苦しい戦いが続くヤンキース【写真:田口有史】

ヤンキースは「1・1%」の奇跡を起こせるか

 ヤンキースがかつてない危機に瀕している。投手陣の柱である黒田博樹が先発した9日(日本時間10日)のレイズ戦に敗れ、73勝69敗でブルージェイズに抜かれてア・リーグ東地区3位に転落。首位のオリオールズとは11ゲーム差となり、ワイルドカード圏内のロイヤルズ、タイガースとも5・5ゲーム差となった。プレーオフ進出への希望は、もはや風前の灯火となっている。

 昨年も地区3位に沈んだヤンキース。2年連続でプレーオフ進出を逃せば、1982年から1994年まで13年連続で“10月の戦い”から遠ざかった低迷期以来、20年ぶりの屈辱となる。

 残り試合で奇跡を起こす可能性はどれだけ残されているのか。参考までに、ワイルドカード枠が2チームに拡大された2012年以降のア・リーグのプレーオフ進出チームが残した勝敗を見てみよう。

 2012年は、東地区のオリオールズと西地区のレンジャーズがワイルドカードを手にしている。2チームともに93勝69敗とハイレベルな争いで、プレーオフ進出チームで最も勝率が低かったのは、中地区優勝のタイガースで88勝74敗だった。

 さらに、昨年のワイルドカードはインディアンスとレイズ。インディアンスは92勝70敗、レイズは91勝71敗で並んだレンジャーズとの決定戦を制し、勝ち上がった。各地区の優勝チームは、この勝率を上回っている。最近2年間でプレーオフ進出を果たした延べ10チームでは、2012年のタイガースが最も低い勝率だった。

 仮に、ヤンキースが昨年のレイズと同じ勝率に到達しようとした場合、残り20試合を18勝2敗という圧倒的な成績で乗り切らなければいけない。2012年のタイガースと同じ88勝が最低ラインと見ても、15勝5敗。すでに崖っぷちに立たされている。

 野球専門のデータサイト「ファングラフ」は、ヤンキースが地区優勝する確率を9日時点で0%と算出。ワイルドカードでのプレーオフ進出も1・1%と見ている。もはや奇跡と呼ぶにも厳しい状況だ。

ジラルディ監督は「全部の試合に勝つしかない」と悲壮の覚悟

 今季のヤンキースは、開幕ローテーションに入った5投手のうち、黒田を除く4投手が負傷。前半戦で圧倒的なパフォーマンスを見せ、チームを支えていた田中将大も右肘靱帯部分断裂で長期離脱を余儀なくされた。さらに、打線では新加入のブライアン・マッキャン、カルロス・ベルトランは期待外れ。ジャコビー・エルズベリーは及第点の成績を残しているものの、好不調の波が激しい。今季限りでの引退を表明しているデレク・ジーター、主砲のマーク・テシェイラには衰えが目立つ。

 現在、先発陣は開幕当初に乗り切れなかった黒田の復調、7月のトレード期限までに獲得したブランドン・マッカーシー、クリス・カプアーノ、新人のシェーン・グリーンの奮闘などで、何とか持ちこたえている。4月下旬に離脱したマイケル・ピネダも、8月に復帰してから素晴らしいパフォーマンスを見せている。

 ただ、打線は湿りきっている。開幕前は控えと見られていたイチローはハイレベルな打撃を見せているが、7月に獲得した選手も起爆剤とはならなかった。チェイス・ヘッドリーは下降線を辿っており、チームを牽引する活躍を見せていたマーティン・プラドも太ももを負傷して一時離脱。スティーブン・ドリューは打率1割から上がる気配が見られず、定位置を確保できていない。いくら投手陣が踏ん張っても、援護なく敗れるという試合が続いている。

 今季の戦いぶりを見ると、来季以降に希望の光を見いだすことも難しい。ただ、米メディアの報道ではブライアン・キャッシュマンGMの続投が濃厚とされている。ジョー・ジラルディ監督も今季が4年契約の1年目で、チームに大きな変化は望めない状況だ。さらに、強烈なリーダーシップを持つジーターがいなくなれば、チームへの影響は計り知れない。不安要素ばかりが目立ち、立て直すための術は見えてこない。

 ジラルディ監督は9日の試合後に「(残り)全部の試合に勝つしかない」と悲壮感を漂わせた。絶望的な状況からプレーオフ進出を果たせば、名門球団に漂う危機的な雰囲気を変えるための起爆剤になるかもしれない。「1・1%の奇跡」が起こる可能性はあるのだろうか。