日本球界復帰も取り沙汰されていた松坂大輔投手の今季所属チームがようやく決まった。クリーブランド・インディアンズだ。だが残念ながらメジャー契約ではなく、マイナー契約となる。それでもスプリット契約となっており、メジャー昇格を果たしインセンティヴ内容をクリアすると年俸は最大で400万ドルとなる。マイナー契約の詳細な内容は不明だが、ただハッキリしているのはメジャーに昇格したとしても、インセンティヴ内容をクリアすることができなければ、年俸は150万ドルとなる。1000万ドル以上もらっていた2012年までと比較すると、まさに雲泥の差だ。

クリーブランドという街はオハイオ州にあり、レッドソックスが本拠地を構えているボストンの西に位置している。広大なアメリカという国で考えればボストンからクリーブランドはそれほど遠い距離にあるわけではない。それでも今季は単身赴任となる松坂投手にとっては、生活面での不安は大きいのではないだろうか。家族の元を離れ、単身クリーブランドでのマイナー生活。もちろんすぐにマイナーからメジャーに昇格してくるだろうが、生活面に於いては今季は松坂投手にとって過酷な一年となるかもしれない。

しかし、だからと言って家族の支えがないわけではない。松坂投手の夫人も昨年まで継続していたブログを終了し、落ち着いて家族をサポートする態勢を整えている。離れ離れの生活になったとしても、松坂投手には温かい家族の存在があり、そしてそれは復活までの非常に大きなモチベーションとなっていくはずだ。「松坂はもう終わった」という者もいる。だが決してそんなことはないと筆者は断言しよう。

多くのメディアでも語られている通り、肘の腱移植をした投手は術後2シーズン目に復活を遂げることが多い。だがこれはあくまでも統計論であり、科学的根拠があるわけではない。例えば関節可動域や筋力の状態などは、メジャー復帰している段階で通常に戻っている。つまり術後2シーズン目に劇的に何かが回復するというわけではないのだ。ここで考えられるのは体の状態ではなく、体の記憶だ。体は、脳以外にも記憶能力がある。マッスルメモリーだ。同じ動作を反復することによって運動習熟された動作はマッスルメモリーに記憶される。もしかしたらその記憶がしっかりと戻り始めるのが、術後2シーズン目というタイミングなのかもしれない。

このオフ、レッドソックスを自由契約となった松坂投手の獲得を目指した日本の球団は複数あった。だが松坂投手は日本復帰というカードを選択肢に加えることはしなかった。これは本当に素晴らしいことだ。成績を残せずすぐに日本復帰してくる元メジャーリーガーたちと比較すれば、これはまさに賞賛すべき決断だ。日本を飛び出してメジャー挑戦する選手たちには、メジャーで引退をするという覚悟を持って海を渡ってもらいたい。そもそもメジャーから戻ってきた日本人選手たちの中で、帰国後もメジャーリーガーとしての高い能力を発揮した選手はいない。佐々木主浩投手にしろ、城島健司捕手にしろ、帰国後に高額年俸を得た選手は故障によりすぐに引退を余儀なくされている。

筆者は、松坂投手にはメジャーリーガーとして、メジャーリーグで燃え尽きてもらいたいと願っている。引退後はコーチや監督として日本に戻ってくるとしても、現役であるうちは最後の最後までメジャーにこだわってもらいたい。例えば松井秀喜選手のように。松坂投手は怪物と呼ばれた男だ。怪物なら怪物らしく、最後まで怪物らしくあってもらいたい。高額年俸に甘えて日本復帰するような選手になってもらいたくはない。そう願っているからこそ、筆者は松坂投手の今回の決断を非常にリスペクトすることができたのだ。マイナー契約だったとしてもメジャーにこだわり続ける。松坂投手のその姿勢に胸を打たれたのだ。

インディアンズはアメリカンリーグの中地区に在籍している。つまりイチロー選手が所属するヤンキースと対戦することも少なくなく、インディアンズの今季はまさにそのヤンキース戦から始まる。もし松坂投手が開幕までにメジャー復帰することができれば、我々ファンは再びイチローvs松坂という名勝負を目にすることができるのだ。西武・オリックス、レッドソックス・マリナーズと来て、今度はインディアンズ・ヤンキースというユニフォームの中で二人の対戦をまた目にすることができる。

現在インディアンズを率いるのは、テリー・フランコナ監督だ。彼はメジャー1年目の2007年から2011年までの松坂投手を、レッドソックスの監督として見続けてきた。つまり松坂投手のことを誰よりも知り尽くし、松坂投手の能力の高さもよく分かっている理解者だ。そのフランコナ監督のもとで再びマウンドに立てる可能性を得た松坂投手がこれから歩む道は明るい。だがその道は険しいだろう。ボストンで投げることがあれば、罵声を浴びることもあるだろう。だがそれらの苦難をすべて乗り越え、松坂投手にはもう一度18勝を挙げた2008年の輝きを取り戻してもらいたい。そう、松坂投手にはメジャーで18勝3敗という成績を残せるだけの能力があるのだ。その能力が失われていない限り、再び呼び起こすことができるならば今季、松坂投手は必ずクリーブランドで復活を果たすことになるだろう。少なくとも筆者はそれを信じてやまないのである。

最後にみなさんに、松坂投手が今季復活できると思うかどうかを聞いてみたいと思います。日刊埼玉西武ライオンズfacebookページより回答をお願いいたします。