もしも科学シリーズ(62):もしも調理器を使って充電するなら


今年1月、あるスマートフォンが電子レンジで充電できると話題になった。結論から言えば全くのウソで、故障させてしまった人が続出した。



家電を使って充電する方法はあるのだろうか?IH調理器を改造すれば何とか充電できそうだが、電子レンジもガセではない。電力のワイヤレス移送は、それほどまでに面倒なのだ。



■充電器で健康被害?



スマートフォンの普及により、どこでもwebやメールが利用できるようになった反面、パソコンのようにブラウザを使い続けると機種によっては半日程度しかもたず、日に何度も充電するのも煩わしいと感じる方も少なくないだろう。



そこで考えられたのがワイヤレス充電で、この方法なら充電器の上に置くだけで充電できる。かかってきた電話もすぐに受けられるし、ケーブルが這い回るうっとうしさもない。これが転じて電子レンジ充電に発展したのだろう。



ケーブルをつながずに電気を送るなら、電波、光、磁力が現実的だ。



テレビやラジオに使われている電波は、アンテナに捕まると電気に変わり、これが音声や画像の信号として利用されている。つまり電波とアンテナがあれば発電できるのだ。ただし微弱な電力しか取り出せず、複雑な処理や大きな音は作り出せない。



ゲルマニウムラジオのように電源不要のラジオもあるが、イヤホンを鳴らす程度のエネルギーしか取り出せないので、これを充電すると完了するまで年単位の時間を要してしまう。



強力な電波を使えば短時間で充電できるようになるが、人体への影響が問題となる。総務省の資料によると、100KHz以下の低周波電磁界は人体に刺激を、100KHzを超える高周波電磁界は熱さを感じるというのだ。



そのため電波の強さを規制する「電磁界強度指針」が設けられ、基準を超える装置は柵などを設け、一般の人が近づけないようにするよう定められている。置くだけ手間なしのワイヤレス充電が、柵の向こうではかえって面倒くさいことになってしまう。



光を使ったらどうなるのか?太陽電池パネルを使えば安全に充電できるだろうが、携帯端末に大型のパネルは取り付けられないので、光を強くするのが現実的だ。効率を考えるとレーザーが妥当だが、直視すると目を痛める恐れがあり、急速充電のようなレベルに上げると充電器が凶器と化してしまうので、やはりNGだ。



製品化されているワイヤレス充電は、磁力を用いた方法が主流だ。コイルに電気を流すと磁力が生まれて電磁石となるのはご存じと思うが、逆にコイルに磁力を与えると発電機の役割を果たすからだ。



永久磁石とコイルを使えば簡単にできそうだが、発電はコイルが受ける磁力が変化している時に限られるので、2つを並べておいただけでは発電しない。そのため、充電器が発する磁力を強弱させるなど、常に磁力を変化させるのがポイントだ。



この構造はIH調理器と同じで、変化し続ける磁力を与えると金属が熱を持つ性質が利用されている。目的も出力も全く異なるこの2つは、磁力の変化という点で共通している。つまり、IH調理器を改造すれば携帯端末の充電器として利用できるのだ。



焦点は周波数と出力の2点で、どちらも端末側に合わせる必要がある。許容量を超えればコイルが過熱し、電子レンジ同様に黒焦げになってしまうからだ。そのため、磁力を弱めサイクルを変えれば優秀な充電器に生まれ変わるが、調理ではコップ一杯の水がわくのに数時間かかることになる。



それに意味が見いだせる場合に限り、充電器に改造すべきだろう。



■レンジでチンして充電完了?



電子レンジ充電はまったくのガセではない。むしろ電子機器メーカーが大まじめに考えた方法で、米国特許商標庁(USPTO)にも認められた技術だ。それなのにどうして端末が燃えてしまうのか。答えは単純明白で、受ける側にその機能が盛り込まれていないからだ。



電子レンジの発する電磁波を受け止めれば許容量を超えた電流が流れ、回路はおろか基板や構造体まで焼き尽くしてしまう。太陽フレアで送電網が故障するのと同じ原理だ。動画サイトでは、電子レンジ内のスマートフォンが泡を吹く様子が映し出されていたが、非対応の機種なら確実に二の舞となるのでご注意を。



■まとめ



出力が大きく普及率も高い電子レンジは、充電器にふさわしい存在だ。



コンビニで携帯をチンしてもらって充電する日が来るのかもしれない。



(関口 寿/ガリレオワークス)