 「求人広告」や「人材紹介」で候補者として接点をつくれたものの、その時点で自社への意向が低い人であってもダイレクト・リクルーティングの手法のひとつである「意向上げ」のプロセスを行えば、採用できる可能性が高まる
- 良い人材と出会ってもふさわしいポジションがない場合、もしくはその人材がまだ転職する時期ではないと思っているとき、「タレントプール」と呼ばれるデータベースでコンタクト履歴を管理し、タイミングが合ったときに再度アプローチすることで優秀人材を逃さない(「タレントプール」についてはコチラの記事をご参照ください)
- Facebookなどの実名SNSを利用したダイレクト・リクルーティングサービスもある。現職の所属企業や経歴を公開していることも多いので、上手に使えば転職潜在層の優秀な人材にアプローチできる
- 中小企業や地方企業など、採用認知度が低くても、企業側からアプローチすることで興味を持ってもらえる可能性がある
- 従業員からの紹介は、昨今「リファラル・リクルーティング」と呼ばれるが、これもダイレクト・リクルーティングの一部。従業員の友人・知人であれば「無料」で声がけできる
- 人材データベースには転職顕在層と転職潜在層が混在している場合が多い。アプローチ時点で自社に興味を持っていない人材やそもそも転職意向がない人材を採用するには、意向あげや説得のプロセスに、採用担当者の工数がかかる
- ダイレクト・リクルーティングでは、自ら積極的に行動しなければ優秀な採用候補者とはいつまでも出会えないといっても過言ではない
- 現場担当者がダイレクト・リクルーティングの意義を理解し、面談による意向あげなどに協力しなければ採用成功確率があがらない
- 採用担当者側に、採用戦略の方針に関する設計力や、理想的な組織図の設計力が多分に必要とされ、より経営者に近い視点が求められる
<まとめ>候補者の特性など採用難度に合わせて人材紹介、求人広告、ダイレクト・リクルーティングを使い分ける
以上、ご覧いただいたとおりサービスごとに特徴があり、メリット・デメリットはそれぞれです。アプローチするターゲット層によって、利用すべきサービスを変えるべきでしょう。以下の図は採用ツールを使い分けるにあたって、各サービスが得意とする年収帯と年齢をマッピングしたものです。
※エグゼクティブ・サーチ・ファームとは?
今回説明を省略しましたが、エグゼクティブ・サーチ・ファームは、一流企業や有名企業の社長や取締役などに特化した人材紹介会社です。5大サーチファーム(スペンサースチュアート、ハイドリック&ストラグルズ、エゴンゼンダー、ラッセル・レイノルズ・アソシエイツ、コーン・フェリー)と呼ばれる有名な企業があります。
いかがでしたでしょうか? ターゲットに合ったサービスの選択、組み合わせを行い、自社に合った採用ツールのポートフォリオを作ることによって、「売り手市場」でも最大限優秀な人材を確保することをぜひめざしてください。
参考記事
・「面談」と「面接」を使い分ければ、母集団の数と質を飛躍的に改善できる
・優秀人材は2〜3年かけて口説くことも。人材採用の革命的手法「タレントプール」という考え方
文:冨田有香