「危ない」と分かっていても ウィニー止められない理由
ファイル交換ソフト「ウィニー(Winny)」による情報流出が後を絶たない。2006年には、政府がウィニーを使用しないように呼びかけたり、開発者に対して有罪判決が下るなど、「逆風」は強い。それでも、ネットワーク上で稼働しているウィニーの数は減らないままだ。なぜなのか。
07年2月9日から10日にかけて「夕刊フジ」が報じた内容によると、東京都江戸川区の中学校に勤務する男性教諭(48)がウィニーで動画などをダウンロードしていた際にウイルスに感染、生徒160人分の個人情報が記載された名簿や、交際相手とのプライベート写真約80枚、交際相手とのメール約100通などを流出させた。教育委員会は、生徒の個人情報を流出させたことについて、処分を予定しているという。さらに悪いことに、この教諭が流出させた写真に写っていた交際相手が「きわどい姿」を晒していたことから、同紙では学校関係者の
「学校には来れないでしょう」
との声を紹介、事実上教師生命が絶たれたことを示唆している。
ウィニーの使用は減っていない
この事件以外にも、企業や官公庁から機密情報がウィニーを介して流出する例は後を絶たない。これを受けて、業界団体が注意を呼びかけているほか、06年3月には政府が「情報漏えいを防ぐ最も確実な対策は、パソコンでウィニーを使わないこと」と注意喚起している。
また、ウィニーを開発した金子勇被告は、著作権法違反ほう助の罪に問われ、同12月には、罰金150万円の有罪判決を受けてもいる。そんな状況でも、「ネットエージェント」が06年12月に行った調査によると、有罪判決後もウィニーのノード数(ウィニーをインストールして作動しているPCの数)に、目立った減少は見られず、8月の調査と比較しても、特に数が減少した様子はないのだという。
ウィニーが「危ない」とわかっていれば、普通は使うのをやめるはず。実際はそうなっていないのは、何故なのだろうか。ウィニーの、何が魅力なのだろうか。
書店のPC関連の書籍が並んでいるコーナーには、大手パソコン雑誌と一緒に、ファミコンソフトをPC上で動くようにする「エミュレーター」などの、いわゆる「裏系ツール」を紹介する本も並んでいる。その中に、ウィニーも紹介されていることが多い。これらの本では、ウィニーの使い方を8〜10ページにわたって紹介している。この部分だけを見ると、インストールにはかなり手間が掛かる印象を受けるが、それと一緒に、こんな「煽り文句」も書いてあるのだ。
映画やビデオ、音楽が無料で手に入る魅力
「『どんなファイルでも手に入る魔法のツール』―ウィニーには、まさにそんな言葉がふさわしいと言えるだろう。また、もうひとつマニアックな楽しみ方として、『流出した情報を集める』なんていうやり方もある」
そして、ご丁寧にも、ウィニーで流通している映画やわいせつ画像の例を、写真入りで特集しているのだ。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)のセキュリティーセンターでも、こう話す。
.「何故止められないのかは、ウィニー上で何が流通しているかを見れば分かりますよ。映画やビデオ、音楽データなどを無料で手に入れられる、という点が大きいのでは」
流通しているコンテンツの魅力故に、半ば「中毒状態」になってしまってウィニーを止められないでいるユーザーが多い、ということのようだ。
「リスクを認識しているのに何故ウイルス感染の事故が減らないのか」
というJ-CASTニュース記者の問いには、
「そもそもリスクなんて認識していないんです。みんな『自分だけは大丈夫』と思っている。当方では、ウイルス対策の一つとして、『出所が不明なファイルは開いてはいけない』とアドバイスしていますが、ウィニーで流通しているファイルは100%出所不明。欲を出して変なファイルを開き、ウイルスに感染するという例が多いです」
そんな中、文化庁の文化審議会著作権分科会は1月30日、審議の検討結果を報告書案としてとりまとめ、ファイル交換ソフトで著作物をダウンロードすることについて、「私的複製」の範囲から除外する必要性を盛り込んだ。つまり、これからは単にウィニーで著作権違反のデータをダウンロードしただけで、ウィニーのユーザーは著作権法違反に問われる可能性が高くなる、ということだ。
この規制強化が、ウィニーを止めるきっかけになるかもしれない。