家計の病気119番【年収300万円世帯】
Aさんの悩み
正社員として就職できなかったため派遣社員として働いている。一定期間で雇用契約が切れるので、次の仕事が見つかるまで収入が途切れることがある。そこで「失業に備えて貯蓄をしたい」のだが、家計のどの部分を削ればいいのかがわからない。子どもが生まれたばかりのため、妻は当分の間、子育てに専念することになりそう。
藤川太のアドバイス
非正規雇用者の多くは、年収300万円前後の収入しか得ることができずにいる。正社員を目指している者もいるが不況の中、職はなく現状維持するだけで精一杯という状況だ。
一般に収入が低い家庭のほうが見栄を張ったり高望みをしないためにしっかりとした家計がつくれるものだが、Aさんほど収入が低いと、家計簿の各費目に最低限の予算をつけることすらできなくなる。
家計簿の各費目を見て、まず気になる点は収入に対して食費が突出して高いこと。家賃とほぼ同額だ。自炊の割合が低くコンビニ弁当の利用や外食が多いためだが、「遊園地や旅行へ行く余裕がないのでファストフード店へ行くことが娯楽の代わり」という事情もある。通信費も高い。携帯電話は仕事を受けるための必需品とはいえ、無用な通話も多いようだ。料金プランは加入当初のまま見直したことはないという。
逆に少ないのは保険と貯蓄。低所得者層は保険を掛け金が安く保障が薄い共済だけで済ます世帯が多い。高い保険料を負担する余裕がないことが主な理由だが、夫に万が一のことがあったときのことを考えると、遺された妻子がある程度の期間は生活できる程度の死亡保障はかけておきたい。この家庭では子どもの教育資金用の学資保険の保険料として1万円、医療保障が中心で死亡保障400万円の共済の掛け金2000円を2人分支払っている。
また現状では貯蓄がほぼゼロだが、できるだけ早く年収相当分程度は貯めて、失業や病気などによる休業に備えるべきだ。
このようなポイントで家計を見直してみよう。
食費を削るために、できる限り安い食材を買って自炊すること。これには妻の協力が不可欠なのでじっくりと話し合おう。今回は外食が娯楽を兼ねていることを考慮して2万円減の4万円としたが、できれば3万円に抑えたいところ。まだ子どもが小さいのだから、娯楽を兼ねた食事は外食しなくてもできるはず。
通信費は料金プランの見直しや割引プランの利用、不要な有料番組の解除をして現状の2万2000円(1台1万1000円)を1万6000円(1台8000円)の必要最低限の出費に抑える。もし携帯電話端末を分割払いプランで購入しているのなら、支払いの途中で新機種に乗り換えずに払い切り、完済後も3年、4年と使いたい。
保険は学資保険と医療保障目的の共済はそのままにして、新たに夫の死亡保障3000万円の定期保険に入る。満期は60〜65歳まで欲しい。毎月の保険料は1万4000円から1万9000円へ5000円増えるが、夫に万が一のことがあったとき妻子は共済と合わせて3400万円の保険金を受け取ることができるようになる。
子どもが生まれてすぐに加入した学資保険は元本割れが目に見えているので不要に思えるが、貯蓄ができない家庭であれば、次善の策として保険を使って強制的に教育資金を積み立てていくことも必要だ。
夫の小遣いはその他の費目に1万円計上している。この金額自体は妥当だが、実は落とし穴があった。Aさんはイベント好きで妻や友人の記念日にプレゼントを贈っている。それはいいのだが、小遣いから出費せずに被服費や食費など他の費目から出させていた。これでは家計がもたないので、今後は小遣いの範囲内に収めるようにしたい。
食費と通信費の見直しと“隠れ小遣い”の洗い出しで2万6000円浮くので、それを預貯金2万1000円、保険料5000円に振り分ければ当面の生活は安定するだろう。
ただし都市部で年収300万円の生活は厳しい。派遣社員のままでは将来の収入増も期待できない。夫は正社員になる努力を続け、妻は子どもを保育園に預けて働くべき。
できることなら実家に戻って親と同居するのが一番いい。住居費や食費などの負担が減り、子どもの面倒も見てもらえるために共働きができる。今世の中が核家族から大家族に転換しつつある背景には、子ども世帯が自分たちの収入では暮らせないため実家に身を寄せるケースが増えたという厳しい現実があるのだ。
年収300万円世帯が
陥りやすい家計の病気
携帯依存症
症状:携帯電話が手放せず、ささいなことでも電話したりメールしてしまう。新機種が出るたびに欲しくなる禁断症状も出る。
原因:料金プランの見直しをしていない。物欲が我慢できない。
治療法:20代と30代に多い。携帯電話を通じてしか他者とのつながりが維持できず、携帯電話のない生活は考えられないという人がかかる傾向がある。所得の多寡はあまり関係ないが、低収入世帯ほど家計的には深刻な問題となる。携帯電話を手放すことが一番の治療法だが、強い禁断症状が出やすいので、まずは定期的に料金プランを最適化したり、固定電話が使えるなら優先的に使うなどしてコストを下げる努力が必要だ。メールの活用も有効だが、メールのやり取りに時間を取られすぎないように注意。
高エンゲル係数症
症状:家計の消費支出に占める食費の割合が高くなると発症しやすい。食費は生活に必ず必要な費用で一定以上は下げにくいことから、一般的に所得が低い層ほどかかりやすい病気と言える。
原因:外食が多い。献立を決める能力が低い。
治療法:外食を減らして自炊することが最良の治療法。事前に献立を決めずに、その日に店で安く売られている食材から献立を考えよう。それには経験と知識と技術が必要になるため、すぐにはうまくいかないだろうが、食材を無駄なく活用して、おいしい料理ができたときには、大きな達成感を感じられる。外食が娯楽になっている場合は、公園などの公共施設を活用して、お金のかからない娯楽を探す。晴れた日に弁当持参で子どもと屋外で遊ぶことが、ファストフード店よりずっと楽しいと気がつけばしめたもの。
※すべて雑誌掲載当時