ドイツでは年末年始にウインターブレイクがある。前半戦の戦いぶりを冷静に分析できる期間であり、この休暇をどう過ごすかによって後半戦の展望も見えてくる。特筆すべき動きを見せたボルシアMG、ヴォルフスブルク、そしてハンブルガーSVに対し、現地記者が下した評価とは?

Text by Dirk GIESELMANN, Translation by Alexander Hiroshi ABE

■サッカーから離れた本当に退屈な日々

 いきなりだが一つ問題を出そう。「ブンデスリーガと熊の共通点とは何か?」。答えは「どちらも冬眠すること」。クリスマスや大みそか、そして元日を問わずに試合が行われるイングランドやスペイン、イタリアとは違い、ブンデスリーガは12月中旬からウインターブレイクに入る。文字通り“冬眠”するわけだ。この間、選手は一般の人々と同じように自宅でくつろぎ、1カ月後に再開される後半戦に向けたトレーニングキャンプで体調を整え直す。

 ドイツの冬は寒さが厳しく、雪が多い。ウインターブレイクが導入されたのは、元々はそんな理由からだった。しかし地球温暖化の影響でドイツの冬は年々暖かくなる傾向にある。たとえ雪が降ってもほとんどのスタジアムに全天候型の屋根が備わっている上に、芝生の下には雪を溶かす温水パイプが敷設されているのだから、その気になれば試合開催に支障はないはずだ。

 ところが、ブンデスリーガの18クラブはどこもしっかりと年末年始の休暇を取り、サッカーから離れた日々を過ごしている。こうなると困るのが我々メディアの人間だ。新聞は書くネタが全くなくなり、仕方がないのでスキー関連のニュースを簡潔に伝え、ドイツ人には関心の低いテニスの話題をオーストラリアから送って暇潰しをする有様。サッカーのない日々は本当に退屈なのだ。

 こうしたことから、ファンの多くは近年、ウインターブレイクの廃止を訴えている。彼らにとっては、年末年始の過密日程を生み出しているイングランドの「ボクシング・デー」がうらやましくて仕方ないのだ。また、組み合わせの偶然にも起因しているが、今シーズンはスペインのコパ・デル・レイでレアル・マドリーとバルセロナのクラシコがあり、またイタリアではミラノ・ダービーが行われるなど、ブンデスリーガが冬眠している間に各国で注目度の高い戦いが繰り広げられた。普段はスペイン人の昼休みの長さに文句を言っているドイツ人が、真冬のこの時期に一人寂しくシエスタ(午睡)を楽しんでいる。何とも皮肉な現象ではないか。

 それでも、1月になると移籍マーケットが開き、うかうかと眠ってもいられなくなる。どのクラブも新たな選手を獲得し、各地でトレーニングキャンプを開き、ようやく冬眠から覚めることになる。ドイツでは前半戦を首位で折り返したチームを「ヘルプストマイスター」(秋の王者)と呼ぶが、最終順位に大きな影響を与えるのは、ウインターブレイクの過ごし方だ。2008ー09シーズンのホッフェンハイムを例に挙げよう。前半戦は得点源のヴェダド・イビシェヴィッチが17試合18得点とゴールを量産して、チームは快進撃を続けた。しかし、イビシェヴィッチが負傷で長期離脱すると状況は一変した。冬の補強で同等の実力を持つ代役を獲得することができず、チームの勢いも消滅。第19節の時点では首位にいたにもかかわらず、後半戦の失速により7位でシーズンを終えることになったのである。

 各チームは後半戦をどう戦うのだろうか。ここでは前半戦4位のボルシアMG、12位のヴォルフスブルク、そして13位のハンブルガーSVを取り上げて、それぞれの未来を占ってみたい。

■“お人よし”クラブの不可解な経営戦略

 かつての名門であるボルシアMGは昨シーズン、2部降格を阻止するのが精いっぱいという体たらくだった。そのため、今シーズンもほとんど期待されていなかったのだが、いざシーズンが始まると予想外の大躍進を遂げ、4位という好位置につけている。

 チーム自体はここまで大きなミスも不協和音もなく、順調そのもの。しかし、フロントはとんでもない失態を犯した。彼らは普通では考えられないような移籍話にゴーサインを出してしまったのだ。このチームの躍進を支えているのはマルコ・ロイス、ロマン・ノイシュテッターという中盤の2枚看板だ。ロイスは15試合で10ゴールとチーム最多得点を記録、17試合フル出場のノイシュテッターはボランチとして守備に安定感をもたらしている。しかしこの2人が、来シーズンにはドルトムントとシャルケに移籍してしまうのだ。2人の離脱はブラジル人DFのダンチ、ドイツ代表入りが近いと言われるGKマルク・アンドレ・テア・シュテーゲンの去就にも影響を与えており、この2人も今夏の移籍が濃厚と言われている。

 これについて、マックス・エーベアルGMはファンに対して「売却で得た移籍金を運用し、新たなチーム作りをする」と約束したが、現場を預かるルシアン・ファーヴル監督を大いに失望させたことは間違いない。ファーヴルは「私はここに頑丈な家を作ったつもりだ。しかし突然、何者かによって壁が壊されてしまった。こんな状態で『新しい壁を作れ』と言われても、やる気が出るかどうか……」と語り、クラブへの不信感を示している。地元紙は「ファーヴル、今シーズン限りで退団。バイエルン監督に就任か?」と報道。華々しいキャリアに欠ける彼にバイエルン就任の目はないにせよ、退団は現実味を帯びている。問題はその時期だ。仮に今夏、主力に続いて監督までもがチームを去るような事態になれば、その先の未来図は全く描けない。

 それにしても、このクラブはどうしてこれほど“お人よし”なのだろうか。過去40年間、彼らは未来への希望をその都度、自らの手で放出してきた。ギュンター・ネッツァー(→レアル・マドリー)、アラン・シモンセン(→バルセロナ)、ローター・マテウス(→バイエルン)、シュテファン・エッフェンベルク(→バイエルン)、セバスティアン・ダイスラー(→ヘルタ・ベルリン)、マルコ・マリン(→ブレーメン)と、数え上げればきりがない。いくら財政赤字を解消するためとはいえ、これだけの名手をあまりに安易に、そして早期に売り渡すとは、フロントの経営センスを疑わずにはいられない。そこに来て、今回のロイスとノイシュテッターの売却である。特にロイスについてはファンの新たな魂のよりどころとなっていただけに、失った悲しみは余計に大きい。クラブを支える自分たちよりも、選手を高値で買い取ってくれる交渉相手を重視するフロントに、彼らはいつまで振り回されなければならないのだろうか。

■旧態依然の指揮官にもはや未来はない

「ファンとの精神的結び付き? そんなものは知ったことではない」。フェリックス・マガトならばきっとそう言い放つだろう。頑固者で、滑稽にも映る旧式指導の成果を信じて疑わないヴォルフスブルクの指揮官の場合、選手の移籍の数においても彼ならではの合理主義が顔をのぞかせる。複数のチームを渡り歩いてきたマガトがこの7年間で移籍させた選手の数(加入選手、放出選手の述べ人数)は、実に125人にのぼる。今回のウインターブレイクでも11人を獲得し、10人を放出した。放出した選手のうち5人は昨夏に獲得したばかりの選手だ。

 マガトの移籍市場での哲学は「とにかく買う」の一言に尽きる。チームの定員がオーバーしようが全く気にせず、必要以上に頭数をそろえておく。そこには「金で勝利を買う」という下心が垣間見える。その独善的な方法を指し、世間はこんな例え話でマガトを嘲笑する。「マガトは妻に靴を買ってあげるかのように大量に選手を獲得する。だが妻は自分が気に入らない靴は履かないものだ」

 マガトにとって、選手とは“己の要望を満たすための部品”でしかない。彼の心にはセンチメンタルな感情など存在せず、ただひたすら金と権力を駆使して目的を達成したいだけ。この流儀は、チームをリーグ優勝に導いたバイエルンとヴォルフスブルクでは何とか通用していた。しかし09年にシャルケに移ってからは、ツキにも完全に見放された感がある。メディアは「運を使い果たした」と書いた。もちろん、それもあるかもしれないが、本当のところは何よりもまずマガトの審美眼の衰えと戦術の古さに原因がある。悪評だらけのマガトの下に、若手選手は集まらなくなった。仕方なく引退間近の選手を雇い入れるのだが、これがまたファンの失笑を買うようなプレーのオンパレード。ただ
でさえ“短期労働者”と“傭兵”の集まりである上、低調なパフォーマンスに終始するのだから、共感など得られるはずもない。ファンの足はスタジアムから遠ざかるばかりで、「マガト辞めろ!」の声も日増しに大きくなっていく。だが、当のマガトはそんな声に対してこうのたまった。「ファンの感情にまで責任は持てない」

 サッカーは見る者に喜怒哀楽の感情を与えるスポーツだ。そんなことも分からない男に率いられたチームに、明るい未来が待っているとは思えない。

■奇跡の復活を演出した指揮官の手腕

 こんなネガティブな話を続けていても意味がないので、最後は明るい話題で締めくくろう。これに最適な人物がハンブルガーSVのトルステン・フィンク監督だ。彼は他人の心情を理解できる優れた指導者である。長くバイエルンでプレーしたフィンクはエッフェンベルクやオリヴァー・カーンから多大な影響を受けてきた。そして高いモチベーションを切らさなかったチームメートから、「勝利を信じぬ者は、その時点で敗者となる」という哲学を学んだ。

 2勝1分け6敗の最下位という過酷な状況で、フィンクはハンブルガーSVの新監督に就任した。それまでスイスのバーゼルで大成功を収めていた彼が、あえて火中の栗を拾う決心をしたのは、恐らくバイエルンで学んだ哲学の信憑性を確かめる意味もあったの
だろう。

 ハンブルクに到着した彼をまず驚かせたのは、チーム内に漂う負のオーラとお互いをけなし合う険悪な空気だった。やる気も笑い声も消え失せ、勝利から見放された選手たちの内面は荒んでいた。「このままではいけない」。フィンクは選手と徹底的に話し合い、序盤の9試合で3度も監督が交代し、戦術もフォーメーションもめちゃくちゃだった状況を、順次整理していった。すべての選手を公平に扱い、長所を正当に評価し、外部の批判から彼らを守る姿勢を貫いた。こうしたフィンクの懸命な努力によって、楽観的な視点とプレーへの自信が復活した。そして“勝てないチーム”は“負けないチーム”へと変貌
を遂げ、4勝7分け6敗の13位で前半を折り返すまでになった。ブンデスリーガ創設以来、一度も2部に陥落したことのない国内唯一の名門クラブが、わずかな期間で奇跡的な復活を遂げたのである。「楽しければ幸せになれる」。私はフィンクのこの言葉を、ぜひとも“感情の冷凍庫”であるマガトにも知ってもらいたい。

 現在のハンブルガーSVは冬眠中の熊と同様、体力を蓄え、間もなく到来する春を待ち望んでいるところだ。休み明けの一戦目は王者ドルトムントに大敗したものの、チーム状況は上向きつつあり、序盤戦の最下位チームが最終的にヨーロッパリーグ出場権を得るというサプライズも起こせるかもしれない。ヨーロッパリーグ出場圏までは10ポイント。決して不可能ではないだろう。

 ボルシアMG=落日。ヴォルフスブルク=迷走。ハンブルガーSV=好機。これが、ウインターブレイク中に明らかになった、現在の3チームに対する評価である。1カ月の休暇中にはっきりと明暗が分かれるのは、ウインターブレイクが魔法のパワーを秘めているからだろう。

 そういえば、シャルケの元名物GMルディー・アッサウアーのジョークにこんなものがあった。「雪が解ければ、落とした宝石だって見付かる。運が悪いとフンを踏み付けることもあるけどな」。宝石を拾ったチームがどこで、糞を踏んだチームがどこか、みなさんにはご理解いただけたはずだ。彼らの後半戦の戦いぶりにぜひ注目してもらいたい。

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【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING(twitterアカウントはSoccerKingJP)』の編集長に就任。『SOCCER GAME KING』ではグラビアページを担当。

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