ミランの本田。ここ試合6試合、連続出場しているが、いずれも交代出場で、しかも残り数分になってから。1試合平均7分+アルファ(ロスタイム)に過ぎない。

 交代は基本的にチームを活性化するために行われるものだが、本田の交代にはそうした気配があまりしない。どこか不自然。残り数分で図ったように登場する姿は、試合展開とは関係なく、当初から決まっている約束事に見える。

 売り時が迫っているーーとは率直な感想だ。それは12月に再開する欧州の移籍マーケットを意識してのものだと。本田を少しでも高い金額で売りたいミラン。そのためには、その商品価値を少しでも高めておく必要がある。数分間の出場は、営業サイドの要求を、現場サイドが受け入れた結果と考えるのが自然だ。

 CSKAモスクワからミラン入りしたのは2年前。この時は、契約満了による移籍なので、移籍金は発生しなかった。したがって、次に移籍する際には、移籍金(違約金)は高くならない。

 ちなみに2009年末、VVVフェンロからCSKAモスクワ入りした際に発生した移籍金は900万ユーロ(約12億円)。CSKAがその大金をフェンロに支払った理由は、何年後かにそれ以上で売る自信があったからだと思われるが、結局それは適わなかった。2013年末に契約満了を迎え、ミランに無料で売ることになった。

 ミランとの契約は3年半。それ以前に売ることができれば、ミランは相手クラブから移籍金を受け取ることができる。

 もし、ミランが契約延長を望むなら、いまこそが交渉のタイミングになるが、最後の数分に判で押したように出場する、いまの本田の使われ方は、試合内容の向上というより、商売上の都合が優先したもので、ミランに契約延長の意思がないことの表れとみていい。

 現在29歳。階段を上がるか、下がるか、確率は半々の年齢だ。移籍先はだからこそ気になる。本田は落ちていくのか、上がっていくのか。だが、その評価はとても難しい。どのクラブがミランより上で、どのクラブがミランより下か、判然としない状況にあるからだ。

 難しくしている原因は、ひとえにミラン側にある。その凋落の幅が大きいことに尽きる。

 例えば、CSKAモスクワ。本田がこのチームからミラン入りした時、誰もがミランの方が格上のクラブだと思った。2階級ぐらい特進したと思っていた人は多かったはず。だが、その時、すでにミランは激しい右肩下がりの渦中にあり、本田加入後の2年間で、さらにランクを下げた。現在(11月27日)、CSKAモスクワのUEFAクラブランキングが36位なのに対し、ミランは24位。だが、CLに出場中のCSKAがポイントを伸ばしている今季の現状を踏まえれば、近い将来同点、逆転もあり得そうな雲行きだ。

 急降下中のミランが、周囲との比較を難しくさせているのだ。その混沌とした中に、本田はすっかりはまりこんでいる。

 中田英はペルージャ、ローマ、パルマ、ボローニャ、フィオレンティーナと渡り、ボルトンでのプレイを最後に引退した。下りの階段を迎えたのは、パルマ以降。これ以上、階段を降りたくないとの思いが、引退を早めたのではないかーーとはこちらの推測だが、その時、彼は29歳だった。本田と同じ年齢で中田英はスパッと引退した。

 中田英と対照的な姿を描くのは、日本サッカー界のもう一人のスター、三浦カズ。49歳になる来季も、現役を続ける予定だという。

 本田はカズ派かヒデ派か。

 カズが頂点を迎えていた頃、その将来について、思いを巡らしたことがある。下りの階段を降りていく姿は、その時、イメージできなかった。黄昏ていく姿が誰よりも似合わない選手に見えた。ところが実際はその逆。黄昏れていく自分自身と、いい感じで向き合うことができている。自分自身をどこか半分笑うことができていそうな余裕を感じる。