ソフトバンク・工藤公康監督【写真:編集部】

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投打の軸を信頼し使い続けた工藤監督

 9月17日、ソフトバンクホークスがパ・リーグ史上最速でリーグ優勝を決めました(1964年の南海と95年のオリックスの同19日を抜いてパ最速、※前後期制を除く)。圧倒的な強さを見せ、他チーム監督も脱帽するコメントを報道陣にもらしていました。中でも「層の厚さ」を指摘するコメントが多かったような気がします。確かに育成システムや新人発掘が上手くいっています。

 振り返ってみると、春先からベテラン選手で投手の軸である摂津正投手、4番打者として大いに期待された内川聖一選手の不振もあり、不安を抱えたシーズン当初であったと記憶しています。しかし、工藤監督がすごかったのは、長いシーズンと考え、この2人がケガで戦線離脱するまで軸とし使い続けたこと、さらに復帰後もまた同じ立ち位置に戻したことです。

 あれだけ周りに良い投手がいて、摂津に取って代わるような存在がいたにも関わらず、ローテーションを崩さなかった。内川にしても、李大浩選手や柳田悠岐選手、松田宣浩選手という打者たちが内川を凌ぐ活躍をしているわけですから、なおさら4番に固執しなくてもいいはずです。

 しかし、指揮官として、「このチームのリーダーは誰だ。一番信用している選手は君たちだよ」と1年間ぶれなかった。それによってチームの支柱が決まり、監督の方針がぶれないことで選手にも安心感が生まれ、優勝に繋がったのではと感じています。

 最下位にいるチームを見てみると、おそらく打線の組み替えを頻繁にしていたに違いありませんし、ローテーションがきっちり回っていなかったことは明白です。ここ数年前にあれだけ強さを見せた楽天にいたっては、日替わりで打線が変わり、若手の選手の起用にしても、我慢をしてという使い方は見当たりませんでした。監督の差と言えばそれまでですが、球団のフロントも含め、チーム方針が明確になっていないのだなと映るのは私だけではないでしょう。

信頼関係こそがチームの柱、ソフトバンクと日本ハムの差は…

 プロ野球選手ですから、結果が出せなければプロではないという考えもあるでしょうが、プロ選手も一人の人間です。特に男気のあるスポーツマンばかりですから、心を揺さぶる采配は必要になってきます。「監督を男にするためにやってきました」と優勝したチームの選手がよく口にしますが、その言葉に嘘はないと思います。監督(スタッフ)と選手の信頼関係こそがチームの柱となるということはチームスポーツである限り当たり前の話であるはずです。

 科学的トレーニングや分析を駆使してなどの話題が先行しますが、それはあくまで方法論であって、勝てるチームは、要は選手のやる気というメンタル的な要因が大きいものです。そのために、監督は日常から選手とコミュニケーションを図り、繰り返し期待感を伝える努力をし、さらに試合で結果を出し、自分の発言の正しさを証明していくわけです。そのサイクルを重ねることで強靭なチームが出来上がります。そのような意味では、信頼関係が構築できている間はしばらくソフトバンクの時代が続くなという感じはします。

 日本ハムもソフトバンクと同じように育成もしっかりしている良いチームです。日本ハム・栗山英樹監督も選手からの信頼を勝ち取っていると言えるでしょう。では、その差はと問われるとチームリーダーの存在の差だと思います。

 中田翔選手、大谷翔平選手が年齢的に若いこともあってか、その役割を果たせていません。この2人がチーム内で発言権を得た時には、日本ハムが今のソフトバンクの立場になると思いますよ。

ホークス工藤監督との共通点感じさせるヤクルト真中監督

 アメリカではGM(ゼネラルマネージャー)が絶対的な権力を持って、監督はGMとのコミュニケーションにより、采配を振るっていくことが慣例ですが、日本プロ野球では、監督の発言が絶大すぎて、時に暴走してしまうことが多いように思います。

 指導者とは、選手が気持ちよくプレーできる環境を作り上げることが使命です。今回の工藤采配は、アマチュアにとっても良いお手本になったと思います。

 逆にプレーヤーは、自分の失敗を監督やコーチに責任転嫁せず、失敗したのは自分が下手だからだという気概で日々取り組まなければなりません。先日、あるイベントで元オリックスの田口壮氏と会話をする機会がありましたが、「下手くそなんで、練習するしかなかったんですよ」と言っておられました。プロでもそう思っているのですから、アマチュア選手にもこういう気持ちを常に持っていてもらいたいです。

 セ・リーグは、優勝争いが混沌としています。ヤクルトは、ソフトバンクほど戦力は充実していませんが同じ匂いを感じますね。真中満監督とはアマ時代に全日本合宿で練習をしたこともあり、人柄を拝見していますが、非常に人から慕われる人徳を持っているなと感じています。優勝争いをしているチームが、正念場でどのような力を発揮して抜け出すのか楽しみですね。

小島啓民●文 text by Hirotami Kojima

1964年3月3日生まれ。長崎県出身。長崎県立諫早高で三塁手として甲子園に出場。早大に進学し、社会人野球の名門・三菱重工長崎でプレー。1991年、都市対抗野球では4番打者として準優勝に貢献し、久慈賞受賞、社会人野球ベストナインに。1992年バルセロナ五輪に出場し、銅メダルを獲得。1995年〜2000年まで三菱重工長崎で監督。1999年の都市対抗野球では準優勝。日本代表チームのコーチも歴任。2000年から1年間、JOC在外研修員としてサンディエゴパドレス1Aコーチとして、コーチングを学ぶ。2010年広州アジア大会では監督で銅メダル、2013年東アジア大会では金メダル。侍ジャパンの台湾遠征時もバルセロナ五輪でチームメートだった小久保監督をヘッドコーチとして支えた。2014年韓国で開催されたアジア大会でも2大会連続で銅メダル。プロ・アマ混成の第1回21Uワールドカップでも侍ジャパンのヘッドコーチで準優勝。公式ブログ「BASEBALL PLUS(http://baseballplus.blogspot.jp/)」も野球関係者の間では人気となっている。