増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ

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・イロモノ会見
2015年もさまざまな不祥事がありました。しかしゴーストライター騒動、STAP細胞、号泣県議と、ビジュアル的テレビ的注目を集める会見が集中した2014年に比べ、印象に残る謝罪が少なかったと思います。これは何が違うのでしょう。2014年に比べ、企業不祥事による会見が多かったため、エキセントリックなビジュアルが出にくかったというのが一番大きな違いではないでしょうか。

企業の謝罪では通常広報部門や管理部門が対応するため、芸能人や一般人のようなコーポレートコミュニケーションの素人が対応することは少なく、しっかりと練った準備をして臨むのが普通です。いかしそれでも炎上事件が起きることもあるように、完璧な防御策も広報策も存在はしないのですが、危機にどう対処するかという経営判断ができる分、個人で対応しなければならないことが多い芸能人よりましな対処が可能です。いってみればイロモノ会見にならないように準備ができるのは企業が上ということです。


・企業不祥事、オリンピックエンブレム
マンションの杭打ち事件、VWのデータ偽装、大塚家具の内紛、マクドナルドといった辺りは、関係する人にとっては大ごとでも、ニュースを見る人からすれば他人事でした。東芝やタカタなど、世界規模に発展した不祥事もあり、実際にはかなり大きな事件ではあっても、一般人一人一人の生活に直結するものではないことが、覚めた反応を呼んだともいえます。

そんな中、けっこう大きく燃え上がったのは東京オリンピック・エンブレム盗作騒動です。これはクリエイターが有名広告代理店出身かつ身内の広報対応がしくじり、典型的な炎上を呼んでしまったという点で、逆に2015年では珍しく普通の騒ぎとなりました。

一方芸能人のスキャンダルも小粒だったことから、これまた記憶に残る芸能人謝罪会見も少なかったのが2015年です。芸能人元夫婦間の子供のDNA鑑定や薬物汚染等、それなりに注目されましたが、後味の悪い印象を残しただけで消えていきました。


・2015年は謝罪の不発か?
このように記憶に残る謝罪会見が乏しいことをもって、謝罪は不作だったということでしょうか?実は逆です。企業は不祥事対応能力・危機管理能力を上げてきたといえるかも知れません、これらをすべて意図して組み立てたものであるとするならです。

企業による謝罪では、筆者もコーポレートコミュニケーション・コンサルティングの一環で何度も関わっています。印象に残らず謝罪の事実を残すことは、成功の一つなのです。痛ましい事故や多数の被害者が出たような場合は非常に難しくはなりますが、それでもトラブル処理として謝罪から逃れることはできません。そうであれば批判覚悟でしっかり謝罪をし、その上で印象に残らず謝罪が終えられるように持っていくことは成功の一つなのです。

私は謝罪というコミュニケーションの目的は事態の鎮静化であると、拙著「謝罪の作法」で訴えています。2015年の謝罪会見の記憶がどんどん薄れていくようであれば、企業のコーポレート・コミュニケーションとしては精度が上がっていると考えることができます。